学力格差は経済格差が原因ではなく、人間関係格差だとする主張は事実なのか

2009-12-04 10:34:02 | Weblog

 11月17日(09年)の「毎日jp」記事――《全国学力テスト:人のきずなで成績↑ 離婚、持ち家が左右――阪大グループ分析》が「年収など経済的要因よりも、人間関係の『つながり格差』が学力を左右する傾向にある」とする大阪大大学院人間科学研究科志水宏吉教授(教育学)研究室が行った調査を載せている。

 とすると今まで言われていた親の収入が子どもの学歴に影響するという「経済格差=学歴格差」は間違いと言うことになる。

 志水教授は次のように結論付けている。

 「家庭や地域のつながりが緊密に残った場所ほど学力が高く、都市化が進んだ大阪で『しんどい学校』が増えた。子どもと保護者や先生の信頼感、地域の支えなど、つながりの回復が打開策になる」

 いわば人間関係が濃密か希薄か、学力はその密度に影響を受ける。裏を返すと、親の収入には関係ないということである。

 調査は07年の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)と1964年の全国テストの小学6年中学3年の国語・算数(数学)の都道府県別正答率と、国勢調査など統計データに示されている社会環境を加えて分析、年収など各指標ごとに学力に影響する度合いの強さ(相関係数)を比較したもので、その結果学力を左右する要因として▽離婚率持ち家率不登校率――の3指標の比重が高まっていて、指標に加えた「年収」の学力に与える影響は小さいと出たと言っている。

 まず離婚率と学力の相関係数(上昇するほど1に近づく)――

 ▽離婚率小6算数)――1964年(0・102)~07年(0・536)・・・・離婚率が5倍以上にも上昇してい
              る。
 ▽持ち家率小6算数)――1964年(0・070)~07年(0・444)・・・・持ち家率は6倍以上も上がってい
               る。
 ▽不登校率も同様だとしているが、1964年から比較して07年は5~6倍上昇していると言うことなのだろ
  う。

 ▽教育娯楽費割合中3数学)――1964年(0・566)~07年(0・134)・・・・「教育娯楽費割合」が4分
                  の1以上減少している。

 これらの結果を以って、学力に影響する要因として〈経済的な豊かさに関わる指標は影響が小さくなる傾向が出た。〉としている。

 記事はこの調査の傾向が象徴的に現れている例として1996年43位から07年最上位となった秋田県と1996年6位から07年最下位近くにまで成績が落ちた大阪府の指標を取り上げている。

「つながり格差」をもたらす主な指標■   

      離婚率        持ち家率       不登校率

大阪府 0.23(全国4)  53.1(全国45) 1.27(全国13)

秋田県 0.16(全国42) 78.4(全国1)  0.87(全国45)

全国  0.20       61.2       1.17   

<※離婚率・不登校率は06年度、持ち家率は08年現在。単位・%。カッコ内は全国順位


 この統計調査から導き出した結論を記事は次のように記している。

 〈大阪では離婚率の高さや持ち家率の低さが、結果的に親や祖父母、近所との接触機会を少なくしていると評価。学力低迷の要因として、社会環境が子どもの生活や意識を不安定化させているとみる。40年余りで各地の経済力格差が縮小、一方で子どもの環境の変化が大阪で顕著に現れたと分析している。〉――

 調査の詳細を直接知りたいと思って大阪大大学院人間科学研究科のHPにアクセスしてみたが、調査結果をHP上に公表していないのか、アクセスの方法が悪いのか、調査結果に辿りつくことができなかった。記事の内容から推測するしかないが、間違いがあるかもしれない。あった場合はご指摘願いたい。

 〈離婚率の高さや持ち家率の低さが、結果的に親や祖父母、近所との接触機会を少なくしている〉ということなら、非離婚家庭や持ち家家庭が結果的に親や祖父母、近所との接触機会を多くしていると裏返すことができる。そしてこのような事情からの「接触機会」の多い少ないが子どもたちの学力格差につながっているというわけである。

 家を持つにはカネが問題となる。カネがなくては家を持つことはできない。例え30年ローンであっても、30年で返済可能と計算ができる生活の安定を前提として家を持つ。家を持つことによって、子どもの人間関係を多様化させることができ、学校の成績が上がると言っている。

 この経緯は根本のところで親の経済的な問題――いわばカネの問題が深く絡んでいると言えないだろうか。

 一方、非離婚家庭で妻が専業主婦の場合は夫の給料のみで生活が成り立つからこそ可能となっている状況ではあるが、離婚した場合、妻は働きに出て、自分一人の収入で生活を支えなければならない。例え夫婦共稼ぎであっても離婚した場合の収入に関わる条件は同じだが、専業主婦の場合、特に子どもを抱えた状況で新たに仕事を探さなければならない不利は特に日本の社会では相当なものがあるに違いない。

 離婚の結果、家を持たないことと同様に子どもの人間関係を希薄化させ、学校の成績に悪影響を与える・・・・と調査は言っている。

 だとしても、離婚とそのことが引き起こす子どもの教育をも含めた諸々の生活上の問題にしても、根本のところで親の経済的な問題――いわばカネの問題に反応させることはできないだろうか。

 例えば厚生労働省調査の「平成18年度全国母子世帯等調査結果報告」の中の
「離婚母子世帯における父親からの養育費の状況」によると、「養育費の取り決め状況は、『取り決めをしている』が38.8%」で、「離婚した父親からの養育費の受給状況は、『現在も受けている』が19.0%」と非常に低い数字となっている。

 例え養育費を支払う取り決めをしていたとしても、殆んどが途中で取り止めとなっている。

 また「ひとり親世帯の平成17年の年間収入」調査を見てみると、「父子世帯の平均年間収入(平均世帯人員4.02人)は421万円」に対して、「母子世帯の平均年間収入(平均世帯人員3.30人)は213万円(前回調査212万円)、平均年間就労収入は171万円(前回調査162万円)となっている」としている。

 いわば仕事で得ている平均年間収入は171万円だが、児童扶養手当や元夫から貰っているとしたら養育費、慰謝料を合わせて213万円になると言うことなのだろう。年間42万円が労働外収入となるが、月別とすると、3万4千円程度に過ぎない。

 但し、「就業している母のうち『常用雇用者』の平均年間就労収入は257万円、「臨時・パート」では113万円」で母子家庭と言えども、日本の社会の正規雇用と非正規雇用の格差の反映を正直に受けている。

 また平成17年の母子世帯の平均年間収入213万円に対して全世帯の平均年間収入は563.8万円で、一般世帯を100とした場合の母子世帯の平均収入は37.8に過ぎないということだが、両者の生活格差――収入という名のカネの格差の程を窺うことができる。

 勿論、以上の数値はあくまでも平均であって、その分布状況を上記調査は付け加えている。

 平均年間収入213万円のうち、少ない方から4分の1に当たる第1四分位値――118万円     
          (中央値)少ない方から4分の2に当たる第2四分位値――187万円
                 多い方から4分の1に当たる第3四分位値――270万円

 いわば同じ離婚世帯でも多い方から4分の1に当たる270万円収入世帯と少ない方から4分の1に当たる118万円収入世帯の収入格差は152万円もある。月に直して、約12万6千円となる。なまじっかな格差ではない。

 調査は次の状況も伝えている。

 「末子が、小学校入学前の平均年間収入は 177 万円、小学生の平均年間収入は208万円、中学生の平均年間収入は232万円、高校生の平均年間収入は248万円であり、末子の年齢が上がるにつれて平均年間収入が増加している」

 「母子世帯になってからの期間と平均年間収入を見ると、『5年未満』が191万円、「5年以上」が236万円と「5年以上」経過した世帯の方が 23.6 %高くなっている。」

 二つの調査結果は関連し合っている。一つ仕事に就いて年数を経れば、経験年数に応じて昇給していくからだろう。母子世帯経年数と子どもの成長年数が重なる結果である。

 但し、子どもが成長していけば、その分教育費等その他の支出も多くなっていくから、収入が増えたからと言って、そのことが即生活の余裕につながると言うわけではあるまい。

 少ない方から4分の1に当たる第1四分位値の118万円前後の世帯はとても無理かもしれないが、多い方から4分の1に当たる第3四分位値の270万円前後の収入世帯とそれ以上の収入世帯の場合、月収入に直すと24万円の収入になるから、子どもを月5~6千円の会費を払って、そのほかにも通勤費やユニフォーム代がかかるとしてもスイミングスクールやサッカースクールといったスポーツクラブに通わせることができるに違いない。あるいは学習塾でもいいが、サッカースクールなどは幼稚園年中組みから会員を募集している教室もある。

 子どもたちは本人がもう厭だと言わずに通っている限り、自分のしているスポーツが楽しくなっていて、そこで「親や祖父母、近所との接触機会」を友達に変えて子どもたち同士で充実した人間関係を築くことができるはずである。

 子どもが女の子ならピアノ教室に通わせたり、発表会だ、習っている子同士のお誕生会を各家庭で持ち回りに行えば、その子の人間関係を広げることもできる。

 例え離婚母子家庭であっても、カネが保証する経済的な余裕がありさえすれば学習塾や音楽教室やサッカー教室等に通わせることはできるのだから、調査が言っているように離婚率の高さや持ち家率の低さが「人のきずな」を希薄とするとは必ずしも言えなくなる。

 もしそういった子どもたちがそれなりに楽しんで充実した人間関係を結んでいながら学力低下傾向にあるとしたら、別の要因を考えなければならなくなる。

 また1964年から07年までの間に全国的には持ち家率が6倍以上も上がっているにも関わらず、その傾向に反して大阪の持ち家率が低いということは(全国45位)、持ち家のない家庭はアパート等の家賃負担が大きく、そのことが教育にかけるカネの余裕をなくして子どもの人間関係の範囲を狭めているということにならないだろうか。秋田といった地方の場合、地方へ行く程親代々から受け継いだ持ち家が多い傾向にあるだろうから、家賃がかからない分、それなりの収入があれば、子どもにかける教育費も応分に負担が可能となる。

 いわば持ち家問題にしても離婚問題にしても、すべて根本のところでカネがカギとなってくる。

 記事は大学院調査の指摘として持ち家率や離婚率に絡めて「40年余りで各地の経済力格差が縮小」と伝えて、このことを以って「年収など経済的要因よりも、人間関係の『つながり格差』が学力を左右する傾向にある」と結論付けているが、このことは都市と地方の経済格差の拡大が言われていることと反する。

 これは推測に過ぎないが、持ち家世帯に関しては都市と地方の経済格差は縮小しているかもしれないが、大都市になる程、その都市内の経済格差は逆に急激に拡大しているはずである。

 東京を例に取ると、少数であっても年間何億、何十億と稼ぐ人間が存在する一方でホームレスが大多数存在するし、あるいは決して安くない一泊千円以上取るとかいう山谷やその他のドヤ街、ネットカフェに寝泊りする人間が多数存在する。この不況でクビを切られ、住いを失った非正規社員がホームレス化したという話を聞くし、生活保護申請が急増したという報道もある。

 ホームレスやドヤ住まい・ネットカフェ難民が都会に多いのは大きな都会程、このような最低限の住いの不自由しない供給場所ともなっているからで、食に関して言うと、一文無しのホームレスになったとしても、飲食店はどこにもあるから、ごみバケツに放り込んで店の前に出した客が食べ残した食べ物を漁って飢えを凌ぐチャンスに事欠かないし、空き缶・空き瓶を拾って現金化し生活の糧にするにしても、住んでいる人間が多い都会程ポイ捨ても多いはずで、彼らに供給と需要の関係を十分に満たしてくれるはずである。

 いわば大きな都会になる程、社会の吹き溜まりとしての容積が比例して大きくなり、逆説的に住みやすい場所となる。

 但しこのことは同時に大きな都会になる程、住民間で生活格差の拡大が見られるということでもある。

 だが、この調査にはこのような要素は考慮せず、「40年余りで各地の経済力格差が縮小」し、離婚率や持ち家率の増加とは逆に中学3数学の「教育娯楽費割合」が1964年(0・566)から07年(0・134)へと4分の1以上減少していることを根拠に学力格差に関しては「経済的な豊かさにかかわる指標は影響が小さくなる傾向が出た」としている。

 大阪府にしても、東京都同様に住民間の経済格差はピンからキリまで大きいはずである。

 こういうことではないだろうか。「離婚率・不登校率は06年度、持ち家率は08年現在」の調査だとしているが、学力テストの成績自体は1964年と07年の比較である。

 07年は02年から始まった「戦後最長景気」の最終局面の年だが、企業の人件費抑制策として持ち出した雇用の非正規化が拡大した結果、全体の所得は僅かにマイナスとなる伸びをもたらし、当然個人消費の拡大に反映されるはずはなく、企業一人勝ちの景気となって一般国民には「実感なき景気」と言われた。

 そのような「実感なき景気」の中で正規社員と非正規雇用、そしてそれ以下の低所得者との経済格差は大きなものがあったはずである。いわば「教育娯楽費割合」に関して中高所得者の金額面の支出は変わらなくても、あるいは少し上昇を見たとしても、それを差引いて持ち家を持たない世帯にほぼ重なる離婚家庭や非正規雇用等の低所得者が一人ひとりの金額は少なくても、人数の多さの点で1964年(0・566)から07年(0・134)へと4分の1以上の減少分の多くを担ったことからの調査値ということではないだろうか。

 この推測が正しいとなると、「年収など経済的要因よりも、人間関係の『つながり格差』が学力を左右する傾向にある」とする大阪大大学院の調査を正しい指摘ではないことになる。

 あるいは逆に調査とその指摘が正しくて、当方の推測が間違っているのかもしれない。

 この調査を全面的に正しいと把えて、これまで「学力格差は経済格差」と言われてきたことが社会共通の考えとなって「カネの全能性」が取り沙汰され、「要するにすべてはカネの問題だ」という薄っぺらなリアリズムに走って成績の悪いことの正当化に親にカネがないことを理由とする子どもが多く現れたと、「学力格差は経済格差」の考えを批判する向きもあるが、この批判が正しいとしても、カネがすべてを解決する力はないと「カネの全能性」は否定できるとしても、カネがあらゆる物事に於ける解決の大いなる力であることに変わりはないと言えるのではないだろうか。

 だからこそ、スパコンの研究開発やその他の科学技術の研究などで、国の予算に頼る。研究側から言わせたなら、このことは「研究格差は経済格差」だと言っていることであろう。

 事実経済大国程、技術開発は進んでいる。

 カネが物を言う現実世界は決して「薄っぺらなリアリズム」ではない。特に子どもを抱えて教育費の捻出に難儀している低所得者にとっては切実深刻な「リアリズム」以外の何ものでもないだろう。子ども手当2万6千円の政策で民主党に投票した有権者が多くいたことも、教育にしてもカネであることを物語っている。 


 記事の読み方が間違っているかもしれないから、「毎日jp」を全文参考引用しておく。  
 《全国学力テスト:人のきずなで成績↑ 離婚、持ち家が左右――阪大グループ分析》(毎日jp/2009年11月17日)

 大阪大大学院人間科学研究科 全国学力・学習状況調査 社会環境

 07年の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)と1964年の全国テストを社会環境を加えて分析したところ、学力を左右する要因として離婚率▽持ち家率▽不登校率--の3指標の比重が高まっていることが、大阪大などの研究グループの調査で分かった。いずれも家庭、地域、学校での人間関係の緊密さに関連する指標で、研究チームは「年収など経済的要因よりも、人間関係の『つながり格差』が学力を左右する傾向にある」と指摘。子どもの生活基盤を支える指導の重要性を再認識させる結果として、注目を集めそうだ。

 大阪大大学院人間科学研究科の志水宏吉教授(教育学)の研究室が、両テストの小学6年と中学3年の国語・算数(数学)の都道府県別正答率と、国勢調査など統計データを分析。年収など各指標ごとに学力に影響する度合いの強さ(相関係数)を比較した。

 それによると、離婚率と学力の相関係数(上昇するほど1に近づく)は64年から07年に0・102から0・536(小6算数)に上昇。持ち家率も0・070から0・444(同)と強まった。不登校率も同様だった。これに対し、教育娯楽費割合が0・566から0・134(中3数学)となるなど経済的な豊かさにかかわる指標は影響が小さくなる傾向が出た。

 両テストの都道府県別順位は、07年最上位の秋田県が43位から躍進、大阪府は6位から最下位近くに陥落している。研究グループは大阪では離婚率の高さや持ち家率の低さが、結果的に親や祖父母、近所との接触機会を少なくしていると評価。学力低迷の要因として、社会環境が子どもの生活や意識を不安定化させているとみる。40年余りで各地の経済力格差が縮小、一方で子どもの環境の変化が大阪で顕著に現れたと分析している。

(この分析はおかしい。都市と地方との経済格差は広がっているはず。また非正規社員が増え、正規社員との経済格差・収入格差が確実に広がっている。「離婚」によって収入が減った、「持ち家率の低さ」は低収入の証明。経済格差が底にあるはず。)

 志水教授は「家庭や地域のつながりが緊密に残った場所ほど学力が高く、都市化が進んだ大阪で『しんどい学校』が増えた。子どもと保護者や先生の信頼感、地域の支えなど、つながりの回復が打開策になる」と話している。【竹島一登、福田隆】

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 ■「つながり格差」をもたらす主な指標■    

     離婚率        持ち家率       不登校率

大阪府 0.23(全国4)  53.1(全国45) 1.27(全国13)

秋田県 0.16(全国42) 78.4(全国1)  0.87(全国45)

全国  0.20       61.2       1.17   

 ※離婚率・不登校率は06年度、持ち家率は08年現在。単位・%。カッコ内は全国順位

 ■ことば

 ◇全国学力テスト
 「教育の成果と課題の検証」を目的に07年にスタートした。小学6年と中学3年のほぼ全員が対象。文科省は「序列化や過度な競争」を避けるため、市町村・学校別の結果は非公表とするよう求めている。全国テストは1961年に始まったが、文部省(当時)は64年を最後に全員参加方式を取りやめた。

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