今、この記事を書きながら富田勲の「牧神の午後への前奏曲」を聴いています。
かつて坂東玉三郎が主演した映画「夜叉が池」の主題曲です。
御射鹿池(みしゃがいけ)は山紫水明という言葉がとてもよく似合います。
風が止んだ一瞬、鏡のように周囲の木々を映し出す池の水の中には、この世界とは違う別の世界が存在するかのようです。
それは人々の見果てぬ夢である桃源郷なのかもしれません。
思わず池の中に入って行きたい衝動に駆られます。
この池は長野県の名峰八ヶ岳山麓の蓼科高原の森の中にある小さな池です。
先日、長野県諏訪市で月1回開講している私の日本画教室に出向いた際に取材に立ち寄りました。
昨年11月以来二度目の取材になります。
”みしゃかいけ”、”みさかいけ”、”みしゃがいけ”などと読みますが、正式な読み方は判然としません。
私は”みしゃがいけ”という呼び方が好きです。
「夜叉が池」と語呂がよく似ていますし、幻想的な雰囲気に相通ずるところがあるからです。
蓼科高原と言えば、白樺湖や女神湖、蓼科湖などが有名です。
それらよりずっと規模の小さい池ですが、今や知る人ぞ知る人気のスポットです。
開発が進んでいる蓼科高原ですが、池の周囲には小さな温泉があるくらいで民家などはありません。
とは言っても辿り着くのに難儀する秘境というわけではなく、麓の茅野市から車で一時間以内に着きます。
この池は天然の池ではなく、昭和初期に農業用溜池として作られたものです。
下流側には一直線に伸びた堤防があって、人工の池であることが分かります。
池の畔には高原らしく白樺が生えています。
常識的だと批判されようと、やはり高原には白樺がつきものなのです。
御射鹿池という名前を初めて知ったとき、諏訪の古代史に興味のある私の脳裏に浮かんだのは、やはり諏訪大社の神事との関連でした。
諏訪大社の神事と言えば、全国的に名を知られる日本三大奇祭の一つ「御柱祭り」が筆頭に挙げられます。
しかし、昔は上社(かみしゃ)前宮(まえみや)で執り行われている「御頭祭(おんとうさい)」が最も重要な祭りだったようです。
かつて75頭の鹿の首が捧げられたという壮絶な奇祭「御頭祭」。
それについてはまた別の機会に。
私は昼間の池しか見たことがありませんが、空が白み始めた早朝、あるいは満月の夜などはどう見えるのか…想像するだけで心踊ります。
おそらく見る人を池の中に引きずり込んでしまうような、妖しく神秘的な魔性の姿を見せてくれるでしょう。
-------------- Ichiro Futatsugi.■