ジョン・カサヴェテスの「グロリア」(80)はハードボイルドな母性映画である。
ジーナ・ローランズ扮するグロリアは、グロリア・スワンソン好きでウンガロの服が下品に似合う中年女。
独り暮らしで、煙草を吸い、料理は作れず、猫を愛し、子供を嫌っている。
昔馴染みはギャングたちばかり。
銃の腕前は一流である。
そんな彼女が、ひょんなことから少年を匿うことになる。
家族を皆殺しにされて英語もまともに話せないプエルトリコ系の少年。
友に頼まれての嫌々であり、うんざり顔の彼女が、次第に、強靭な母性を目覚めさせていく。
カサヴェテスゆえ、わざとらしい劇的な演出はない。
グロリアの心はごく自然な成り行き(演出)のなかで変化していく。
観客はそれを確かな手応えとともに共有することができる。
「フローズンリバー」の母親たちを観て、ふとあの「グロリア」に再会したくなった。
「男だてらの母性」が人種の壁を越えて「新たな家族のかたち」を見出していく過程。
カサヴェテス夫妻ならではの家族映画。
大傑作である。