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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

「瓢亭 京の食文化」の話、東京駅舎広場の情景

2015年01月29日 | グルメ
 中央林間から田園都市線を使うと一路乗り換えなしで、都内千代田区までいっきに出ることができる。20日の昼過ぎ、そのルートで大手町駅を下車するとサンケイビルの地下になっている。そこから地上に出ると読売新聞本社が隣り合っていて、ここが正月の二、三日に行われる箱根駅伝のスタート&ゴール地点付近であることに気がつく。

 歩き出して途中、丸の内に入った最初のブロックに入ると、南北扁平状に伸びる「みずほコーポレート銀行ビル」(旧日本興業銀行本店、1974年竣工、設計:村野藤吾、15階建)の姿が見えてくる。その妻先先端部は、二つの斧の刃先のように向き合い直立して伸びていて、その足元部分には周辺のビル影を映す人工池が設けられている。ビルの壁面柱が陰影を造り出し、その柱間に縦長窓が規則的に並んで、建物全体の表情の印象を作り出している。このあたりにオフイスビルといえども決して無機的にならない村野藤吾らしさとこだわりが感じられる。これらの高層オフイス街をぬけていけば、新丸の内ビルの先に赤レンガの東京駅はもうすぐだ。
 その東京駅の正面、銀杏並木に外灯が和田倉門から皇居まで続く大通りは、まさしく日本を象徴する通りであろうと思う。横幅約300メートルあるという東京駅はたしかに威風堂々としてはいるけれど、復原後は綺麗になりすぎて書き割りのような感もあり、これから年月を重ねるにあたって次第に落ち着きを増していくことだろう。
 左側に東京駅を眺めながら行幸大通りを渡り、丸の内ビルをすぎた斜め隣のビルがJPタワーKITTE(旧東京中央郵便局)だ。東京駅広場に相対する二方向面の外壁部分を保存して、超高層ビルに生まれ変わった。その手法には賛否両論があったが、完成してみれば吹き抜けの商業部分廻廊といい、吉田鉄郎が設計して、ブルーノ・タウトが絶賛したという近代建築遺産の記憶を引き継ぎながら、あたらしい魅力を生み出すことに成功しているといっていいだろう。

 こちらの四階ホールでの京都老舗講座とタイトルされた講演会は同志社大学の主催、昨今の老舗大学もこのような広報活動を兼ねたユニークな取り組みに熱心だ。今回は、同校OBでもある瓢亭十四代当主の高橋英一氏。瓢亭、といったらあの南禅寺参道、無鄰菴に隣接した懐石料理の名店で、こちらのほかはいっさいの支店を持たない、正真正銘京都が唯一の存在だ。一昨年春に京都を訪れた際に南禅寺から琵琶湖疏水に沿って歩いてきて、前を通りかかると、茅葺の茶店の面影を遺した入り口には店名を記したハタノレンが翻っていて、ここがあの「朝粥」の店かと思い知った。そこはかとなく漂う一期一会の精神が現れた玄関が、ここの店の歴史と品格を黙って差し出しているかのよう。
 御主人の高橋氏は、仕事着の白衣姿ではなく、細身長身にスーツ上下、ネクタイとダンディな出で立ちも実に様になっていて、ある意味、京の食文化を象徴する料理人という印象だ。その口から語られる京料理についてのこだわりは、京都の地理と風土からもたらされた旬の食材と保存性のある食材を組み合わせて活かし、季節感の重視と見た目の美しさ、だしから始まる繊細な調理法、食空間のしつらえなどもあわせた総合的な“もてなしの文化“こそが京料理の神髄であり、それは茶の精神につながるであろうということにつきる。

 講座が終わって、しばしロビーの窓からライトアップされて浮かぶ東京駅を眺める。周囲を取り囲む近代的な高層ビルは互いの姿を窓ガラスに映し出していて、駅前広場の中心の底に沈んだかのような大正期完成の赤レンガの東京駅舎とのダイナミックな対比風景こそが、日本の近代から現代への移り変わり、歩みを象徴している歴史的空間だ。

(2015.01.29初校、01.31改題&校正)

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