世界の動きを英語で追う

世界と日本の最新のできごとを、英語のキーワードを軸にして取り上げます。

「元は早晩固定レート脱却」と中銀総裁 No Hint about Timing

2010-03-08 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2010年3月8日(月)

人民元は、2008年中半以来対ドルで実質的に固定化されてきたが、米国はオバマ大統領を先頭に,人民元の切り上げを求めて強い圧力をかけつづけている。これに対して中国側はふたつのトーンの異なる信号(mixed signals)を週末に連続して発信した。

ひとつは金曜日の全人代における「合理的な均衡水準における人民元レートの基本的安定を保つ」との温家宝首相の演説である。今ひとつは、中国人民銀行周小川総裁が、翌土曜日の記者会見において「レートは各種の経済指標に基づいて機動的に調整する必要がある」と述べたことである。

温家宝首相の人民元に関する発言は、「内需拡大、物価上昇率3%、8%成長の目標を達成しながらバブル発生の抑制を図る」という経済政策パッケージのコンテクストの中で行われたものであるが、この「合理的な均衡水準における人民元レートの基本的安定を保つ」との人民元部分は、従来の「切り上げ圧力には屈しない」という首相発言の繰り返しであり、いわば「情報量ゼロ」である。

一方、その翌日の中央銀行総裁発言は人民元切り上げ問題に大きく踏み込んだ発言となった。Financial Timesによると、この中銀総裁発言は、「(人民元レートの対ドル固定は)世界の金融危機への対処の一環として取られた政策である。早晩、脱却する意思を持っている」“This is a part of our package of policies for dealing with the global financial crisis. Sooner or later, we will exit the policies.”となっている。

これは、アドバルーンとしてあげた前日の首相演説に対する、米国などの反応を見た上での計算された発言と考えられるが、The Wall Street Journalを始め米国の各紙は、「中国首脳がこれまでしばしば強調してきた、『条件をつけない通貨安定』(currency stability without much qualification)に比較して、切り上げ方向に足を踏み出したものであると論評している。

なお、中国政府がcurrency stabilityというときは、『人民元の対ドル固定化』のことであることに注意が必要である。しかし、当然のことではあるが中銀総裁は、切り上げ時期についてはまったく言及していない(no hint about the timing)。

さて三つ目の信号が中国政府から出てきた、それは日曜日に記者会見を行った楊外相の発言である。同首相は、「中米関係改善は米国の態度しだいである」との基本姿勢を繰り返し、「関係悪化の責任は中国にはない。米国は中国の立場を真剣に考慮し、中国の最重要国益(China’s core interests)を尊重すべきである」と発言。さらに「中国は原則に忠実であろうとしているだけで、強行外交(being hardline)に転じたわけではない」と質問に答える形で、その立場を擁護した。

中国は、人民元レート固定は、米国などが引き起こした金融危機対処のため世界のためにやむなくとっている政策であるとし、問題を対米カードのひとつとして台湾問題、チベット問題と同列に並べて交渉しようとのしたしたたかな計算をしている。

そして、政府関係者は統制の取れたひとつの声(one voice)で順序良く、信号を発信していることが、金曜日、土曜日、日曜日の上記の要人発言からもよく分かる。




最新の画像もっと見る