ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

チェ/39歳 別れの手紙

2009年02月28日 | 映画レビュー
 第1部でキューバ革命が成功したと思ったら、第2部ではキューバのその後をまったく描かず、いきなりゲバラはキューバを脱出する。実は上映直前にお腹の調子が悪くなってトイレに籠もっていたので、巻頭を見損ねてしまった。ゲバラがカストロに宛てた別れの手紙を当のカストロが読み上げるシーンがあるはずなのだが、それを見ていない! 残念無念。

 で、あっという間にボリビアでの山岳ゲリラ戦が始まるのだが、これがもうひたすら退屈。いくらゲバラを追体験する映画だからって、いくら臨場感を出したいからといって、あんまりにも記録映画みたいに撮ってしまうもんだから画面が揺れすぎて、目が疲れて眠くなる。というわけで、おそれていたとおり、やっぱり寝てしまいました…(涙)。うつらうつらとあっちの世界へ入っていた、これはいかん!とはっと気づくと延々と銃撃戦をやっている。鉄砲を撃っていたと思うとボリビアのゲリラ兵士(貧農)たちが脱走する。ありゃー、と思っているうちにまたしてもうつらうつら…で、目が覚めたらやっぱりさっきと同じように山の中を銃を担いで行軍しているかと思えばゲバラは喘息に苦しんでゼーゼー言っている。気の毒に…と思ってまたうつらうつら…目が覚めたらやっぱり山の中で、またしても兵士が脱落してゲバラが怒っている…あぁ、また眠いグゥ…と思ったらまだ山の中で、食糧がないとか言っている…ううう


 てな具合で繰り返しているうちに、とうとうゲバラがボリビア政府軍に捕まってしまったではないか。ちっともいいところを見せられなかったゲバラである。これは辛い。まあ、史実だからしょうがないけど。さすがにゲバラが捕まってからはバッチリ目が覚めていたので、最後まで緊張して見ておりました。

 かつて読んだ血湧き肉躍る「ゲバラ日記」には、ゲバラが軍紀を乱した兵士を処刑する場面が出てくる。日記ではゲバラの苦しい胸の内が描かれているのだが、映画ではゲバラは情け容赦ない司令官のように見える。ゲバラは、キューバ革命が成功した後は、閣僚の中で孤立したらしい。いわく、彼があまりにも自他に対して厳しく、自分のように倫理的に振る舞うことを他者にも求めたからだという。確かに、誰もがゲバラになれるわけではない。彼のような理想主義者、彼のような高い知性、彼のような高い倫理性、彼のような勤勉。誰もが彼のようにはなれない。しかし、この「チェ」という映画を見るだけでもわかることは、ゲバラが革命兵士に対して自分のような高い倫理を求め、それを守れない人間には粛清という「返礼」をなしたことだ。ラテン国家ではこれはつらいことだろうと思う。ゲバラがその余りにも厳しい人格ゆえに閣僚に疎んじられたことは想像に余るある。いかにゲバラが愛に満ちた革命家であっても、それを誰もが倣(なら)うことは不可能なのだ。

 ゲバラは39歳で夭折した。しかしもし彼が権力の中枢に居座り続けたら、キューバでは恐るべき粛清の嵐が吹き荒れていたかもしれない、とも思う。常人では真似のできない理想主義者であったからこそ、そしてそんな畏敬すべき革命家が夭折したからこそゲバラは伝説になった。もし彼が長生きしていたら… 

 歴史に”if ”はタブーである。わたしはもちろん今でもゲバラファンであるが、しかし彼の欠点もまた見据えねばならないと思う。世界革命を夢見てすべての権力を投げ打った希有な革命家が存在したこと、それは20世紀の一つの奇跡であろう。
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チェ 39歳 別れの手紙
CHE: PART TWO
フランス/スペイン、2008年、上映時間 133分
監督: スティーヴン・ソダーバーグ、製作: ローラ・ビックフォード、ベニチオ・デル・トロ、製作総指揮: アルバロ・アウグスティンほか、脚本: ピーター・バックマン、音楽: アルベルト・イグレシアス
出演: ベニチオ・デル・トロ、カルロス・バルデム、デミアン・ビチル、ヨアキム・デ・アルメイダ、エルビラ・ミンゲス、フランカ・ポテンテ、カタリーナ・サンディノ・モレノ