集英社文庫 コバルトシリーズ 初版:昭和52年3月
カバー・カット:田中ひでゆき
※初出:集英社コバルトブックス(1969) (W)
<秘密はふたりのもの>
まあ、これまたロマンチックなタイトル。
けれども、ロマンチックに至るまでの話が長いのよ。
主人公の安志は、啄木の短歌よろしく「友がえらく見え」て仕方ない。
ハンサムなやつ、口が達者なやつ、生一本なやつ、秀才、“経験”しちゃったやつ…
そんな周囲の仲間と比較して、自分をつまんない平凡な人間だと思っている。
(話が安志の一人称で進むせいもあるが、確かになかなかこの名前を覚えられない)
そんな安志に小学生の時から付き合ってくれる左千子。
物語は例によって、このふたりが互いに好意を持ちながら、
気のないふりをしたり、違う子とくっつけようとしたり…というじれったいお話だ。
ふたりは高2!現代では信じられないことだろうな。
しかもこの安志、いつもにまして鈍感すぎるキャラクターだ。
物語はいつまでたってもじれったいまま進み、もういいかげんにしてくれ…と思いかけたところで急展開?
秀才小林の“電子計算機”が、安志の核心を突く。
それはもちろん左千子のことでもあるが、安志自身のこともだ。
「人間には二種類ある。不当に自分を低く評価するやつと不当にうぬぼれるやつと。
おまえは前者だ。おまえはいつも、自分に都合のいいデータを捨て、自分に悪いデータをとりあげている。
最悪の場合を想定して、もしそれが現実になったときに、失望しないような用意をしている」
「おれがいままでおまえにいいたかったのは、その防御的な生き方なんだ。
それはたしかに自分の心を守るためのもっとも安全な道ではあろうけれども、
一方では自分の飛躍をさまたげている」
「もっと積極的に生きたらどうだ。?そしてあまり自分を卑下して考える態度をあらためろ」
ああ、ガツンとくるな。ふみさんも前者だからだ。
いったいいつまでモラトリアムやってんだ?と思ってしまった。
そして安志は、秀才小林に努力で追いつこうとする能登の姿から、またもや自分のあり方を考える。
まるで『心に王冠を』のようなメッセージ。
そうか、この話は恋愛よりもそっちがメインなのかな。
さて、安志と左千子はどうなるのか?
小林の説明どおり、ふたりは“速球投手の投球のように”急接近するのだが、
安志は自分の決意をつらぬくために、ふたりの仲はいったんおあずけ。
「ふたりの秘密」を胸にひめて。
でも、ラストの安志は、何だか頼もしく見えたぞ。
まるで、“経験”したとたん堂々としだした近江君のように。
何だかんだいって、ラストを何度も読み返してしまった。
『星と地の日記』のように、ふたりの幸せを祈りたくなる、胸があったかくなるラストだった。
…そしてもう一編
<うわさの少女>
「子どもを産んだ」と噂される信子と、信子を信じる吾郎。
信子は噂に翻弄されず、堂々と生きている。
それには理由があるのだけれど。
作家をにおわせる吾郎の父親もまた、さりげなく、吾郎に人のあり方を示唆している。
この話もまた、恋愛ものというより人生訓かな。
2010年4月30日読了
>>次は…『ふたりの恋の物語』
みなさま、よいゴールデンウィークを
カバー・カット:田中ひでゆき
※初出:集英社コバルトブックス(1969) (W)
<秘密はふたりのもの>
まあ、これまたロマンチックなタイトル。
けれども、ロマンチックに至るまでの話が長いのよ。
主人公の安志は、啄木の短歌よろしく「友がえらく見え」て仕方ない。
ハンサムなやつ、口が達者なやつ、生一本なやつ、秀才、“経験”しちゃったやつ…
そんな周囲の仲間と比較して、自分をつまんない平凡な人間だと思っている。
(話が安志の一人称で進むせいもあるが、確かになかなかこの名前を覚えられない)
そんな安志に小学生の時から付き合ってくれる左千子。
物語は例によって、このふたりが互いに好意を持ちながら、
気のないふりをしたり、違う子とくっつけようとしたり…というじれったいお話だ。
ふたりは高2!現代では信じられないことだろうな。
しかもこの安志、いつもにまして鈍感すぎるキャラクターだ。
物語はいつまでたってもじれったいまま進み、もういいかげんにしてくれ…と思いかけたところで急展開?
秀才小林の“電子計算機”が、安志の核心を突く。
それはもちろん左千子のことでもあるが、安志自身のこともだ。
「人間には二種類ある。不当に自分を低く評価するやつと不当にうぬぼれるやつと。
おまえは前者だ。おまえはいつも、自分に都合のいいデータを捨て、自分に悪いデータをとりあげている。
最悪の場合を想定して、もしそれが現実になったときに、失望しないような用意をしている」
「おれがいままでおまえにいいたかったのは、その防御的な生き方なんだ。
それはたしかに自分の心を守るためのもっとも安全な道ではあろうけれども、
一方では自分の飛躍をさまたげている」
「もっと積極的に生きたらどうだ。?そしてあまり自分を卑下して考える態度をあらためろ」
ああ、ガツンとくるな。ふみさんも前者だからだ。
いったいいつまでモラトリアムやってんだ?と思ってしまった。
そして安志は、秀才小林に努力で追いつこうとする能登の姿から、またもや自分のあり方を考える。
まるで『心に王冠を』のようなメッセージ。
そうか、この話は恋愛よりもそっちがメインなのかな。
さて、安志と左千子はどうなるのか?
小林の説明どおり、ふたりは“速球投手の投球のように”急接近するのだが、
安志は自分の決意をつらぬくために、ふたりの仲はいったんおあずけ。
「ふたりの秘密」を胸にひめて。
でも、ラストの安志は、何だか頼もしく見えたぞ。
まるで、“経験”したとたん堂々としだした近江君のように。
何だかんだいって、ラストを何度も読み返してしまった。
『星と地の日記』のように、ふたりの幸せを祈りたくなる、胸があったかくなるラストだった。
…そしてもう一編
<うわさの少女>
「子どもを産んだ」と噂される信子と、信子を信じる吾郎。
信子は噂に翻弄されず、堂々と生きている。
それには理由があるのだけれど。
作家をにおわせる吾郎の父親もまた、さりげなく、吾郎に人のあり方を示唆している。
この話もまた、恋愛ものというより人生訓かな。
2010年4月30日読了
>>次は…『ふたりの恋の物語』
みなさま、よいゴールデンウィークを