次期衆議院議員選挙 争点とすべき 2つのこと ◎森友・加計政治関与疑惑にまみれた 指導者を続投させるべきか否か ◎成長実感ゼロのアベノミクスを 効果があると見せかける幻想に 今後も付き合うべきか否か |
安倍晋三が9月25日に記者会見を開き、9月28日に衆院を解散すること、そして選挙公約の柱とする「生産性革命」と「人づくり革命」の2大革命を掲げ、人づくり革命として次のように述べた。
「首相官邸記者会見」
安倍晋三「子供たちには無限の可能性が眠っています。どんなに貧しい家庭に育っても、意欲さえあれば専修学校、大学に進学できる社会へと改革する。所得が低い家庭の子供たち、真に必要な子供たちに限って高等教育の無償化を必ず実現する決意です。
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幼児教育の無償化も一気に進めます。2020年度までに3~5歳まで、全ての子供たちの幼稚園や保育園の費用を無償化します。0~2歳児も、所得の低い世帯では全面的に無償化します。待機児童解消を目指す安倍内閣の決意は揺らぎません。本年6月に策定した子育て安心プランを前倒しし、2020年度までに32万人分の受皿整備を進めます」
次に財源。
安倍晋三「子育て、介護。現役世代が直面するこの2つの大きな不安の解消に大胆に政策資源を投入することで、我が国の社会保障制度を全世代型へと大きく転換します。急速に少子高齢化が進む中、国民の皆様の支持を得て、今、実行しなければならない、そう決意しました。2兆円規模の新たな政策を実施することで、この大改革を成し遂げてまいります。
しかし、そのつけを未来の世代に回すようなことがあってはならない。人づくり革命を力強く進めていくためには、その安定財源として、再来年10月に予定される消費税率10%への引上げによる財源を活用しなければならないと、私は判断いたしました。2%の引上げにより5兆円強の税収となります。現在の予定では、この税収の5分の1だけを社会保障の充実に使い、残りの5分の4である4兆円余りは借金の返済に使うこととなっています。この考え方は、消費税を5%から10%へと引き上げる際の前提であり、国民の皆様にお約束していたことであります。
この消費税の使い道を私は思い切って変えたい。子育て世代への投資と社会保障の安定化とにバランスよく充当し、あわせて財政再建も確実に実現する。そうした道を追求してまいります。増税分を借金の返済ばかりでなく、少子化対策などの歳出により多く回すことで、3年前の8%に引き上げたときのような景気への悪影響も軽減できます」
予定していた借金返済額4兆円のうち2兆円を他用途にむけて、返済額を半分にしながら、「財政再建も確実に実現する」は都合がよ過ぎる。
《【NHK NEWS WEB Business特集】揺らぐ? 財政健全化の「旗印」》(2017年6月9日 19時11分)記事を参考に「財政再建」について纏めてみる。
政府は社会保障や公共事業等、国民生活に欠かせない政策・事業を実施するために必要な財源を借金(国債など)に頼らずに税収などでどれだけ賄えているかを示す指標である、現在赤字状態の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年度に黒字化する財政健全化目標を立てている。
ところが、内閣府が今年2017年1月に示した最新の予測でのプライマリーバランスは今後、日本経済が名目成長率で3%という高い成長を達成し、政府が予定どおり2019年10月に消費税率を10%に引き上げても、2020年度には8.3兆円の赤字となっていて、目標の黒字化は極めて難しく、その結果、2015年度990兆円の借金残高は2020年度には1104兆円に膨らんでしまうと解説している。
5年で114兆円の増加。1年平均すると、22.8兆円。
当然、借金返済に充てる4兆円の内2兆円を「教育無償化」に回すと、2020年度以降も金利等の条件にもよるが、20兆円以上ずつ加算されていくことになる。
また借金が増える分、そのツケは各政策や各事業の予算編成や予算配分を窮屈にするという形で現れる。例え窮屈解消に新たな国債発行で充当させるにしても、それが新たな借金となるだけではなく、借金額との兼ね合いで発行額に一定の抑制を効かせなければならないから、窮屈という点は変わらないし、こういったことは現役世代・引退世代に関係なく影響を与えることになるが、現役世代が引退世代に移っても変わりなく影響していく可能性は否定できないし、将来世代の負担となって跳ね返ってこない保証もない。
にも関わらず、安倍晋三は「そのつけを未来の世代に回すようなことがあってはならない」と、一見全て良しのバラ色の確約を披露しているが、社会保障制度の全世代型化の実現と同時に国民負担(ツケ)の全世代型化となって降り掛かってこないとも限らない。
要するに借金返済分で賄った子どもたちや若者たちの「教育無償化」の利益は借金が減らない分、国家予算上の様々な窮屈の影響を受けるばかりか、残った借金が将来的なツケ(負担)となって循環していき、最終的には全世代が順番に負担する形を取ることになって差引きマイナスとなる可能性も出てくる。
言ってみれば、安倍晋三の人づくり革命「教育無償化」は国民を惹き付ける政策に見えるが、その実態はスーパーの客寄せのための安売りの目玉商品が一見安くて得に見えるが、いっときの節約で終わって、収入が増えなければ生活の根本的解決とならないのとさして変わらない。
安倍晋三は「教育の無償化」を票寄せのための安売りの目玉商品に利用しようとしているのだろう。
「教育の無償化」は何よりもアベノミクスが現在以上に機能することが前提となる。安倍晋三は記者会見で「増税分を借金の返済ばかりでなく、少子化対策などの歳出により多く回すことで、3年前の8%に引き上げたときのような景気への悪影響も軽減できます」と確約してはいるが、2019年10月に予定の通りに消費税率8%を10%に増税できたとしても、現状のアベノミクスでは確かな確約とはならない。
「教育無償化」によってその分の可処分所得は増える。「日本経済は11年ぶりとなる6四半期連続のプラス成長。内需主導の力強い経済成長が実現」、「雇用は200万人近く増加」、「この春、大学を卒業した皆さんの就職率は過去最高」、「2年間で正規雇用は79万人増」とアベノミクスの効能を並べ立てて謳っている経済活況が個人生活に実感を与えているなら、可処分所得が増える分、個人消費が勢いづくように見えるが、個人消費が低迷したままでは自画自賛に過ぎない。
当然、このままの消費状況では消費税率10%となったとき、安倍晋三が言っていることと裏腹に消費が却って冷え込んだ場合、予定していた消費税増税による税収は期待通りにはいかないことになる。
安倍晋三はアベノミクスの効能を謳うに都合の良い経済指標だけを取り上げるが、なぜ個人消費が活発とならないのかについては満足に触れない。
経済再生担当相の茂木敏充が8月28日(2017年)の記者会見で昭和40年代前半に4年9カ月に亘って回復が続き、戦後2番目の長さとなった「いざなぎ景気」に並んだ可能性が高いと発表したが、日銀の大規模な金融緩和が味方した株高と円安で企業の経常利益と内部留保を過去最高に導いたのみで、個人消費は目立って増えていない。
この傾向は2002年1月から2007年10月までの69カ月に亘った戦後最長景気とそっくりに似た状況を呈している。大企業だけが儲けて、その利益は個人には満足に再配分されることはなく、個人消費は冷え込んだままだった。
経済には疎いから、マスコミが伝える内閣府や総務省統計局公表の各経済指標で個人消費の趨勢を知るのみで、個人消費を基準に景気の程度を判断していたが、「日本経済見通し:個人消費はなぜ低迷を続けているのか?」(大和総研/2017年1月20日)のPDF記事が低迷の本質的な原因を教えてくれる。
〈2012 年度から2014 年度までの間に雇用者報酬が計7兆円弱増加していた。一方で、所得の増加を受けて所得税が計3.9 兆円程度増加したことに加え、社会負担(雇用者の社会負担)については計3.3 兆円増加し、可処分所得の伸びを抑制していたことが確認できる。
このように、第2次安倍政権発足後に雇用者報酬が増加したものの、社会保障費の負担増などを背景に、可処分所得の増勢ペースが緩やかなものにとどまり、現役世代の消費拡大の勢いを削ぐことになってしまった。また、2015 年度については、所得税の最高税率が引き上げられたことも可処分所得の下押し要因となっており、「給料の額面が上がっても手取りは増えない」状況が継続したとみられる。〉――
その他にも2つ程理由を挙げているが、このことが主とした理由となっているはずだ。少子高齢化の進行で現役世代の社会保障費の負担(雇用者の主たる社会負担)は増加する傾向にある。年金世代にしても、中低所得者にとっては年々値上げしている介護保険料の負担や介護に支払う料金も生活を圧迫する要因となっているはずだ。
全世代型のこのような負担と国の借金の返済を先に伸ばすことで生じる負担を循環的に負うことになる国民負担の全世代型化が現在も個人消費低迷の理由の一つとなっている将来不安をなお一層高めて、却って個人消費を抑える逆効果を生み出さないとも限らない。
国の借金の返済先送りが「教育無償化」による生活の安心・可処分所得の増加を以てしても個人消費活性化の根本的な動機づけとならなければ、そうなる可能性は高いと見ているが、まさしくいっときの節約で終わって、生活の根本的解決とならないスーパーの客寄せのための安売りの目玉商品そのものとなる。