自民党が安倍・福田・麻生内閣で順次支持を失っていったその回復と拡大を目的に企画した議員の地元を有権者と回るイベント「みんなで行こうZE」の第1弾として引退した小泉純一郎元首相の長男小泉進次郎一年生議員の海上自衛隊横須賀基地見学ツアーが13日開催されたと言う。
参加者の構成はスポニチによると、〈8割は女性で、20~30代が中心。理由はさまざまで「艦船が見たかった」(30代女性)などが多かったが、中には「(兄で俳優の)孝太郎さんが好きなので」という女性の声も。進次郎氏が登場するとカメラ付き携帯電話での撮影会が始まった。〉というから、タレント趣味のミーハーが主流で、レジャー気分の参加者が多かったように見えるが、しかし何票か自民党へ流れるとしたら、バカにはならない。
《小泉進次郎氏が基地ツアー=競争率100倍、海自は取材拒否》(時事ドットコム/2009/12/13-18:22)から様子を見てみる。
インターネットを使ったツアー参加募集に参加者49人に対して5200人が殺到、競争率は100倍を超えたという。これは平均的な一年生国会議員に不似合いな、それを超える凄(すさ)まじいばかりの人気と言えるが、小泉純一郎の高かった国民的人気を父子継承したサラブレッドならではの成果なのは誰の目にも明らかである。
勿論、本人の資質に与っている部分もあるだろうが、その資質にしても父子継承した側面が強いはずである。
ツアーは停泊中の護衛艦2隻の見学のほか、基地内で小泉進次郎と横須賀名物の「海軍カレー」を食べながら懇談。
海上自衛隊側は「特定の団体に肩入れするわけにはいかない」と報道陣の同行取材を拒否したという。
見学後の記者団の取材に――
「『来て良かった』と言ってくれたのが何よりうれしかった。・・・・自衛隊の意向か、ほかの方の意向か分からない。民主党は公開性を重んじる政党だから、公開でも良かったのでは」
海上自衛隊の取材拒否が民主党の「横やり」だとの見方を示したという。
小学4年生の娘と参加した東京都多摩市在住の男性会社員(38)。
「自衛隊に接する機会が少ないが、安全保障を考えるいい機会になった」
海上自衛隊からそこそこの説明を受け、海軍カレーを食べながら小泉進次郎と安全保障に関して懇談しただけで「安全保障を考えるいい機会になった」とはコピー&ペーストの脳意識からなのか、安直・簡便でいい。
このことを裏返すなら、頼もしい限りだが、38歳になるまでの新聞記事やテレビのニュース・報道が「安全保障を考えるいい機会」になっていなかったことの暴露でもある。一般的な日常的情報が役に立っていなかったということなら、海上自衛隊見学ツアーに参加しなかったなら、「安全保障を考えるいい機会」は永遠に訪れなかったかもしれない。幸せ者めっ!
小泉進次郎は父親である政治家として輝かしい経歴に恵まれた小泉純一郎が祖父・父・自身の三代で後生大事に築き上げた鞄(カネ)と地盤と看板と、看板の中でも特に名声だけにとどまらない人気という財産まで受け継ぎ、今や父親を凌ぐ知名度を獲得し、マスコミの厚遇を受けて父親に劣らない存在感を示すまでになっている。
この華々しいクローズアップはまさしく小泉純一郎の元、選ばれし者としてこのように生を受けたことによる脚光でもあろう。
この選ばれし者として陽の当たる場所に生を受けた小泉進次郎の対極にある存在者として上記記事と同じ日付けで紹介されている母子家庭の高校生を挙げることができる。
彼らとて、ある意味選ばれし者として生を受けた人間のリストに入るはずである。
《塾などの教育費、母子家庭は平均の6割 高校生対象調査》(asahi.com/2009年12月13日20時39分)
父親を亡くした「あしなが育英会」が調査した同会の奨学金を受けている母子家庭の高校生の生活状況によると、塾や参考書購入など学校生活以外でかけている教育費は公立の生徒で公立の全国平均年間約17万円に対してその約6割にとどまる年間約10万円。
私立の生徒で私立の全国平均年間約30万に対してその4割にとどまる年間約12万円。
母親の平均年収が父親の生前の半分となる約246万円、月平均20.5万円だというから、高校生である子供達の生活外教育費にかけているそれぞれの金額は母親が少ない収入から子どもの将来を考えて頑張って支出しているが、それでも全国平均以下ということではないだろうか。
制服代、部活費、修学旅行費など授業料以外でかかる学校生活上の教育費の状況調査でも母子家庭は全体平均を下回って、公立生は公立の平均年間約24万円に対してその7割にとどまる約17万円、私立生は私立平均の年間約46万円に対してその半分にとどまる23万円。
ぎりぎりまで切りつめ、修学旅行に行けない生徒も少なくなく、今回調べた公立高校生の半数が、低所得を理由に授業料の全額免除を受けていたと記事は紹介している。
同じ「あしなが育英会」の調査を扱った「YOMIURI ONLINE」記事――《母子家庭、仕事持つ母の63%が非正規雇用》は母子家庭のうち仕事を持つ母親の63%がパートなど非正規雇用だったと書いている。
非正規雇用の割合は働いている同世代の女性の平均より5ポイント高く、72%の母子家庭で「生活水準は下流」との意識を持っていたと調査内容を伝えている。
こういった状況は離婚等による生別の母子家庭も似たような境遇にあるに違いない。あるいは離婚によって夫と住んでいた家を出てアパートを借り、それまで専業主婦であったために自分で仕事を見つけなければならない女性はもっと悲惨な境遇を見舞われているかもしれない。
いずれにしても死別・生別に関係なく生活に困窮しながら子どもを一人で育てている女性にしてもその子どもにしてもカネの力というものを、大袈裟に言うなら、「カネの全能性」というものを痛感しているに違いない。少なくとも肌で実感しているはずである。
小泉進次郎の輝かしく選ばれし者の境遇から較べたなら、何という色褪せた選ばれし者たちの境遇だろうか。
また収入不足ゆえに子どもの教育にカネをかけることができない母親は「学力格差は経済格差」という社会状況(=社会がそう仕向けている状況)を痛感してもいるはずである。母子家庭の公立高校生の半数が低所得を理由に授業料の全額免除を受けているとしたら、その生徒達の殆んどが塾には通うことができないでいると見るべきで、そこに学力格差が生じない保証はない。
勿論、全額免除を受けていない生徒の中にも塾に通いたくても通えない生徒が多くいるだろう。
ところが世の中には「学力格差は経済格差」は事実無根で、教育に関わる「カネの全能性」信仰は薄っぺらなリアリズムに過ぎない、にも関わらず、多くの大人や子どもが「学力格差は経済格差」に振り回されてきたと主張する偉い人がいる。
結果、学校の成績が悪いことを親にカネがないことの責任にして、子供たちは「カネの全能性」への思いを強くし、「学力を高める動機」よりも「カネを儲ける動機」の方を選択するようになり、中には満足に学校に行くよりもカネを稼ぐ道を選ぶ生徒が出てきたとしている。
多分、援交や売春や自身のヌード写真を撮ってカネにする女子中高生や万引きや恐喝で小遣い稼ぎをする男子中高生のことを頭に描いて言っているのだろう。
だが、殆んどの生徒が可能な限りより良い大学を目指そうとするのはそこをステップとしてより良い企業への就職を図り、より良い収入を得ようとする基本のところでカネが目的だからだろう。部活に入って、サッカーや野球のプロを目指すのも、高収入という名のカネを目的としていることを重要な動機の一つとしているはずである。人間が生活の生きものである以上、生活を利害対象とし、利害損得で生活設計するのはごく当たり前の営みに過ぎない。
いわば誰もが生活を設計する段階に於いても、現実に生活を営むときでも、カネを無視できない目的としている。いい大学に入って、いい企業への就職を目指すか、学校の成績がそこそこであるためにそこそこの大学を目指して、そこそこの企業に入り、そこそこの収入を得て、そこそこの生活を営むか、あるいはテストの成績に関係なしに始めることができる売春で手っ取り早くカネを稼ぐか――大金を手に入れる入れないは別として、すべては生きていく根底で「カネの全能性」を動機として人間の生命の営みを成り立たせているはずである。
「カネの全能性」を生まれながらに手にしている者、手にしていない者、一生手に入れない者――どういった境遇に選ばれし者となるかによってその差別を受ける。 |