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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

冠雪の芙蓉三昧 鎌倉山檑亭

2021年12月13日 | 旅行

 師走に入ってすぐ、二泊三泊の近場旅をしてきた。幸い天候に恵まれ続けて、大船をベースに鎌倉山、横浜三渓園、江の島サムエルコッキング苑と展望台を巡る旅。共通していたのは、初冬快晴の青空と対照的に真っ白な冠雪を抱いた富士山の姿がいたるところで望めた。それは清々しく霊峰不二の尊称に相応しい。

 初日は大船から路線バスに乗り込み、モノレール高架の下を伝うようにして鎌倉山住宅の入り口まで行く。そこには小さなロータリーがあって、中央の植え込みには「鎌倉山」と刻まれた由緒あり石柱が建っている。昭和初期に分譲された都市近郊別荘地という歴史と風格を感じさせる佇まいだ。
 上り坂を進んでいくと早くも高台の緑の相模湾の向こう、あちこちの住宅の切れ目から富士山が秀麗な姿をのぞかせている。吐く息はあがってきているけれど、もうそれだけで気分は上々、視線もすこしづつ広がってくる。しばらく進んですこし平坦なところに差し掛かると、それらしき瓦屋根の門構えが檑亭の入り口である。ここから望める斜面に高低差がある回遊庭園が広がる。一番眺望が良い道路側に立つ古民家が蕎麦どころとなっている本館だ。ちょうどお昼時、かつての豪農の旧宅を移築した個人別荘だったという店内のあがりで、蕎麦に天ぷら、ビールの杯を重ねる。
 余談になるが、檑亭の“檑”って雷のなにかと思っていたら、実は“すりこぎ”のことなんだそうだ。もともとこの地には山椒の木々が生えていて、そこからの命名だと知る。山椒の幹で作られたすりこぎは最上のものだから、この料亭にふさわしい名前であるに違いない。

 食事の後は、もう一度店先の平石のまえに立ち、じっくり富士山と対面だ。絵になるという月並みな表現がぴったり、ここの庭先から眺める森のさきの白霊富士の姿は素晴らしい。梅や桜の時期なら空と海に映えて息をのむようだろう。よく晴れた遠い視線のさきには、こんもりと深い緑の杜が続いている。足元の庭の陽だまりには、もうニホンスイセンが咲きだしてほのかに香しい。たたずんでいると相模湾ごしの風もさわやかに気持ちがふっとぬけていくようだ。
 ゆっくりと庭園の道なりを下って散策すれば、植え込みに石塔・灯籠と石仏の数々、朽ちかけた茶室、夢殿を模した八角堂。竹林をぬけて羅漢群、石造十王像のなかには閻魔大王の姿もある。銀杏の大木は、すっかり全体が黄金色となって、落葉が地面を染めている。庭園全体はすこしすさんだ雰囲気もあって、さまざまな変化に富んで、われら新参者を飽きさせない。

 帰りは裏門を通してもらって「高砂」というバス停から西鎌倉駅までゆき、湘南モノレールに乗る。山肌を縫うようにして走る懸垂式モノレールは、その浮遊感がたまらない。途中のトンネル潜りもスリリングであり、まるで遊園地みたいだ。車窓から富士山との対面を愉しみながらいると、あっという間に大船に戻ってきてしまった。
 わずか半日なのにひと旅して帰ってきたような満足気分に浸ることができ、そしてようやくの再会にほっとした。あとはこれからゆっくりと過ごす時間が待っていてくれることが嬉しい。


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