菅直人円安誘導発言はグローバル経済に不平等となる一種の保護主義ではないか

2010-01-10 09:14:49 | Weblog

 まあ、私の鈍(なまく)らな経済知識からのお粗末な薀蓄でしかないが、1月4日の当ブログ記事《中国外需が迷走鳩山内閣を延命させる》で、〈「NHK記事」が1ドル84円台の円高ドル安がアメリカの不況が長引く予想から生じた相場で、ここのところの一時93円台までの円安ドル高がアメリカの景気回復に対する期待感などから円が売られる展開となったことが原因だと伝えていることからすると、日本の経済が外需依存型を宿命としていて、中国の景気回復のみならずアメリカの景気回復をも必要条件とする相互依存関係にある以上、アメリカの景気回復基調と連動する円高ドル安はアメリカの景気が回復するまでの一時的動向だとして歓迎すべき要件ではないだろうか。〉と書いたが、このことに反してアメリカ経済が明確な回復基調を取ったわけでもないのに藤井前財務相の病気辞任(一説によると小沢幹事長との軋轢辞任)を受けて跡を引き継いだ菅直人新財務相が1月7日の就任記者会見で「経済界から(1ドル=)90円台の半ばあたりが、貿易の関係で適切ではないかという見方が多い。(現状より)もう少し円安の方向に進めばいいなと思っている」(asahi.com)と円安誘導とも取れる発言を行った。

 藤井前財務相も〈就任直後の昨年9月、「緩やかな動きなら介入には反対」と発言。市場から「新財務相は円高容認」と受け止められ、円相場は一時、政権発足前より3円近くも円高・ドル安の1ドル=88円台前半まで急騰した〉(毎日jp)意図せざる為替介入の前科がある。円高容認派の藤井前財務相と意見を異にする菅直人の円安容認となっている。

 多分高い政治能力を有していることから発言影響力に凄いものがあるのだろう、発言直後に一時的にだが、市場では円安が進み、〈異例とも言える明確な「口先介入」となった。〉と同「asahi.com」は伝えている。

 勿論、日本にとって〈円高ドル安はアメリカの景気が回復するまでの一時的動向だとして歓迎すべき要件〉が正しい見方なのかどうかは分からない。とは言うものの、市場の自然な為替動向に任せるべき姿勢に反する菅直人発言である上に主要国の財務相が為替水準への言及を避けるのが慣例となっていることからだろう、鳩山首相が「為替は安定が望ましいわけで、急激な変動は望ましくない。政府としては基本的に為替に関しては言及すべきではない」(《菅流“介入” 閣内から苦言 再び円安発言 認識に温度差》SankeiBiz/2010.1.9 05:00)と窘めたというし、ほかの閣僚からも批判的な声が上がり、市場関係者の中にも軽率な発言だ、経済を知らないと批判的に把える向きが大方となっている。

 〈「90円台半ば(の円安)が適切との見方が、輸出企業を中心に経済界に多い」というのが菅財務相の言い分。これに対してニッセイ基礎研究所の矢嶋康次主任研究員は「通貨当局の責任者が言っていいことではない」と切り捨てる。〉(同SankeiBiz)――

 菅直人新財務相は批判の矢面に立たされてもなお強気である。

 「首相が言われたことは原則としてその通りだと思うが、経済界の期待や希望も十分勘案しなければならない」(同SankeiBiz

 財務相が為替水準への言及を避けるのが慣例だということも「口先介入」の自制もあくまでも「原則」でしかない。「経済界の期待や希望」次第では為替相場への介入もあり得ると宣言したわけである。

 この姿勢に関しては《菅財務相:「90円台半ば」発言 苦言、相次ぐ 菅氏は反論 市場、不安視》毎日jp/2010年1月9日 東京朝刊)は次のように伝えている。

 8日の会見。

 (輸出企業が円高に苦しんでいることを引き合いに)「マイナスを与えたとは思っていない。・・・・・基本的に為替をマーケットに任せるのは当然だが、いざというときに行動をとることは財務相の権能だ」

 「SankeiBiz」記事よりも「毎日jp」記事の方がなお強気の菅直人像となっている。

 「毎日jp」記事はこの強気の理由を〈景気回復とデフレ脱却を重視する菅氏にとって、円安は追い風になるためだ。〉としている。

 だが、菅直人の、言ってみればこの“円安観”は国内経済のみを把えた保護主義的な視点となっていて、日本経済が日本の経済のみで成り立っているわけではない経済が世界的にグローバル化した今日、世界に対して平等な姿勢を維持するためにもやはり可能な限り保護主義を排して市場の動向に任せるべきではないだろうか。

 また鳩山政権が円安・外需主導から内需主導の成長への転換を重点目標としていると言っても、短期間に転換不可能で、相当部分外需主導の側面を今後とも残すだろうから円安が有利だとしても、やはりグローバル化に反する一国主義的な自国都合・保護主義的“円安観”にしか見えない。

 菅直人財務相の1月7日の「円安」誘導発言に対して、日本時間なのか、現地時間なのか、記事には8日と書いてあるが、アメリカの大手自動車メーカー3社は「深く失望している」として、発言に抗議する声明を発表したと「NHK」記事――《米自動車3社 円安発言に抗議》(10年1月9日 9時56分) が報道している。

 クライスラー、フォード、それにGM=ゼネラル・モーターズの3社でつくる「アメリカ自動車政策評議会」の声明だそうだ。

 「日本政府が為替相場を市場の原理にまかせず、操作したり介入したりする方向に突然、かじをきったことに驚き、深く失望している。・・・・アメリカの景気回復に向けた努力を損なう可能性もある」

 さらにアメリカ政府に対して日本政府を非難するよう求めているという。

 アメリカの大手自動車メーカー3社は菅直人の円安誘導発言は「アメリカの景気回復に向けた努力を損なう可能性もある」と批判している。

 となると、円安誘導を意図的に操作して自国経済のみの回復を図る一種の保護主義に終始するか、市場の動向に任せてアメリカの景気回復も視野に入れるか、いわば 自然な為替の動向に任せた〈円高ドル安はアメリカの景気が回復するまでの一時的動向だとして歓迎すべき要件〉として容認し、市場介入は行わない損をして得を取る発想を取るかどうかにかかってくる。

 中国の巨大市場化はここ20年相当のことだが、アメリカは常に巨大市場であった。アメリカが景気回復さえすれば、再び巨大市場として蘇るのは間違いないだろう。

 自国経済を保護することはあっても、日本経済が日本の経済のみで成り立っているわけではなく、経済が世界的にグローバル化している以上、そのことまで視野に入れてより平等な姿勢でグローバル経済に立ち向かう姿勢が菅直人財務相には必要に思える。


 

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