白石一文【僕のなかの壊れていない部分】
白石一文はとても好きな作家だ。
【すぐそばの彼方】でも書いたが、少し行き過ぎながらも、
主人公の考え方に共感できる部分が多い。
とくに、男と女が付き合っていく上での考えや行動の摩擦、
ある種の諦観や弱さなんかは自分によく似ている。
しかし今回はなにか欲張り過ぎたかな。
全体的な設定はこれまでどおり、
すごく頭の切れる男が主人公で、超美形の女と付き合っており、
ほかにも2~3人の女がいる。
そういう付き合いや仕事、それぞれの人生のなかで、
性や生や死について語りつくすというものだ。
これまでの作品はもう少しストーリーに重きを置いていたのに対し、
この作品は思想的な記述、主人公の頭の中身のことが多い。
その思考はいろいろなエピソードや引用を交えながら、
男、女、子供、生、死、宗教などにおよび、それがギチギチに詰め込まれている。
この主人公が強いのか、弱いのか、諦めているのか、
希望を持っているのか、冷たいのか、優しいのか、
どういう考えを持っているか最終的にわからなくなってしまう。
考えが帰結しているのか破綻しているのかさえわからない。
すべて理詰めの割には、根本的なキャラクターが見えてこないため、
もしかして作者は人間なんてそんなもんと言いたいのだろうか、と深読みしてしまうほどだ。
この本を読んで、生死について真剣に考える人もいれば、
セックスの場面だけが頭に残る人もいて、
それぞれがどうというわけではなく、人間ってそんなもんだよと。
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