安倍晋三とプーチンと“同床異夢”の平和条約締結と対北朝鮮政策

2017-09-07 11:29:29 | 政治

 安倍晋三がウラジオストクで20017年9月6日と7日の2日間の日程で開催される「東方経済フォーラム」出席前に9月6日記者会見を行った。 

 「首相官邸」 

 安倍晋三「プーチン大統領とは今度のウラジオストクでの会談で19回目の会談となります。今までの会談の積み重ねの上に、平和条約問題の解決に向けてじっくりと話し合いたいと思います。昨年の長門会談の合意を契機として進んできた共同経済活動、そして元島民の自由な往来を更に具体化させ、平和条約の問題を進展させていきたいと考えています。

 北朝鮮は、今の政策を進めていく、今の道を進んでいくのであれば、明るい未来はないということを理解させ、現在の政策を変えさせなければなりません。そのためにも日露であるいは国際社会で連携していく、そのための会談をプーチン大統領、そして文在寅(ムン・ジェイン)大統領との間で行いたいと思います」

 安倍晋三自身がプーチンと何度も繰返し会談を開いてきて築き上げたとしている「信頼関係」というキーワードは今回は使っていない。「信頼関係」自体が“同床異夢”なのだが、「19回目の会談となります」と言って、回数に意義を置き、そのことが「平和条約問題解決」の推進力になり得るかのような文言を用いている。

 当たり前のことを言うことになるが、国益に優る信頼関係など存在しない。相互の国益を一致させる可能性を見い出すことができれば、信頼関係は生きてくる。国益一致推進に向けた有力な潤滑油となり得るだろう。

 いわば信頼関係が相互の国益を一致させるわけではなく、それぞれの国の政治利害が相互的な国益一致か不一致の決定権を握る。

 ロシアは北方四島を米の万が一の軍事攻撃に対する本土防衛の前線基地に見立てている。前線基地は本土から海を隔てて離れた距離に位置している程、本土防衛により効果的となる。首都モスクワを狙ったアメリカのミサイルを樺太で迎撃するよりも北方四島で迎撃して、もし失敗したら、樺太で迎撃する、そこでも失敗したら、より内陸で迎撃する何段構えの迎撃システムを安全保障上の必要事項としているはずだ。

 日ロ平和条約締結はそれぞれの国の政治利害が決めることになる相互の国益にかかっているのであって、極めて政治的な駆引きを要件とする。

 にも関わらず、安倍晋三は信頼関係を要件とし、信頼関係に縋っている。だから、何回も首脳会談を持たなければならないことになる。

 当然、北方四島に於ける共同経済活動の進展が日ロ平和条約締結を決めるわけではない。今回のプーチンとの首脳会談で観光振興、風力発電導入、海産物の養殖、温室野菜栽培、ゴミの減量対策の5項目を対象事業とすることで合意する見通しだとマスコミは伝えているが、本来は共同経済活動は“双方の法的立場を害さない「特別な制度」”を構築、その枠組み内で行うとしての取り決めであったはずだが、「特別な制度」を構築し得ないうちに対象事業の選定が先行し、その選定で合意する見通しとなっている。

 日本が提案した「特別な制度」だから、ロシア側が構築に抵抗しているとことになる。

 “双方の法的立場を害さない「特別な制度」”とは双方の主権を離れた制度と言うことであろう。それを北方四島全体に広げる。だが、ロシアが自国領土として実効支配して自らの主権を打ち立てている北方四島を自らの主権を離した状況に置くということはロシアの国益に極めて関係してくる譲ることのできない重大な政治的利害であろう。

 このことは共同経済活動の対象事業選定の協議を進めながら、ロシアのメドベージェフ首相が8月23日に北方領土をロシアの経済特区「先行発展地域」に指定する決定に署名したことに現れている。

 この特区指定は“双方の法的立場を害さない「特別な制度」”を拒絶するサイン以外の何ものでもない。

 確かにプーチンは平和条約の締結を口にしているが、プーチンの今までの言動は北方四島を返還させない形での日本との平和条約締結を視野に入れていて、安倍晋三が日本への帰属を前提としている締結とは同床異夢そのもので、双方が国益としている利害は真っ向から対立している。

 にも関わらず、安倍晋三はプーチンがどこに国益を置いているか考えずに共同経済活動の進展が日本側が望む平和条約締結への進展に繋がると信じている。

 対北朝鮮政策に関しても日ロは同床異夢の形を取っている。

 安倍晋三は「北朝鮮は、今の政策を進めていく、今の道を進んでいくのであれば、明るい未来はないということを理解させ、現在の政策を変えさせなければなりません。そのためにも日露であるいは国際社会で連携していく」対北朝鮮政策を口にした。

 だが、国連安全保障理事会が一層の厳しい制裁を科すことを目指し、軍事攻撃を散らつかせるアメリカに対してプーチンが「新たな制裁を課すことは効果的ではない」、あるいは「北朝鮮は雑草を食べることになったとしても、自国の安全が保障されない限り(核開発の)計画をやめないだろう」と牽制していることは北朝鮮の現状を容認する態度であって、ミサイルと核の開発阻止に向けた対北朝鮮に関わるアプローチにしても、日ロ連携どころか、本質的には同床異夢の関係にあると見なければならない。

 ロシアにしても中国にしても敵対関係に陥った場合のアメリカに対抗するとき、同じく敵対関係にある国を味方として一国でも必要とする。その国が核兵器を所有していたなら、より強力な味方となるだろう。ロシアが安全保障上の国益としているそのような政治利害は日本が北朝鮮に抱えている政治的利害とは本質的には相容れない。

 結局は形式的な連携の確認で終わるはずだ。

 安倍晋三は「北朝鮮は、今の政策を進めていく、今の道を進んでいくのであれば、明るい未来はないということを理解させる」と言っているが、圧力を以てして理解させるのか、話し合いを以てして理解させるのか、はっきりとは言っていないが、北朝鮮が8月29日に事前の通告なく弾道ミサイルを北海道上空を通過させて発射した際、「北朝鮮に対話の用意がないことは明らかであり、いまは圧力をさらに高めるときだ」と、これまでと同様に圧力一辺倒の政策を言い立てていたから、圧力を通して「理解させる」ということであるはずだ。

 だが、プーチンが圧力一辺倒なのは反対していたから、記者会見では今までは盛んに使ってきた「圧力」という言葉は使うことができなかったのだろう。

 一つの言葉を使うことができるか、できないかの点にさえ、双方の国益の違い、政治的利害の違いが見え隠れすることになるのだが、安倍晋三は拉致問題で同じようなことを言っている。

 2012年8月30日、フジテレビ「知りたがり」

 安倍晋三「ご両親が自身の手でめぐみさんを抱きしめるまで、私達の使命は終わらない。だが、10年経ってしまった。その使命を果たしていないというのは、申し訳ないと思う。

 (拉致解決対策として)金正恩氏にリーダーが代わりましたね。ですから、一つの可能性は生まれてきたと思います」

 伊藤利尋メインキャスター「体制が変わった。やはり圧力というのがキーワードになるでしょうか」

 安倍晋三「金正恩氏はですね、金正日と何が違うか。それは5人生存、8人死亡と、こういう判断ですね、こういう判断をしたのは金正日ですが、金正恩氏の判断ではないですね。

 あれは間違いです、ウソをついていましたと言っても、その判断をしたのは本人ではない。あるいは拉致作戦には金正恩氏は関わっていませんでした。

 しかしそうは言っても、お父さんがやっていたことを否定しなければいけない。普通であればですね、(日朝が)普通に対話していたって、これは(父親の拉致犯罪を間違っていたと)否定しない。

 ですから、今の現状を守ることはできません。こうやって日本が要求している拉致の問題について答を出さなければ、あなたの政権、あなたの国は崩壊しますよ。

 そこで思い切って大きな決断をしようという方向に促していく必要がありますね。そのためにはやっぱり圧力しかないんですね」――

 だが、5年経過した現在でも、安倍晋三は金正恩をして「思い切って大きな決断をしようという方向に促していく」ことができず、単なる言葉で終わっている。

 金正恩に「明るい未来はないということを理解させる」にはプーチンの力を借りようと、あるいは習近平の力を借りようと、偏に安倍晋三の同床異夢を乗り越えていく政治手腕にかかっている。

 単なる言葉で終わらないことだけを願う。

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