有効求人倍率に反した無意味な「公設派遣村」

2010-01-14 07:30:47 | Weblog

 一昨年(08年)暮れから翌(09年)年初にかけて住む家と仕事のない者に住まいと食事と仕事探しを提供する施設、NPOや労組開設の「年越し派遣村」の跡を受ける形で昨年暮れの12月28日から年初の1月4日までの8日間、国と東京都が国立オリンピック記念青少年総合センター(渋谷区)に「公設派遣村」を開設。

 最初の8日間は何もトラブルは起きなかったようだ。だが、最初の8日間がトラブルが起きる序章の役目を果たしたのではないだろうか。国立オリンピック記念青少年総合センターは3食付き個室という待遇だったそうだが、仕事探しの目的以外の雨露を凌げる暖かい住まいと暖かい食事、伸び伸びと過ごせる個室を8日間限定で提供できたとしても、入所者本人は承知していることであっても、仕事探しの目的が果たせないまま折角ありつくことができた3食付き個室の食・住環境をそれ以降取り上げること程、8日間の待遇がいいだけにある意味残酷なことはないからである。

 仕事を失って貯金を使い果たし、ホームレスとなった者がホームレスの境遇からおさらばするために8日間だけでもと入所した者も多くいたようだから、期間終了日に近づくにつれて再び元の境遇に戻ることの遣り切れなさに次第次第に不安に囚われていったといったこともあるに違いない。次第次第に気分がブルーになり、ナーバスになっていった者もいたろうし、寒さや満足に食事にありつけない再度の辛さを考えると、施設の暖かさも食事のうまさも個室の伸び伸びも上の空でしか感じることができなくなっていったといった者も出てきたはずである。

 インターネットカフェからの移動の者は宿泊代と食事代を節約するために入所した者。友達のところに転がり込んだりしていて住まいをどうにか構えていながら、8日間の食事を無料でありつくために住まいなしと偽って入所した者もいたかもしれない。だからと言って、その偽りを責めることはできない。8月から3カ月連続で改善して10月比0.01ポイント上昇とは言うものの、11月の有効求人倍率が0.45倍しかない失業率の高いこの時期に一旦仕事を失ったなら、いつ次の仕事が見つかるか何ら保証もない、僅かながらの貯金がいつ底をつくか分からない失業者からしたら、遣り繰り段々しなければならない者の生きるチエであろう。

 日本航空といった大企業だけが国からの3千億円だ4千億円といった支援を蚕食していいわけのものではない。日航が再建できたなら、出資金も融資金もいつかは戻り、ゆくゆくは法人税を払う立場となり、社員は所得税を払い続けて共に国の税収増に貢献するだろうが、11月末時点での完全失業者数331万人のうち大半が就職できる雇用情勢となって派遣村入所者の大方が就職できさえすれば、個々の金額はたいしたことはなくても、払う所得税の全体額はそれなりの額を占め、消費者として消費活動に失業当時と比較して活発な参加を行うことができるようになるだろうから、その全体額にしてもGDP増にそれなりに貢献できるはずである。

 完全失業者数331万人を可能な限り解消するには景気回復はいくら外需依存だからと言っても、かなりの部分政治の問題であろう。失業者には手の届かない、待ちの姿勢しか許されない事柄である。

 トラブルは1月4日の「公設派遣村」閉村後に継続して食・住を提供する局面で発生した。

 〈「公設派遣村」の経過〉が「日刊スポーツ」記事――《公設派遣村、飲酒横行泥酔で退去者も》(2010年1月9日7時59分)に出ている。

 〈◆「公設派遣村」の経過◆

 ▼09年12月28日 住居を失った失業者対策として、国の予算で500人を上限に代々木公園に隣接する
  「国立オリンピック記念青少年総合センター」を無料開放。
 
  利用はハローワークでの求職者登録者に限定。東京都と委託先民間団体が運営し、3食&個室という待
  遇。初日は約300人が入所。年末にかけて利用者が増え800人に。

 ▼1月1日 鳩山由紀夫首相が同所を訪問し「本当に望んでいる情報が(入所者に)伝わってこないとい
  ういらだちのようなものを感じた」とコメント。

 ▼1月4日 オリンピックセンターを利用した833人中、685人が都内のカプセルホテルなどへ移動。
  在所中に就職相談を受けた人は約80人。


 ▼1月5日 562人がカプセルホテルから大田区の労働者用臨時宿泊施設に移動。

 ▼1月6日 入所者に現金2万円が配られる。施設内で禁止されている飲酒が横行し、泥酔者1人が退所
  処分に。2件の
  現金盗難が発生。


 ▼1月7日 この日朝、入所していた50代男性がアルコール性肝硬変で死去。同日午後8時の段階で、
  557人の利用登録者のうち外出者155人、行方不明者46人の計201人が所在不明になった。

 ▼1月8日 3人が正式手続きをして退所したが、所在不明者も3人増えて204人になった。〉――

 8日間で即元の境遇に戻らずに済んだ。だが、仕事が見つからなければ、いつかは戻らなければならない不安、憂鬱を残した「公設派遣村」からの「カプセルホテル」への移動だったに違いない。

 一旦は「カプセルホテル」に落着いたものの、「公設派遣村」の個室から比較したなら、まさしく薬のカプセルのようなその大違いの住空間の落差。そこで1日は兎に角も凌いだものの、たった1日で大田区の個室ではなく、30~40人の大部屋だという「労働者用臨時宿泊施設」に移動。その行き先定まらない不安定な慌しい状況に元の境遇への逆戻りを身近に感じさせて精神的動揺を与えなかった保証があるだろうか。

 またいくら不安定な生活が身についているとは言え、たった1日の移動は多くの者をして歓迎されざる者の感を抱かせ、一種の盥回しではないかと疑わせた可能性も考えられる。盥回しであろうとなかろうと、雨露を凌げて食事にありつけさえすればいいではないかという見方もあるだろうが、当事者からしたら、不安を抱え、憂鬱な気持のまま移動した者が一人もいなかったと断言できまい。ブルーな気分をますますブルーに色濃くしていった者もいたかもしれない。

 もし団体旅行気分で移動した者がいたとしたら、それはカラ元気に過ぎないか、ヤケッパチな気分に陥っていたかどちらかではないだろうか。

 現金2万円の支給はハローワークに通って仕事を探す、いわば就職活動のための交通費と昼食代の2週間分だそうだ。都の担当者の中には役人根性から恵んでやるといった気分で支給した者もいたのではないのか。

 支給が直接手渡す形で行われる場合、2万円が国のカネであることから上から下への支給となりがちなところへもってきて、手渡す者と受け取る者との社会的立場の大きな差に応じて手渡す側をしてより上の位置に立たしめるからだ。この不況時にタダで2万円ものカネが手に入ることなどない、有難いと思えとばかりに。

 既に触れたように11月末時点での完全失業者数331万人、同11月の有効求人倍率が0.45倍、求職者1人に対して0.45人の求人しかない、特にハローワークに求職者登録者するために仮の住所しか持たない者の有効求人倍率は、例え会社側が寮や社宅を構えていても、しっかりとした住所を持った、身元の確かな者を選択する可能性の方が高いだろうから、0.45倍よりも遥かに低い、ほぼ絶望的な就職状況にあったとしても不思議はない。

 その絶望的な厳しさは入所者の多くが自ら身を以て体験しているはずである。

 ハローワークに通っても仕事は見つからないという状況から、ハローワークに通っても意味はないという境地に否応もなしに追い込まれ、疲れてしまった者が多くいたはずである。何度も何度もハローワークに通って仕事が見つからず、探すことを断念した者たちの存在も考えなければならない。

 だからこそのホームレスであり、少しましなインターネットカフェであって、そのような吹き溜まりに佇まざるを得なかったからこそ、「公設派遣村」への“駆け込み”という次の場面を必要としたはずである。有効求人倍率が証明しているように「公設派遣村」から一人一人が仕事を得てそこから出て行くという状況にあるわけではない。

 にも関わらず、有効求人倍率の証明に反して、「公設派遣村」は仕事を得てそこから出て行くという状況をつくろうとした。入所条件を求職者登録者に限定した時点で、既に意味を失っていたのである。

 このことは新宿近辺の路上で約30年間もホームレスをしてきたという54歳の男性の「年末年始だけでも助かりましたが、ハローワークで仕事が見つかるぐらいならこんな所には来ない。結局路上生活に戻るしかない」(別日刊スポーツ)の言葉が象徴的に証明している。

 そういった事情を考慮せずに、何度も何度もハローワークに通って仕事が見つからず、探すことを断念した者たちの存在など考えもしないで、2週間分の就活費だと言って2万円渡して(施して?)、ハローワークに行って仕事を探して来いと、仕事が見つからないハローワークという逆説に支配された就職職相談所に放り込もうとした。

 何度も何度もハローワークに通って仕事が見つからず、探すことを断念した者たち、ハローワークに通っても仕事は見つからないという状況から、ハローワークに通っても意味はないという境地に否応もなしに追い込まれ、疲れてしまった者たち等々の存在を考えたなら、オリンピックセンター在所中に就職相談を受けた者は利用した833人中約80人だったとしても、一概に批判はできないはずである。

 80人が80人とも就職できたと言うなら、全員が引き続いて相談を受けたはずで、有効求人倍率が0.45倍周辺なら、80人が80人とも就職できるといったことはそんなはずはない不可能事で、80人の中でも期待できないと知っていて、受けなければ格好がつかないからと形式で受けた者、これは儀式に過ぎないと自分に言い聞かせた者たちも多くいたはずである。
  
 形式・儀式で相談を受けた者は受けただけで終わったとしても、「やはりな」で済ませてショックはあまりないかもしれないが、少しでも期待を抱いた者が期待が叶わなかったなら、抱いた分、自分の愚かさが我慢ならなくなって失望を上塗りすることになりかねない。

 また、2万円を渡された以降、〈施設内で禁止されている飲酒が横行し、泥酔者1人が退所処分に。2件の現金盗難が発生。〉したことも、〈3人が正式手続きをして退所したが、所在不明者も3人増えて204人になった。〉ことも、当然と言えば当然のトラブルと言える。

 何度も何度もハローワークに通って仕事が見つからず、探すことを断念した者たち、ハローワークに通っても意味はないと諦めた者たちにしたら、2万円をハローワークに通う交通費と昼食代に使うこと程、馬鹿げたことはないからだ。彼らにしたら久しぶりにありつくことができた飲酒と言うことで、彼らなりの有効な消費だったかもしれない。

 支給された2万円を持ったままの所在不明者が〈204人〉と続出、そのうちの何十人かはあとになって戻ってきたようだが、年齢や経歴を問わずに誰でも雇ってくれるような好況時でなければ自分には採用される条件も資格もないと確信していてハローワークに通うことが時間とカネのムダだ、意味はないと知っている者からしたら、あるいは改めて失望させられるだけだと知っている者からしたら、入所したまま通わずにいることは難しく、2万円をより有効に消費したい思いからも行方不明となった方が彼らなりに正直な行動だと言えなくもない。

 石原慎太郎都知事は所在不明者の続出を受けた1月8日の記者会見で、「入所者のモラルの問題がある。『ごねれば言うことを聞く』とうそぶく。大きな反省の対象だ」(msn産経)と批判している。

 「NHK」記事――《“派遣村”受け入れ延長せず》(10年1月8日 17時47分)では次のようになっている。(一部抜粋)

 〈東京都が7日夜に調べた結果、2万円を受け取ったまま、少なくとも46人の所在がわからなくなっていることがわかりました。これについて石原知事は、8日の会見で「入所している人たちの一部にモラルの問題がある。次は延長しません。どこかでけじめを付けないといけない」と述べ、入所者がこの間に仕事や住まいを決められなくても、予定の2週間以上は期間を延長せず、18日で受け入れを終了する考えを明らかにしました。〉――

 石原知事のこの打ち切り方針は一部の疑わしきを以ってすべてを罰する、いわば推定無罪を否定する、石原慎太郎から見た場合の一部の不届き者を以って、すべてを不届き者として扱う一種の独裁的な蔑視観から出た措置だと言える。

 有効求人倍率が0.45倍周辺の状況下で、しかも年齢や経歴といった資格の点からもハローワークに通わせても就職の保証はできかねる、入所者側からしたら、ハローワークに通っても意味はない、ムダだと言うことなら、就職をさせる方向にエネルギーを注ぐのはムダな努力としか言いようがなく、そうであるなら、正月3ガ日も過ぎたなら、就職させないまま何らかの仕事を与えて少しでも有意義な時間と有意義な報酬を提供できたなら、就職の見込みが限りなく小さなハローワークに通わせることから比較したなら、彼らに元気を与えることができるのではないだろうか。

 予算不足からなのか、多くの市町村で公園の樹木の手入れ、雑草刈りを満足に行っていない。自治会等から所有の草刈機の提供を受け、草刈機扱いの注意を与えさえすれば、単純労働の経験者なら、それ相応に応用を利かせて、未経験者でも1時間もしないうちに取扱いに慣れるはずで、手入れの行き届いていない自治体の公園の手入れをさせる。どうしても草刈機を扱えない者は刈った草を集めて片付ける役に回ればいい。

 大勢で行わせて一人頭の仕事量を少なくすれば体力的にも気分的にも楽な仕事となって長続きすることになる。報酬は臨時の仕事であること、景気が回復するまでの我慢であることとして最低賃金を目安とし、1日6時間程度の4千円前後、一カ月に20日も働けば、20日が不可能なら15日程度働けば公営住宅の空き室に一室何人かずつ住まわせて、家賃と食事と何がしかの小遣いを手にすることができる。財源は国と県以下の自治体が負担する。

 あるいは中央分離帯や高架下の空き地に捨てられたビン・カン拾い、雑草が生えっ放しとなっていたなら、草刈も行う。中央分離帯の場合は車の通行があり、車線規制しなければ草刈機を使うことができないから、少しきつい作業になるが、やはり大勢で一人頭の作業量を少なくする方法で手で抜くか草刈釜で刈る作業に変える。

 河川敷や雑草が生い茂った空き地に捨てられた粗大ごみやビン・缶の片付け。空き地が個人所有なら、所有者に掛け合って、カネを少し出させて草刈やゴミ片付けを必要に応じて行う。各企業に話して、敷地内の草取りやゴミ片付けがあるなら、少しのカネで引き受ける。

 あるいは別の車に二、三人乗せてごみ収集車の跡を追いかけさせ、収集車にゴミ袋を投げ込むときにそれを手渡しする手伝いをさせる。十分に人が足りていても、仕事をさせることに意義を持たせるために暫くの間我慢してもらう。

 噂を聞いて、うちの田んぼや畑、あるいは庭の草刈をしてくれないかと申し出る個人や会社が出てくるかもしれない。

 鳩山御殿は相当に敷地が広いようだから、業者に依頼して手入れは行き届いているとしても、竹箒で掃く仕事ぐらいは提供できるのではないだろうか。

 あるいは各自治体に何十台とあるごみ収集者の洗車を手伝わせてもいい。洗車と言うことなら、バス会社のバス、タクシー会社のタクシー、JRの列車車両や新幹線車両の洗車もあるし、室内清掃の仕事を手伝うこともできる。JRの場合は下請清掃業者の清掃で十分に間に合っていても、ほんのお印程度のカネは出すことができるのではないだろうか。

 報酬を介護施設に負わせずに洗濯したタオルや衣類を干したり、乾いた洗濯物を畳むだけの仕事でもあっても、介護従事者の負担を軽くし、介護企業にとっても少しは助かるはずである。

 こういった仕事の提供と最低賃金程度の報酬の保証は2万円を支給しても仕事が見つからなければ結果としてムダとなるばかりか、見つかりっこないと思っていながら就職相談して予想通りに見つからなかった者を一層失望させるよりも本人にとって意義を見い出しやすいはずである。
 
 真面目に就職相談して就職ができなかったという状況を放置したまま元の食・住空間に逆戻りさせたなら、求職者登録したことも腹立たしく、そういった者からしたなら、2万円持って所在不明となった者の方が遥かに利口だなと思えるのではないだろうか。

 そう思わせてはならないはずだ。


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