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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

葉山三ケ岡風光絶佳

2018年04月01日 | 旅行
 先週末の早春桜の季節、三浦半島への旅をした。その二日目は、葉山町三ケ岡周辺のまちなみを巡る。寒さが緩み、空気が澄んで陽光がきらめくもと、県道207号からすこしそれて、住宅地のなかを縫うようにのびていく、風化した佐島石を積んだ擁壁の小径をあるいていくのはこのうえなく楽しいひとときだ。
 
 最初に訪れた山口逢春記念館は、新緑萌え出した三ケ岡を背景としてゆるやかな傾斜にいだかれるように、相模湾にむかって明るくひらかれていた。邸宅入口への小路の両側には、サクラ、モクレン、スイセン、ボケなどが盛りで、ゆっくりと玄関まで誘ってくれる。
 邸宅の中の展示は茶の湯がテーマで、逢春の小作品とお茶にまつわるコレクション、茶道具や陶器などが並べられていた。ここの記念館のメインはやはり、吉田五十八が設計した画室空間と相模湾方面にむかってひらかれた大きなガラス窓からのながめだろう。ことにソファにふかく腰をおろして庭をながめてくつろぐのが最高の贅沢だ。
 中庭には、甘夏のだいだい色の果実に足もとはシャガ、クリスマスローズなど、ミモザの木を見上げれば、その枝の先に黄色く色づきはじめた花房が半島の陽光にふさわしく、いまにも咲きだそうとしていた。その先には、これからの初夏に白い大きな花をつける泰山木とここの温暖な風土にあうのだろう、常緑のナギの木も大きく枝をひろげていた。イロハモミジは芽吹きまえで繊細な枝ぶりのさきにエネルギーを蓄えている。
 中庭から眺める画室は、三面のおおきなガラス戸と細身のベランダ手すりのシルエット、そのたたずまいは、すっきりとしてモダンなちいさな美の宝石箱のようだ。



 中庭でひと休みした後に記念館をでたら、住宅地をぬうようにのびる佐島石こみちをぬけていく。このさきにみえてきたのは、葉山を代表する別荘建築といえる旧加地邸だ。ひよこ色の外壁に銅ぶき屋根が年輪を重ねている。正面にたつと、同時期竣工の自由学園講堂との類似もみてとれる。
 昭和二年(1927)の竣工、大谷石の門柱、階段と玄関迄の床のアプローチへの印象が、芦屋にあるF.L.ライトの旧山邑邸(1924)を彷彿とさせるのは、同時期の木造と鉄筋コンクリートの違いがあるにしろ、その両方に弟子の遠藤新(1889-1951)が深くかかわっているのと、なによりもその得難い立地であり、丘の中腹から海に向ってひらけている素晴らしいロケーションだろう。
 若き建築家遠藤新が師ライトのもと旧山邑邸の実施設計で学びつつ試行したかったことを、数年後の湘南葉山の加地邸において、ようやく自身単独の設計で変奏しつつ、表現されているようにも思える。

 ここをあとにして、相模湾にむかって御用邸脇の砂道をぬけて一色公園へむかう。ぽかぽかと暖かくコートを脱いで、砂浜をのぞむ松林の丘の石に腰をかける。すぐ眼の前に、いつかいっしょに見たかった海面の眺めがひらけている。そこからのかたむきかけた春の陽光を反射した波幾重の瀬頭がきらめきいて、時の流れのままに美しい。ちいさく海上のさきに江の島、やがてもうすこしたてば、海のむこうにうっすら富士山のシルエットが浮かびだすだろう。

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