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原美術館「坂田栄一郎 ― 江ノ島」

2013年09月24日 | 日記
 20日、都内北品川の通称御殿山とよばれる高級住宅地の一角にある美術館に行ってきた。標題の写真展を見にいくため、そして20世紀初頭ヨーロッパ様式を取り入れたという、戦前の1938年に竣工した全体がバームクーヘン型にゆるく弧を描いた建物のたたずまいも魅力のひとつだ。設計は渡辺仁、銀座和光ビルや横浜ホテルニューグランド本館も手掛けている。
 
 20年ぶりくらいの訪問だろうか?品川駅を下車して、目の前が第一京浜道の品川プリンスホテル前を通り過ぎ、やがて御殿山ヒルズがみえて、三菱開東閣の正面口の反対側に原美術館方向を示した表示がある。そこを入るとすぐにユーゴスラビア大使館。美術館はそのさらに先の左側が入り口。隣の敷地には「原」の表札がかかっている。いまでも美術館に転用された邸宅の建築主、原六郎のご子孫が居住しているのだろう。

 原美術館の敷地は、元実業家の邸宅らしく前庭から広々している。玄関前にスダジイの大木があり、その先が入り口だ。受付では、“それらしい”雰囲気のある女性二人が受付に立っている。左手がミュージアムショップ、ここのロッカーに荷物を預けて、さっそく展示室へ。なんのキャプションもなく、江ノ島片瀬海岸でとられた砂浜の風景(おもに若者が砂上に残した衣類に持ち物、食べかすなどの痕跡)が切り取られて並ぶ。いわゆる静物写真=スティルライフだ。隣の展示室にいたるゆるく弧を描いた中庭カフェに面した壁には、ひたすら群青色の海面の揺れを連続して映した同サイズのパネルが等間隔で並ぶ。「江ノ島」と題されていなければ、その水面がどこでとられたか特定することはできない。次の展示室以降に並んだ、原色の色彩の静物写真=スティルライフも同様。何点かの若者ポートレートが混じる。みな、強烈な色彩を放っている。
 ここ御殿山の戦前の実業家邸宅を転用した空間での“江ノ島”若者風俗を16年にわたって追いかけた写真展、というシュチュエーション自体がドラマだ。館内には「江の島」の地理的説明などはいっさいなく“片瀬海岸”が写真の舞台であり、「江の島」は人々を無意識に引き寄せる磁場のような存在だろう。江ノ島はここではテーマでありながら、不在の存在という逆説。

 一階奥の出窓の小部屋からは裏庭が覗けて、そこに杉本博司の竹箒を組み合わせた垣根(これも作品か)をご本人の解説とともにみることができる。二階奥には奈良良智の“ドローイングルーム”と題した小部屋そのものが作品となった空間がある。正面の小窓からは木々の緑がそよいでいるのが望める。窓際の両袖に引き出しのあるシンプルな机にはスタンドがない。書きちらしたかのような作品、三角の天井と小さな天窓、壁の落書きにカセットテープ、未開封の小包など。一階にもどって、カフェの横から中庭へ。いくつかの現代美術作品、イサム・ノグチのアルミ?製のメキシコに自生するかのようなサボテンをかたどったオブジェ。振り返るとバームクーヘン型の緩く弧を描いたタイル張りの奇妙な存在感でせまる70年以上の年輪を重ねる本館。芝生の上に点在する白いテーブルとイス。周りの風格ある大木の緑。

 そこに今回の展示会のタイトル“江ノ島”を重ねてみる。やはり、本物の“江の島”(住所表記は「ノ」ではなく「の」)に行ってみなくては。それが原色の真夏をすぎた、たとえ初秋の季節であったとしても!


 

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