真夜中の映画&写真帖 

渡部幻(ライター、編集者)
『アメリカ映画100』シリーズ(芸術新聞社)発売中!

「クライテリオン・コレクション」のDVDデザインはあまりにも素晴らしい

2009-03-23 | クライテリオン・コレクション
「クライテリオン・コレクション」と言えばアメリカのソフト・メーカーの最高峰。
正式には「THE CRITERION COLLECTION」。
昔は高品質レーザーディスク・ソフトで知られ、買い求めたものだが、いまは小さなDVDになった。
素晴らしい会社で、世界中の名作・傑作をフォローし、ここから出ると「殿堂入り」を果たした気がする。
大手メジャー作品の発売は難しいだろうが、とにかく思わず感動してしまうラインナップなのだ。

画質は保障済みで特典映像のクオリティも高い。
しかし何と言ってもパッケージのデザイン・ワークが見事なのである。
パッケージだけで欲しくなることもしばしばであり、実際それほどでなくともお気に入り作品のような気がしてくる。つまりデザインの魔法にあてられてしまうのである。
例えばこれ。

    
サミュエル・フラー「拾った女」

フラーの中でも上位に入る好きな作品だが、このデザインにはしびれた。映画の冒頭で主人公のスリが電車の中で女のハンドバックから偶然に「ある物」をスッてしまう。男と女の汗、周囲の乗客、バッグに忍び寄る手の動き、絶妙なカット割りで描かれたこの場面の粋を見事に表現している。映画を観てなくても「この手の映画」が好きな人ならピンとくるだろう秀逸なデザインだ。
こんなのもある。

    
ジュールズ・ダッシン「裸の町」

これはニューヨーク派の原点ともいえるセミ・ドキュメンタリー・タッチの犯罪映画である。ことに印象に残るクライマックス。その一場面を切り取ったデザイン。遠景に浮かび上がるニューヨークと男のシルエットに感傷に浸らない映画のハードボイルドな精神がにじむ。

   
ビリー・ワイルダー「地獄の英雄」

ワイルダーの隠れた大傑作はジャーナリズムを痛烈に皮肉った作品である。社会の混沌が新聞の文字配列の中に整理されている。カーク・ダグラスの顔は英雄のそれにも汚れた英雄のそれにも見える。新聞のスクープを思わせるデザインが元新聞記者でもあったワイルダーの主題をストレートに伝え、思わず「何だろう」と手に取りたくなるパッケージになっている。

   
黒澤明「酔いどれ天使」

「世界のクロサワ」によるシュールな戦後やくざ映画。しかしまさかこんなデザインを施すとは日本人には想像できない。三船敏郎も志村喬も不在。白と黒が荒々しく分割されて対立する。その裏側に見える歩く男の姿に戦後の疲弊と混乱、そして男の意地が浮かび上がる。

   
ジャン・ピエール・メルヴィル「いぬ」

鬼才メルヴィルのモノクロノワール。その最高傑作のデザインは、黒字に拳銃、そして男二人と女一人。もうそれだけで充分。フランス製ノワールの「粋」にしびれるあのラストシーン。もう一度観たくなる。ベルモンドに再会したくなる。

   
ジャン・ピエール・メルヴィル「サムライ」

こちらはメルヴィルのカラーノワールの最高峰。いまプロの殺しの仕事に向かう。男はその身支度のなかに自らの精神を集中させていく。ドロンが帽子のつばを指でなぞる仕草、そのストイックな横顔を持ってくるとは思わなかった。

   
ジョン・カサヴェテス「フェイシズ」

アメリカ映画を変えたインディペンデントの父カサヴェテス。その初期の実験的な最高作が本作だ。彼の作品を観たことのある人ならひと目で納得するだろう激情を剥き出しになった顔。フレームをはみ出すクローズアップの数々が観る者をこれほど圧倒するものだとは彼の映画を観るまで知らなかった。何よりも雄弁であると同時に何より曖昧な「人間の顔」と言うデザイン。これしかないというデザイン。

   
ロバート・アルトマン「三人の女」

アメリカ映画史上最も異色な作品のひとつに数えられるだろうアルトマン芸術の最高峰。砂漠の中の水のないプールに描かれた奇妙な絵画とそれを黙々と描きつづける妊婦の女ジャニス・ルールと、シェリー・デュバルと、シシー・スペイセクの競演。もうそれだけでむせ返るような異端の匂いがしてくる。霞みがかったアルトマンの夢の映画。

   
マイク・リー「ネイキッド」

イギリスのユーモア監督マイク・リーによるダークな青春映画は、ヒリヒリと可笑しく、そのなかに強烈な悲しみを湛えている。90年代イギリスを代表するこの傑作の映像はまず絶望的なまでに黒い。その黒さを蹴散らしながら皮肉を連発する反逆児デヴィッド・シューリスの眼に映る人間の諸相。耳から離れないテーマ曲のメロディが聞こえてきそうなスチール選びである。

   
今村昌平「復讐するは我にあり」

スコセッシも尊敬する今村の代表作。存在自体が悪夢のごとき殺人者緒形拳の悪意と殺意に満ちた形相をモンタージュしたデザインワーク。ビートたけしが登場する以前の最も強烈な狂気を見事に表現したクライテリオンの傑作だろう。

   
今村昌平BOX 「にっぽん昆虫記」「豚と軍艦」「赤い殺意」

パッケージは豚の群れ。つまり『豚と軍艦』から。『にっぽん昆虫記』『赤い殺意』とパッケージされている。
今村の濃密なスタイルはこれらモノクロ映画でこそ堪能できるかもしれない。個人的にはテレビで偶然に見た『赤い殺意』に衝撃を受けた。

   
大島渚「愛の亡霊」

大島が『愛のコリーダ』に続いて放った『愛の亡霊』と言えばやはり「井戸の穴」だろう。映画史に残したいあの「井戸」をパッケージに持ってきたクライテリオンのセンスに脱帽する。


次もクライテリオンのパッケージデザインを紹介したいとと思っている。作品解説は余分だと気づいたのでやめるつもりだ。それくらい「クライテリオン」のデザインは雄弁なのである。
(渡部幻)




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