富島健夫作品 読書ノート ~ふみの実験記録

富島健夫の青春小説を読み感じたことを記録していきます。

ふたりの恋の物語

2010-05-05 18:04:45 | コバルト
集英社文庫 コバルトシリーズ 初版:昭和51年8月
カバー・カット:高比良芳実

※初出:集英社コバルトブックス(1969) (W)

このブログをはじめて3ヵ月になろうとしています。
よく続いたなと思いますが、逆にファンになってまだ3ヵ月なのだ!ということ。
10年くらいファンやってる気分でいましたが、まだまだですね。


<ふたりの恋の物語>

男の子が女の子にモテモテになり困ってしまう話はいくつかあり、
逆パターンはないものかと思っていたのだが、今回はまさにそれ。


明美は電車の中で、気分がわるくなった菊代を助けたのをきっかけに、
菊代の兄である雪彦と知り合う。


明美は雪彦に興味を持ちながら、
スレた少女百合子と町子にいやがらせされ、浦田というチャランポランな大学生に付きまとわれたり、
三木という少年を手玉にとったり、ナゾの少年鈴原と出会ったり…と忙しい。


この明美、女のズルさで動くところもある、珍しいヒロインなのだ。
『道は遙かなり』でもそんな女の子は出てきたが、あくまでも脇役。
今までのヒロインは、女の本能を自覚してもそれを自制する理性があった。


明美は心のもやもやを吹き飛ばすためにダンスパーティに行ったり、
昔ラブレターをもらったけどその気もない三木の心をくすぐりいい気分になったりする。


しまいには雪彦に「コケット」って言われてしまう。うーん。
ヤキモチやきを自覚する雪彦が妙にさわやかに見えてしまう。
冒頭の菊代を介抱するやさしさだけでいかないところが、リアルな女の子像ということか。
確かにそれが女心なんだけど、ヒロインだけに許せないものが…(主観)。
富島作品を読む楽しさのひとつは“現実逃避”だったのだけど…。


さて、この話は「キスがゴール」ではないところも大人びていて、
つ…ついに胸まで…。
飾りボタンをはずそうとしたり、フロントホックに奮闘したりと、
みなさん一度は経験したであろうシーンも。
そして男性の頭を胸に抱くことで感じる母性。

大学生カップルが秘宝館(!)に行ったり、「契約結婚」したりと、
そんなところからも大人の世界をのぞかせている。


でも特別章を設けて描かれたファーストキスシーンは、
キスしながら「唇が冷たいと思われてはしないだろうか」「歯をみがけばよかった」などと
変に冷静なことを考える明美の姿がかわいい。
まあ、照れなんだろうけどね。


謎の少年、鈴原の存在も重みがある。
不良とも言えず、どこか影がある、印象深いキャラクターだ。

当時は「私は雪彦派、私は鈴原派」なんて会話があったのではないだろうか。
鈴原を主人公に一話出来上がりそうだ(ハッピーエンドにはならないだろうけど)。
『おとなは知らない』の水野と洋子みたいな感じ。


対してどうしようもないただのワル?が、百合子と町子、浦田。

作中、「情熱のおもむくままに異性にすべてを許した少女」とは違うのだ、
と明美はプライドを持って思うのだが、
彼らにはそのプライドを持てるほどの信念はないのだろう。


作品は、高校生で大切なことは何かを考えながら、プラスになる交際になるよう、
自制して付き合っていこうという、そつないまとまりで終わる。

でも、どうも今までのヒロイン像と違うので、混乱したまま読み終えてしまった。

一足先に読んだ『純愛一路』はお風呂に入っちゃってるし、
他にもチラ見した作品ではもっとすごいことが書いてあったものもある。

時代とともに作品が変化(エスカレート)していくだろうことはわかっていた。
そしてキャラも変化していくのか。うーん。ちょっと複雑な気分だなあ。
夢見るままではいられないってことかな。
そして時代もまたそれを求めたのか。



2010年5月5日読了

>>次は…『きみが心は』