――民主党に衆・参両院過半数のチャンスを与えよう――
《民主党に夏の参院選挙で勝利させて、衆・参両院とも過半数のチャンスを与え、民主党政治を存分に発揮できる活躍の場を提供してみてはどうだろうか――
民主党は民主党政治を存分に発揮できる衆・参両院の過半数を求めて、国民に夏の参院選での勝利を訴えるべきではないだろうか――》 自民党は1989年の参院選で社会党に大敗、プラス連合の会を向こうにまわして参議員過半数割れ、それ以後、自民党分裂を受けた1993年の第40回総選挙でも過半数割れ、9カ月足らず野党に転落の歴史を抱えているが、2007年7月の参院選で民主党に敗れるまで戦後ほぼ一貫して、衆・参とも過半数を維持、自民党政治を恣(ほしいまま)とするチャンスを独占してきた。
次は民主党にも衆・参過半数のチャンスを与えて、衆・参過半数下の民主党政治がどう展開されるか、じっくりと眺めてみるのもアリではないだろうか。
1月24日日曜日に行われた沖縄県名護市の市長選挙は名護市辺野古への基地受入れ反対の新人64歳の稲嶺進氏が基地受入れ容認の現職を破って当選。民主、社民、国民新の与党三党に加えて、共産党、沖縄社会大衆党の推薦を受けての当選である。
民主、社民、国民新の与党三党が辺野古への基地受入れ反対の稲嶺氏を推薦したこと自体が基地受入れ反対の意思表示を示したことになる。推薦が県連独自の判断で、党本部の判断ではないということなら、そのことの意思表示を別個に示す責任を負うはずだが、その種の意思表示がなかったのだから、稲嶺氏の当選は与党三党の基地受入れ反対の意思表示が名護市民を通して結実したことを示す。
民主党の政権交代の意思表示が昨2009年8月30日の総選挙で国民を通して結実したようにである。
当然、与党三党の稲嶺当選を受けた反応は自らの受入れ反対の意思表示を当選市長と名護市民の基地受入れ反対の意思表示と響き合わせて県内移設反対を強くアピールする、当選大歓迎の内容とならなければならない。民主党の反応を見てみる。
《民意受け止め 国の責任で結論 》(NHK/10年1月25日 15時19分)
鳩山首相「名護市長選挙の結果は、名護市民の民意の一つの表れだと認識しており、民意は民意として受け止める・・・・いずれにしても、大事なことは、国の責任で、しっかりと普天間基地の移設先の結論を出すことだ。逃げてはいけない。平野官房長官を長とする検討委員会で、今、精力的に、移設先をどこにするか議論しており、5月までに政府として結論を出す強い決意だ」
岡田外務大臣(辺野古沖移設への可能性について)「政府・与党の検討委員会では、普天間の移設先について、ゼロベースで議論している。ゼロベースということは、あらゆる可能性が含まれるということだ」
決して大歓迎とはなっていないコメントとなっている。
「ゼロベース」と言うことは鳩山首相も言っている。
《“あらゆる可能性含まれる”》(NHK/10年1月25日 19時46分)
――選挙結果を受けて、5月末までに決める政府の結論に、名護市辺野古へ移設するとした現行案はまだ含まれているのか。
鳩山首相「ゼロベースで最適なものを選びたいということなので、あらゆる可能性がまだ含まれている」
鳩山首相「去年暮れに政府・与党の検討委員会を立ち上げ、そこでゼロベースであらゆる可能性を検討し、ベストの案を選ぼうという話になったので、当然あらゆるものが入ってくると理解してもらいたい。あらゆる可能性がまだ含まれている」
《普天間移設、首相「まさにゼロベース」 稲嶺氏当選受け》(asahi.com/2010年1月25日12時16分)
鳩山首相「選挙の結果は名護市民の一つの民意の表れだ。ただ、いずれにせよ、まさにゼロベースで国が責任を持って、5月の末までに結論を出す。必ず履行をする」
「asahi.com」記事は首相の「ゼロベース」発言を次のように解説している。
〈首相はこれまで「名護の市民の思いも斟酌(しんしゃく)しながら結論を早く導くよう努力したい」と述べ、名護市長選の結果を尊重する姿勢を見せていた。〉が、〈市長選の結果だけで判断すれば、国の安全保障政策を地元の判断に委ねるのかといった批判を招きかねず、「ゼロベース」で考えるとの姿勢を強調したと見られる。〉
北沢防衛相の場合は「ゼロベース」という言葉は直接使っていないが、決定権は名護市の民意ではなく、政府の判断だと、政府が握っていることを表明している。
北沢「これは名護市民の意思の表明だから極めて慎重に受け止めなければいけない。政権交代により、沖縄全体の中で県外、国外(移設)という気持ちの高まりは感じていた。そういうことも影響した結果という気がする。・・・(但し)政府が本来決めるべきものを、過重に選択をお任せする風潮はよくない」――
「ゼロベース」とは白紙の状態から検討することを言う。いわば、「選挙の結果は名護市民の一つの民意の表れだ」と、「民意そのもの」と言わずに民意の「一つ」に過ぎないと貶めることで自らの決定に前以ての正当性を与えるべく、汚い言葉となるが、民意もクソもない、白紙の状態だと言っているのである。
2006年5月に辺野古沖現行案案を含む米軍再編の日米合意が成立、閣議決定した(Wikipedia。もし自民党政府が続いていたら、自民党政権下の今回の名護市長選挙で今回と同じように受入れ反対派が勝利しようと、日米合意どおりに辺野古沖への移設に向けて計画は進められたはずだ。元々国の判断とすべき安全保障政策を一地方自治体の判断に委ねるのかという批判は自民党から民主党に向けた批判だったのだから、市長選の民意は自民党には関係ない判断基準とされたはずだからだ。
民主党の普天間移設問題対応の経緯について簡単にではあるが、《民主党、県外移設言及せず 地位協定は「改定提案」》(琉球新報/2009年7月24日)が教えてくれる。
民主党マニフェスト07年版、「在沖海兵隊基地の県外への機能分散をまず模索し、戦略環境の変化に応じて国外への移転を目指す」
衆議院選挙に向けた09年版(「政策集インデックス2009」)、〈「普天間県外移設」の文言はなく、「米軍再編や在日米軍基地のあり方等についても引き続き見直しを進める」との表現にとどまっている。〉――
09年版に触れていないことについて民主党が衆議院選挙で勝利した後の、まだ内閣を発足させていない2009年9月11日の時点で岡田首相が言及している。鳩山発足は2009年9月16日。
岡田幹事長(3党連立合意書に「県外・国外」との表現を盛り込まなかったことを問われて)「民主党のマニフェスト(政権公約)では、そういう(県外・国外との)表現は使っていない。3党連立合意の表現は党マニフェストのままだ」《政権公約に「県外」ない 普天間移設で民主・岡田氏》(琉球新報/2009年9月12日)
07年版には触れていることは隠して言っている。
だが、《普天間問題 鳩山首相は「ゼロベース」を連呼 現地では現行計画撤回への期待高まる》(FNN/09/01/26 00:13)は――
〈2009年の衆議院選で、鳩山首相は海外や県外への移設を声高に訴えてきた。
2009年8月、鳩山首相は「海外に移設されることが、移転されることが望ましいと思っておりますが、最低でも県外移設が期待をされると思っています」と述べていた。〉と書いている。
そして民主党鳩山内閣が発足した。琉球新報社と毎日新聞社が合同で2009年10月31日、11月1日の両日に実施した米軍・安全保障問題に関する県民世論調査では、〈県外・国外移設70% 「辺野古」反対67%〉(琉球新報となっている。
記事は、〈衆院選直前の世論調査では、県外移設と海外撤去を求める県民の割合は55・6%だったが、今回調査では14・1ポイント上昇し、政権交代で県外移設に対する県民の期待値が高まっている状況も示した。〉と解説している。
民主党による政権交代の可能性が高まるに連動して、県外・国外移設の民意が高まり、政権交代を果たし、民主党鳩山政権を発足させたことによって県外・国外移設7割、「辺野古」反対約7割へと高まっていった。
少なくとも07年版マニフェストに「在沖海兵隊基地の県外への機能分散をまず模索し、戦略環境の変化に応じて国外への移転を目指す」と書き、衆議院選挙中、当時の鳩山代表は海外や県外への移設を声高に訴えてきたのだであり、そのことに反応した沖縄県民の世論調査に現れた県外・国外移設への期待値ということなのだろう。
言ってみれば、民主党は沖縄県民の民意に県外・国外移設の火をつけたのである。日米合意破棄の民意に火をつけたと言い直しても過言ではあるまい。
そして今回の名護市長選挙で沖縄県民の民意に県外・国外移設の火をつけた当事者としての自らの立場を守って民主党は社民、国民新と共に辺野古への基地受入れ反対の稲嶺氏を推薦、名護市民の県外・国外移設の民意の結実に力を貸した。
と言うことなら、移設は「ゼロベース」だと白紙の状態から検討するのではなく、県外・国外移設をベースに検討すべきであって、「ゼロベース」とすること自体が民主党のこれまでの姿勢を裏切るマヤカシとなる。
ところが鳩山首相は昨年暮れになって先ず国外移設を沖縄県民の民意から外す、いわば国外移設に関してのみ「ゼロベース」とする態度を打ち出している。《普天間:鳩山首相の国外移設案否定 社民党が猛反発》(毎日jp2009年12月27日21時09分)
12月26日、27日の2日も同じ発言をしているそうだ。
鳩山首相「グアムに8000人の(在沖縄)海兵隊が家族も含めて移ることは(日米合意で)決まっている。それ以上どうかというと、なかなか難しいのではないか。特に抑止力を考えれば難しい」
記事題名どおりに福島社民党首が敏感に反応した。
福島党首「グアムは極めて有力な移設先と考えている。内閣を挙げて県外・国外移設を目指すべきだ。・・・・(結論時期について)大事なのは期限ではなく解決策。無期限にやるわけにはいかないが、多くの人、とりわけ沖縄の人々が納得する解決策を内閣を挙げて探すべきだ」――
極めつけの「ゼロベース」は名護市長選の結果を受けて記者会見で示した平野官房長官の態度である。名護市民の民意(と同時に沖縄県民の民意)をバッサリと切り捨てて、究極の「ゼロベース」――民意をまっさらの白紙とする検討を主張している。
民意は白紙だから、当然政府に決定権を持たせることになる。
《“選挙 しん酌する理由ない”》(NHK/10年1月25日 12時26分)
平野(基地受入れ反対派の市長が当選したことについて)「民意の1つであることは事実であり、それを否定はしないが、今後の検討では、そのことをしん酌して行わなければいけない理由はないと思う。名護市辺野古への移設という選択肢をすべて削除するということにはならない」――
平野「政府・与党の検討委員会は、ゼロベースで移設先を検討している。5月末までに結論を出すというのは、鳩山総理大臣の強い指示なので、それに向けて全力で努力する。地元に対して当然理解は求めるが、最終判断は政府が決める」
もう少し別の言い方があると思うのだが、県外・国外移設の民意は否定しないが、それを斟酌しなければならない理由はないと非情にも言い放ち、最終判断は政府が決めると県外・国外移設の民意を否定する矛盾を平気で犯している。
では、市長選挙は何のためだったのかと言うことになる。何のために与党三党は移設受入れ反対の稲嶺候補を推薦したのか。何のために県外・国外移設の民意に火をつけたのか。
推薦したことも火をつけたことも歓心を買って選挙で票を得るためのマヤカシ、見せ掛けだったと言うことなら、説明がつく。火をつけ、推薦しておきながら、民主党は市長選挙期間中、応援に大物議員を狩り出すこともなかったと上記「FNN」記事が伝えているが、県外・国外移設が表向きの態度だったということなら整合性が取れる、その表れとしてあった大物議員の応援なしだったということなのだろう。
例え県外・国外移設が不可能となって、日米合意通りに辺野古沖移設に落着くことがあっても、移設反対の民意を「斟酌(しん酌」した着地点としなければならないはずだ。また「最終判断は政府が決める」にしても、民意を「斟酌」した同意の取り付けも必要となる。
それを何様になったつもりなのか、沖縄県民の市長選勝利の余韻も醒めないうちに一刀両断に「しん酌して行わなければいけない理由はない」と頭から否定している。
勿論平野官房長官のこの発言に社民党の福島党首は反対している。
「海上基地を作るべきではないという方が当選したのだから、地元の民意は重い」(NHK)――
少なくとも自分たちが火をつけた県外・国外移設の民意の完璧な「ゼロベース」を貫いて決着を果たしたなら、ますます国民の信用を失い、支持率を下げていくに違いない。
国家の重要な外交に関わる一地方の民意であったとしても、暫定税率廃止問題や子ども手当と同様、前後の態度の整合性を喪失させるような政治決定は沖縄県民だけではなく、全国民に信用のなさを印象づけることになるからだ。