ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

ブロードウェイ♪ブロードウェイ/コーラスラインにかける夢

2008年11月09日 | 映画レビュー
 ミュージカル「コーラスライン」(1975年初演)そのものがミュージカルのオーディションを舞台にしたものであるのだが、その「コーラスライン」再演のためのオーディション風景をドキュメント映画に撮ってしまおうというアイデアが秀逸。ドキュメントミュージカルのドキュメンタリー化というのも二匹目のどじょうの変速狙いで、これは面白い素材だ。オーディション場面をそのまま映しただけなのに、誰が役を射止めるのかという興味で観客を引っ張り、また、素晴らしいダンサー達の踊りと演技を堪能できて、「コーラスライン」も一粒で二度美味しいというめっけもの。

 元の芝居を知っていることがこの映画を楽しむ大前提だ。この映画はオリジナルの「コーラスライン」のメイキングにもなっていて、今は亡きマイケル・ベネットの肉声もたっぷり聞ける。わたしは舞台劇は見ていないので天才振り付け師にして演出家マイケル・ベネットの演出を知らない。リチャード・アッテンボロー監督の映画版しか見ていないが、この映画版も十分楽しくかつ泣かせる傑作ミュージカルである。

 本作のオーディションの合間に、かつての舞台で主役のキャシーを演じたドナ・マケクニーの踊りが随所で見ることができる。これがまたスピード感とメリハリの利いた鋭角的な踊りで、目を見張る。オリジナルミュージカルはマイケル・ベネットの自伝的作品でもあり、主役のキャリーは当時マイケルの恋人であったドナをモデルにして、彼女のために書かれたものなのだそうな。だから、彼女の持ち味を十分に生かした演出・振り付けがなされていたが、それを再演するとなると、キャリー役を演じる主演ダンサーを選ぶのがもっとも難しくなる。キャリー役の最終オーディションでは選び抜かれたダンサーたちが素晴らしい踊りと演技を見せてくれる。しかし、一年近くに及ぶオーディションの期間中に同じテンションを維持するのは難しい。「去年の夏に見せてくれたあの演技が素晴らしかった。今日の演技はあのときとは違う。去年の演技をもう一度見せてくれ」と審査員に請われても、「去年の夏の演技なんて覚えていないわ!」とパニックに陥る候補者。迫真の場面には思わず身を乗り出してしまった。彼ら彼女たちはこの仕事にすべてをかける。この役こそが自分たちそのものであり、このミュージカルこそが、明日の栄光を夢見る自分たちの姿を描いたものなのだ。

 19人の役を3000人で奪い合う。この熾烈な競争に勝ち残る才能溢れるダンサーたちの演技は、オーディションとは思えない素晴らしいものもある。審査員まで思わず泣かされてしまった場面では、わたしもついもらい泣きした。踊り、歌、演技。三位一体で完璧に演じなければならないハードルの高さには思わずため息。ダンサーたちの踊りはいずれも素晴らしい。演技も言うことなし。ただ、歌に関しては、この2要素に比べて劣る人々が多いのが気になる。もちろん誰もがかなりのレベルをクリアしているのだが、歌を聴かせる、歌でうならせてくれるような役者がいなかったのはどうしてだろう。これは難しい要求かもしれない。「コーラスライン」は何よりも踊りのレベルがかなり高いミュージカルなので、まず、踊りで落とされてしまう。さらに歌までも要求するのは酷なのかもしれない。

 夢に賭ける人生。そのぞれの悲喜こもごもの人生ドラマを描いた「コーラスライン」へ賭けるダンサーたちの生の姿もまた「コーラスライン」そのものだ。辛い日々を送る人々にエールを送る作品。わたしもまた勇気づけられた。

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ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢
EVERY LITTLE STEP
アメリカ、2008年、上映時間 93分
監督・製作: ジェームズ・D・スターン、アダム・デル・デオ、音楽: ジェーン・アントニア・コーニッシュ