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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

皐月から水無月を跨いで 信州松本城下町  

2022年06月27日 | 旅行

 今月六日に梅雨入りした関東甲信地方だが、もう梅雨明けの本格的な真夏のような、ここ数日の急激な暑さと言ったらどうしたことだろうか。

 梅雨入り前の信州松本と、14日に梅雨入りした越後高田とふたつの城下町を旅してきた。隣接した県にありながら、対照的とも思えるふたつの城下町を訪れて歩いて巡ったこと見たこと、感じたことを思いのままに記してみる。まずは、先月末日からの月跨ぎ信州路の旅のあれこれから。

 信州松本を訪れるのは、2018年11月25日以来四度目になる。もうあれから四年が過ぎている。それが遠い前のことのようにも思えるし、あっという間の出来事のようにも思い返される。
 八王子からのあずさ5号が松本に到着したのは午前十時半過ぎ、駅前に降りてタクシーに乗り、車中の高揚感とともに不思議に安堵感を覚えるのは、そのときと同じ友が同行していてくれるからなのだろうか。以前泊まったことのある同じ松本ホテル花月に到着した時の懐かしい気持ち、また戻ってきましたよ、と語りかけたいくらいだった。荷物を預けたら、別館一階の「八十六温館」でのワンプレートランチでひと休み、松本に滞在するんだという気持ちにじわじわと馴染んでいく感じだ。

 このカフェのすぐ脇、本館とのあいだには豊かな水路が流れている。それはおそらく松本盆地を流れる伏流水がもとで、そのすぐさきの女鳥羽川に注いでいるのだろうけれど、涼やかである種の生命感を与えてくれている。そうして水路をはさんだ本館も別館も正面入口はお城側をむいていて、建物本体はすこし段差の下がった位置に高低差を正面口の高さにあわせて建てられているようだ。水路が流れているあいだの細い通路は外堀小路と呼ばれているらしく、いまは両側に建物の背後で挟まれていて、通りぬける人もいない。
 宿の隣、かつてにぎわいの名残りが感じられる鄙びた上土通りの角には、ちょっとした植え込みの中に東門の井戸が残っていた。女鳥羽川沿いの縄手通りにでる手前にも、辰巳の庭公園というところがあって、古い家屋に囲まれたいい感じの水路と植栽が整備されている。

 このあたりは観光客もちらほらと見かけるくらいで、落ち着いて滞在し散歩するにはもってこいのところだ。ここからは松本城公園も、女鳥羽川のむこうの老舗店が軒を連ねる中町通りへも、のんびりと歩いて行けるし、もうすこし足を延ばせば住宅地やお寺をぬけて、松本市美術館やまつもと市民芸術館、その先の旧制松本高校跡地、ヒマラヤ杉並木が立派で伝統を感じさせる、あがたの森公園までも行ける。翌日の街めぐりの散歩コースとなった。

 初日昼食後は、バスに乗り郊外にある漆塗作家の器工房を尋ねた。思いがけず、帰りは松本城のすぐ正面の市役所前まで送っていただくことに。車から降りたあとに、せっかくだからと市役所展望台から天守閣と対面を果たすことにした。築五十年超えると思えるようなレトロ感のある市役所に入って、最上階から階段で昇っていくと、四方がガラス張りの展望室になっている。そこは天守閣を望む特等席、松本城のその向こうには冠雪を残した北アルプスの山々が一望できる。岳都ならではの雄大な風景と八万石城下町のいまのすがたを堪能した。

 両日とも夕食は、まちに繰り出していただく。初日、宿から歩いて近くの民芸居酒屋「しづか」にて、ここは焼き鳥とおでんが看板なのだそうだ。二日目は、松本民芸館からの帰り路に立ち寄った川のほとりの古いビルにある自称時代遅れの洋食屋「おきな堂」で卓を挟みながら。店内に入って席に着けば、室内の様子から地元に愛されている雰囲気が伝わってくる。若くてきびびきびした看板娘?さんが、丁寧な説明付きで給仕をしてくれていて気持ちよかった。
 帰り際のこと、レジ横の壁には数年前に来店した日付がある小澤征爾のサイン色紙が飾られていた。

 ローカルで落ち着いた松本のまちの雰囲気が感じられる絶好のロケーションで、二泊過ごせることの幸運を想う。月跨ぎの信州松本の夜は長い。


大場芳郎漆部(松本市岡田)2022.5.31


 市役所展望室から松本城と街並み、その向こうの北アルプスを望む(2022.5.30)

 翌日、松本から長野まで篠ノ井線で善光寺平を往復して、新装なった長野県立美術館と東山魁夷館をめぐる。美術館本館は昨2021年四月に新装なったばかりのぴかぴか。設計は宮崎浩/プランツアソシエイツ、隣接する東山魁夷館とブリッジで結ばれていて、建築的にもよく調和がとれている(2022年度の建築学会賞を受賞した)。間の段差のある人工池の流れには、一日三回定時になると中谷芙美子の霧の彫刻が出現する仕掛けとなっていた。ちょうどその午後の回に遭遇することができた。
 美術館屋上テラスに出てみると、目の前に国宝善光寺本堂の大屋根が望める。暑いくらいの陽気に恵まれて、ここからの大きく開けた風景は雄大で気持ちがいい。
 東山魁夷館は、ロビーを抜けた人工池を取り込んだ内庭とアルミパネル壁の建築と切り取られた周囲の風景と天空のがすばらしい。展示室棟ロビーからの人工池ごしの眺めもなかなかのものだ。
 美術館のあとに立ち寄った善光寺境内は、一年遅れの前立ご本尊御開扉でにぎわっていた。私たちもお参りを果たして、急ぎ足で帰路に着く。


 東山魁夷館内庭より。設計谷口吉生/竣工1990年、2019年改修(撮影:2022.6.2)



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