ことしの春は、上旬から中旬にかけて陽気が続き、ニホンスイセンにはじまり、コブシにモクレンと次々と花開くといった様子、なにしろ桜の開花が早かった。このあたり神奈川都市部では、ソメイヨシノ開花宣言が春分の日の20日には出されていたのだから、うかうかとはしていられない。この日は夕方に東北地方でかなり大きな地震があって関東も揺れたが、幸いなことに津波や災害事故はなかったようだ。
ここのところ日の出は午前五時半すぎになり、日の入りは午後六時過ぎになろうとしているから、ずいぶんと日中が長くなってきたものだ。どうやら27日は「サクラの日」ということだが、駅へと向かう通称サクラ通りも、薄いピンクで満開のトンネルとなったと思ったら、早くも散りだした花びらでやがて絨毯のように敷き詰められていくのだろう。
べランダの中庭の椿は早くから寒気の中で花をつけていたし、なんとつつじも色とりどりに咲き出しているではないか。地面に黄色い色が点在していると思ったら、タンポポの花だ。住まいちかくの中学校グランド脇の庭園花壇には、遅咲きのラッパスイセンの群生が見られる。
その先の病院横の駅に向かう舗道を歩いていると、街路樹の西洋ハナミズキが日当たりのよい枝ぶりについた花びらから色づきはじめているのに気がついて驚かされる。さらにあたりをよく注意して眺めれば、ユキヤナギにモッコウバラの白い花や八重咲ヤマブキも咲き出し始めている。
ほんの数日のうちにまさにあたり春めき、春爛漫の気配が押し寄せてきている。毎年繰り返される四季の情景、うかうかしていると春の勢いに取り残されてしまいそうだ。
気持ちを落ち着かせながら、あと二週間後を待つ。わたしは信州の湖畔風景を眺めているはずだ。
街中の枝垂れ桜、舗道に咲く(2021.03.17 町田大通り)
もう三週間ほど前になるが、新型コロナウイルス感染状況の落ち着かない中、運営に関わっているホールで、親子家族向け音楽会がひらかれた。昨年三月の予定が延期に延期を重ねて、ようやく正面玄関前の早咲きヨコハマヒザクラの濃い緋色の蕾がほころび始めた頃に、一年越しで実現したものだった。
春めく中そんな日に限って、朝からの曇天がどんどん下り坂になって雨が降り出していた。それでも午前午後二回の演奏会を楽しみにしていてくれた子供連れの親子、家族、団体が集まってくれて、久々にホワイエがにぎわう。客席には歓声が拡がっていてうれしかったと同時になんだかとても安堵したものだ。
ところが午後の演奏会の最中から春雷が鳴りだし、雨風がいっそう激しくなってきてどうしたものかと思っていたら、終演のころにようやく落ち着いてくれて、笑顔の来場者を送り出すことができたのだった。そうして夕方の事務室にもどると、西の方から光が射しているのに気がついた。なんと先ほどまでの雨があがって、日没直前の夕晴れになっている。
帰り支度をして楽屋口をでると、どんよりした雨雲の残る空いっぱいをスクリーンのようにして、これこそまさしく“オーバー・ザ・レインボー”世界そのもの、その旋律が聴こえてきそうなほどの見事な虹がかかっているではないか!
さきほどの音楽会で高揚した祝祭感と無事終わったあとの安堵感に包まれ、そしてこれからの世の中の平穏無事に祈りを捧げるような気持ちになれた瞬間だった。
夕暮れのオーバー・ザ・レインボー(2021.03.13 長津田駅北口)