『スケアクロウ』 案山子の上に広がる空の色

ジェリー・シャッツバーグの「スケアクロウ」。
あまりにも高名なファーストショット。

重く垂れ込めた曇り空の下の丘。
見事にコントロールされた微妙な肌触りを見せる色彩と構図。
撮影はヴィルモス・ジグモンド。

遠くから歩いてくるのは粗暴なジーン・ハックマン。
彼が出会うのは繊細なアル・パチーノ。
映画史に残る二人の男の旅の映画である。

シャッツバーグとダナウェイ

映画「スケアクロウ」の監督シャッツバーグは写真家でもある。
映画を撮り始める以前は「ヴォーグ」「ハーパース。バザー」で活躍。
ボブ・ディランやイーディ・セジウィックを撮った。
女優のフェイ・ダナウェイはモデル時代に「写真家ジェリー・シャッバーグ」に撮られている。
その後シャッバーグは二人の関係を下敷きに「ルーという女」で映画監督デビュー。主演はダナウェイだった。

鼻を切られた探偵と哀しい過去を持った女。

「チャイナタウン」は隙のない探偵映画の芸術品。
本作の登場人物たちは、心の最も奥深く、治療しようにも絶対に手の届かないところで傷だらけだ。
衝撃的なラストは、最も哀しくだからこそ美しいバラードのような余韻を残す。
それは監督ロマン・ポランスキーの人生についてまわる血の匂いと、その運命を連想させた。

スティーヴン・マイゼルの「白の狂気」

アルトマンが見た「三人の女」の白昼夢

ある日、ロバート・アルトマンが見た“夢”は、映画「三人の女」（77）になった。
魅惑的な曖昧さを放つ本作は、このうえもなく不安定で、美しく、覚醒したまま陶酔させる稀有な映画だ。
アルトマンは、人間の振る舞いとそこから生まれる関係の奇妙を、パステル調の色彩の砂漠にさまよう三人の女たちの心理の揺らぎの中に観察する。そこに拡がるのは、遠い夏の思いでのように儚く、かさかさに乾きった終末的な御伽噺である。

線路と遊戯。空に向かって捲りあがるスカートと足の解放。

滅多に電車の来ない田舎の線路の上。
電車も、人も、何も来ないのはわかってる。安心。
ふたりだけだけどカメラの目だけが見ている。
それは大人のたぶん男性の視線。
わたしたちが意識する唯一の他者の目。
それを意識してきっとわたしたちはさりげなくスカートをめくりあげる。
その目を意識して空にむかって。
その目も意識して遠慮気味にスカートの中身よりも空間を捉える。
その目は大人ではなく少年の目の定まらなさを感じさせる。
どこのだれが撮った写真なのかはわからない。

鏡と分身

この白黒写真の女は鏡の前に居るのか、それとも、そっくりな他人の前に居るのか。
どちらだとしても、彼女が見ているのは自分自身の白い肌、その投影なのだ。

カサヴェテスの視線

本作「フェイシズ」に限らず、カサヴェテスが捉えた俳優＝人間の視線の先にはカメラなどまるで存在しないようかのように思えることがある。

BONNIEANDCLYDE

ボニーとクライドは1934年5月23日に警官隊の一斉射撃によって殺された。
それはジョン・デリンジャーが射殺される約二ヶ月前だった。

ジャンプする手袋の少女

少女が飛び降りたのは、高さ一メートルも無いにちがいない。
でも、少女の視線は、底なしの空を見つめているように思えるのだ。