世界の動きを英語で追う

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東芝における「チャレンジーChallenge」の誤用、Stretchというべきだった

2015-07-23 | 世界から見た日本
東芝で、歴代3社長が同時辞任という事態に発展した「不適切会計」問題で、マスコミ報道は過熱している。「不適切」という言葉は、最近多用されるようになった、婉曲表現であるが、英語では"inappropriate"という形容詞または、"irregularities"という名詞が相当する。後者は、議会での野次を「不規則発言」ということにどこか共通性がある。そして不倫は「不適切な関係」と総称されて、何か難しいことを行っていることを想起させてくれるので楽しい表現である。一昔前であれば、この東芝の「事案」は、ずばり「粉飾決算」である。そしてこの「事案」というのも最近のはやりである。警官が汚職をすれば署長が、教え子がいじめ自殺をすれば校長が、「本事案」とその大事件を呼びかえるのである。


さて、日経新聞のコラム「春秋」が、「社長月例という会議で、社内カンパニーの長らに「チャレンジ」と称する過大な目標の設定が命ぜられる。意を受けた事業部長、社員らが会計操作に手を染め続ける。内部統制も効かない。誰もが「まずい」と思いつつ、破滅の坂を転がっていく。どれだけの人が苦い酒を飲み、眠れぬ夜を過ごしたかと同情を禁じ得ない。」と悪代官と善良な領民のアナロジーで表現している。

さてここで問題となるのは、「チャレンジ」という英語の日本的誤訳ないし、誤用である。英語のChallengeは、必ず相手が存在して、その相手の命を奪うことを決意した時や、相手の地位・正当性・主張を打倒することを決心した場面が前提となる言葉である。チャレンジは、大体「挑戦」と翻訳されているが、積極的、進取の前向きなものごとへの取り組みという意味で日本語化している。どこか微妙に言葉の中心軸がずれて日本語化してしまったようである。名詞のchallengesは、「自分に向かってくる困難な事態」と理解すべき場合がほとんどである。憲法学者は安倍さんの法案にまさに合憲性で、challengeしたのであり、安倍さんにとって法案が無事通過できるかは、今日現在、立ち向かうべきa big challenge(大問題)なのである。

さて、歴代3社長殿は「チャレンジ」ではなく、なんと表現すべきであったのだろうか?それは"stretch"である。ストレッチの無い計画を出せば米国企業社会では、すぐに失職する危険がある。ストレッチの達成が、個人のボーナスと直結し、雇用契約の更新の前提となる契約社会である。したがって達成不能のストレッチを引き受けることは、破滅が待っているから、日本のような全社員が唯々諾々と実効不能のStretch命令に従うことはまず起こりえない。一方、日本では旧日本軍の伝統が生きていて、「なせば成る」、「やってみなきゃわからないじゃないか」、「本気でやってみろ」、「一億火の玉」と、猪突猛進、最後は玉砕まで進んでしまうのだ。