



















憂歌団のけだる歌が流れるなか、トンネルの向こうからやってくる、赫い髪の女。
大型トラックがすれ違い、その瞬間、振り返り、その髪を揺らした女のスローモーション。
彼女の横をトラックがすり抜けると同時にストップモーションとなり、タイトルが出る。
「赫い髪の女」
70年代で最高の映画作家の一人神代辰巳の代表作、このファーストシーンは真に映画的だ。
たった73分の上映時間。
そのなかに繰り広げられる「男と女の性」。
主演は宮下順子と石橋蓮司である。
わびしげな雨で湿気ったシネマスコープ画面は、文字で形容しがたい脱力感に満ちている。
この世に男と女が存在するかぎり逃れられぬセックスの、その哀しさと滑稽が、かったるく横溢する。
神代はそのさまを「仕っ方ねえなあ……」と見つめている。そのたぐい稀なるやさしさ。
なにもかもが整理されてしまう21世紀。
彼のような「才能」が存在することが許されたなんて、70年代は「いい時代」だと思う。