ONE FINE DAY

「昨日のことは忘れてほしい」
「もう遅い。日記に書いた」

シュヴァルの理想宮

2008-02-02 | 美術
旅日記の続きを書かねばと思いつつ、
今日すごいものを見てしまったので忘れないうちに書きとどめておく。

旅行中に放送されたハイビジョン「夢の美術館100選・建築」の録画を見た。
その中で紹介されたフランスの「シュヴァルの理想宮」
半世紀生きてきてこれほど驚いたことはない。いやほんと。
雷に打たれたくらいびっくりした。

フランスの片田舎で毎日32キロ歩いて郵便配達をしていた男が、
ある日奇妙な形の石につまずいたことが発端となり(この時43歳)、
その日から毎日毎日路傍の石を集め、33年かけて自分の理想宮を作ってしまった。
それがこれ。

(画像はWIKIPEDIAより)
たった一人で!
給料の半分はコンクリートの購入に使い、集めた石とコンクリートで、
こんなものを作り上げてしまったのだ。
WIKIPEDIAでは彼をパラノイアと書いていたが、
ある意味、常人では成し得ない偉業だろう。

この理想宮を見ながら、
私がまず思い浮かべたのは何故かルソーだった。
シュヴァルもルソーも同時代のフランス人。
共に退屈な仕事を長い間続け、中年を過ぎて創造の世界に飛び込んだ。
ルソーは仕事をしながらも絵は描いていたのである日突然というわけではない。
しかし本格的に創造し始めたのは中年以降。
シュヴァルの創造の源は幼い頃に夢中になって読んだ挿絵付きの百科事典。
また、郵便物の中の外国の絵はがきなども彼のイメージを膨らませた。
ともに外国を旅したことは一度もなく、
ルソーもまた動物図鑑や植物園に通って想像を膨らませた。
建築の知識などひとつもないシュヴァル。
本格的な美術の勉強はしたことのないルソー。
しかし、彼らの成し遂げたことはアマチュアの域を遙かに超えて、
誰も到達できないところまでいっている。

ロンドン・ナショナルギャラリーで、
娘が一番好きな絵がルソーの「虎のいる熱帯の嵐(驚いた!)」

今回の旅で私もこの絵を見ることができた。
印象派の傑作の中にぽつんのかかったこの絵。
娘が夢中になるのもうなづける。
名だたる名画の中にあって異彩を放っている。
今日「シュヴァルの理想宮」を見てその謎が少し解けたような気がする。
つまりこれはアマチュアだからこそ成し得た世界なのだと。

キーワードはピカソ。
ピカソはルソーを常に高く評価した。
「ゲルニカ」を描く前に「シュヴァルの理想宮」を訪れている。

天才ピカソは幼い頃から本格的にデッサンを学び、天才ぶりを発揮。
描こうと思えばいくらでも写実的に描けただろうし、
ドラクロアにもアングルにもクールベにもなりえたかもしれない。
しかし時代は彼にそれをさせなかった。
かといって完全な抽象にいきつくこともなく、
印象で描くには遅すぎた。
彼が追い求めたのは子供のように描くこと。無心に。
私にピカソがどうしても理解できなかったのは、
どんな絵でも描こうと思えば描けるのに、
何故あんな絵を描いたのか?ということだった。
あんな絵といったら怒られるかな?(笑)ごめんなさい。
しかし、ルソーとシュヴァルの理想宮を見て、
ほんの少しだがピカソが理解できる気がした。
いかに天才でも到達できない世界があるのだ。
それに憧れるのは芸術家として当然のことかもしれない。
ピカソが憧れても憧れても行きつくことが出来なかった世界。

それが、ルソーとシュヴァルの理想宮なのだ。




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2 コメント

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Unknown (,yasarinn)
2008-02-02 05:55:49
今日のブログ サイコー。夢中になったものの話聞くのだいすき。えーえーなな なんなのその理想宮を建てた人物。うー私も観て見たい
そうだね。心のままになにかをつっくていける人の持つ魅力ってステキだものね。また 新しい世界を教えてもらって姉ちゃんは 嬉しすぎです。いもうと二人の興奮が伝わってくるよ。いつも あらがとう。ルソーの絵 あー風 嵐の音やにおいまで感じます。この文章コピーして何回も楽しむわ。ありがとう。時差ボケの体 だいじにね。
 
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Unknown (コリコ)
2008-02-02 10:37:19
シュバルの理想郷、気に入ってもらえるとは思ったけど、ここまでか!!
ルソーが出てきた辺りでは、なるほどねえ。
その後ピカソまで登場?!
キャサリンちゃん、BS2で再放送するから、要チェックだよ。
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