野田消費増税から抜け落ちている2つの視点

2012-03-31 11:47:27 | Weblog
 昨3月30日(2012年)、野田首相は税制抜本改革法案衆議院提出後、6時から記者会見を首相官邸で開いた。

 その中で衆参与野党ねじれを念頭に与野党協議による法案成立を呼びかけた。記者会見の内容は首相官邸HP《野田首相記者会見》(2012年3月30日 6:00~)による。 

 野田首相「私は、野党の皆さんにおかれましても、多くの議員の皆さんは、社会保障を安定化させ、あるいは充実させ、そのための安定財源として消費税が必要であると思っていらっしゃる方は多いというふうに思っております。

 したがって、まさに政局ではなく大局に立つならば、政策のスクラムを組むことは十分可能だというふうに考えております。このような呼びかけというものも、これからしっかり行っていきたいと思いますが、与野党で議論をしていく上で、その議論をより深めていくために欠かすことのできないのは、やっぱり何と言っても国民の皆様のご理解だというふうに思います」

 「政局ではなく大局に立つならば、政策のスクラムを組むことは十分可能だ」と言っている。

 野田消費税増税反対派はすべて「政局」に立った政治ということになる。大局観なしの政治行動だと。

 マスコミの大方がそうだが、自民党は2010年参院選で消費税増税10%の公約を掲げた。与党民主党と同じ10%で、両者の主張に基本的な差はないのだから、自民党が与野党協議に応じないのはおかしいといった論調が罷り通っている。

 民主党も自民党も消費税税収をすべて社会保障政策の財源とすることを約束し、忠実に実行したとしても、医療・年金・介護・子育てに向けた財源の配分の違いによっても、それらの各政策の有効性によっても(矛盾のない政策など存在しない)、さらに財政運営方法の違いから生じるカネ遣いの効率性の違いから言っても、社会保障政策に関わる成果を同じだとすることはできない。

 いわば同じ10%という税率のみで政治的な結果まで同じだと判断するのは早計というものであろう。

 また、民主党と自民党との間の社会保障政策以外の政策の有効性や財政運営に関わるカネ遣いの効率性の違いによっても、政治全体に与える影響、結果は自ずと違ってくる。

 株か何かから10%の配当を得ている資金を元手に会社を経営している同業2社が常に同額の利益を上げるとは限らないのと同じである。経営方法、資金の使い方によって利益は異なってくる。

 また、消費税収で社会保障政策をすべて賄うことができるからと言って、今まで負担していた他の税収に余りが生じた、自由に使える、次の選挙に備えてとバラ撒きに費やしたなら、何のために消費税を増税したのか意味を失い、財政健全化の障害にもなるだろう。

 同じ消費税10%増税をスタートラインとし、折り返し点を社会保障政策に置いていたとしても、ゴールは同じ風景とはならないということである。

 同じ風景になったなら、政党を分ける必要はないし、選挙の意味も失う。

 そもそもからして民主党政権になってから、歳出は増加傾向の一途を辿っている。政策の優先順位付けや予算の組み替え等を活用した、歳入に応じた歳出削減を機能させる財政運営、あるいは政策の立案ができていないということであって、同じ道を辿る保証はどこにもない。
 
 民主党と自民党では利害代弁の対象も異なる。自民党は主として企業の利害を代弁し、民主党は主として労働者階層の利害を代弁する政党を形作っている。

 野田首相が政治テーマとしている「分厚い中間層を復活させる」が象徴している利害代弁であろう。

 いわば「野党の皆さんにおかれましても、多くの議員の皆さんは、社会保障を安定化させ、あるいは充実させ、そのための安定財源として消費税が必要」だとしていても、だからと言って、与野党協議に応じなければならない義務は負っていないし、負わされる義理もないということである。

 野田首相にはこの視点が抜けている。

 野田首相は先の発言で、「社会保障を安定化させ、あるいは充実させ、そのための安定財源として消費税が必要」だと発言した。

 そして、「社会保障と税の一体改革の意義」は「今日より明日はよくなると思うことのできる、そういう社会」づくりだと言っている。

 野田首相「確信の持てる社会、実感の持てる社会をつくりたいというふうに思っています。その行き着く先が、国民の多くの皆さんが不安に思っている社会保障の持続可能性だと思います。若い人たちは、学んだ後に仕事につけるかどうか不安に思っている。働いている女性たちは、子供を産み、そして預けることができる、そういう社会なのか、子育てに不安を持ち、孤軍奮闘している。そして、誰もがいまだにまだ老後に対しての不安も持っている。そうした不安を取り除くことが、今日より明日がよくなるという行き着く先の一番の私は根幹であろうというふうに思います」

 消費税を安定財源として「社会保障の持続可能性」を確立し、自らが理想とする“今日より明日はよくなる社会”、「確信の持てる社会、実感の持てる社会」を構築していくと。

 いわば野田社会保障改革による“今日より明日はよくなる社会”、「確信の持てる社会、実感の持てる社会」の約束である。

 その一方で、次のように主張している。

 野田首相「今日より明日がよくなると思っていただけるためには、今のこうした社会保障の改革も必要でありますけれども、何よりも経済の再生を果たし、パイを大きくするということが大事です。この一体改革とあわせて包括的に進めていかなければならないのが日本経済の再生であります。デフレからの脱却であります。

 そのために、今回、さまざまなご議論を経た中で、平成23年から32年、この10年間の間に平均して名目で成長率を3%、実質で2%という目標を数値として掲げさせていただきました。

 これは前提条件ではありませんが、政府としての目標でございますので、この目標を早い段階で達成できるように全力を尽くしていかなければなりません。新成長戦略の加速、そして年央にまとめる日本再生戦略等々、さまざまな政策を総動員をしながら、この目標達成に向けて全力を尽くしていきたいと思いますし、特に、日銀とは緊密に連携をとり、そして問題意識を共有しながら、デフレ脱却、経済活性化に向けた取り組みを一緒に行っていきたいと考えています」

 「名目で成長率を3%、実質で2%という目標」は消費税増税の前提条件ではない、あくまでも努力目標だは消費税増税に限った「不退転」、「政治生命をかける」ということになって虫のいい話しだが、いずれにしても消費税を財源とした社会保障改革と「経済の再生」で「今日より明日がよくなる」日本を築くと言っている。

 果して「名目で成長率を3%、実質で2%」の「日本経済の再生」が「今日より明日がよくなる」日本を約束してくれるだろうか。

 1965年11月~1970年7月(57ヶ月)にかけてのいざなぎ景気では、個人消費は9.6%の伸びがあった。

 1986年12月~1991年2月(51ヶ月間)にかけてのバブル景気では個人消費の伸びが4.4%。

 最後の大型景気である2002年2月~2007年10月(69ヶ月間)までの戦後最長景気では、周知の事実となっているが、大企業が軒並み戦後最高益を得ながら、個人消費の伸びはたったの1.1%。

 個人消費の低い伸びは当然のことだが、所得の伸びを反映しているもので、戦後最長景気では-1.4%の所得の伸びと言われている。

 これも周知の事実となっているが、経済のグローバル化が過度に進み、中国やその他のアジアの国々、あるいはアフリカ各国の低賃金とその低賃金を反映した安価な製品単価に太刀打ちするための正規社員から非正規社員への転換、あるいは雇用調整弁としての活用による人件費の抑制を背景とした製品単価の抑制と突発的な金融危機、経済的危機に備える内部留保への重点化がもたらした所得の低い伸びであり、その結果として個人消費の低い伸びであった。

 この傾向はずっと続いている。年々非正規労働者が増加していることがこのことを証明している。

 いわば従来の利益再配分が機能しなくなっている。野田首相は「社会保障を充実させる、安定化させるということは、これ一つとっても再分配機能の強化でございますけれども」と言っているが、それだけでは不足だから、「名目で成長率を3%、実質で2%」の「日本経済の再生」を言ったのだろう。

 だとしても、このことが企業の内部留保重点化と非正規社員偏重による人件費抑制がこれまでと同様に障害となって、満足のいく利益再配分を機能させる約束とはならない。

 野田首相の抜け落ちている2つ目の視点とはこのことである。

 単に社会保障制度の充実を言えば済むわけではないし、あるいは「新成長戦略の加速」だ、「日本再生戦略」だと言って、経済成長を約束する、あるいは「日本経済の再生」を約束するだけでは抜けているということである。

 但し人件費抑制に関しては政府も努力している。3月28日(2012年)に改正労働者派遣法が成立した。

 だが、政府の国会提出改正案は製造業への派遣や仕事があるときだけ雇用契約を結ぶ登録型派遣を原則禁止としていたが、自公の規制を厳しくし過ぎると雇用縮小が起きるとの反発から、3党修正で削除となっている。

 また、2か月以内の日雇い派遣原則禁止規定に関しても、30日以内の派遣禁止へと短縮を余儀なくされている。

 企業側の利益を優先させれば、労働者側の利益を抑えることになる。逆に労働者の利益を優先させると、企業の活動を阻害し、その利益を少なくことになる。

 尤も政府の原案どおりに成立したとしても、内部留保の重点化と人件費抑制の流れは止どめ難く、従来の利益再配分機能鈍化の状況を変えることはできないだろう。

 経済のグローバル化の時代に於いて利益再配分機能と国際競争力とは反比例する形で背中合わせに噛み合い、動いているからだ。

 この点を何らかの方法で解決しなければ、いくら社会保障制度を充実させたとしても、“今日より明日はよくなる社会”、「確信の持てる社会、実感の持てる社会」は実現困難となる。

 経済が回復しても所得も消費も伸びないまま、消費税増税だけを頼りに社会保障制度を維持しなければならなくなる。

 だが、野田首相にはこの点についての言及は一切ない。

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