企業システム・レビュー・ネット

企業経営を左右する企業情報システム(経営+ITソリューション)のデータバンク作りを目指す

◇企業システム◇長崎県がOSSの電子申請システムを県内市町にASP提供

2008-08-29 16:51:48 | システム開発

 【システム開発】長崎県はオープンソースソフトウエア(OSS)で独自に開発した「電子申請システム」を、県内の市町が共同利用(県がASPでサービス提供)する新たな電子自治体共同化案を、県内の市町に提案した。同システムの特徴は①公的個人認証、ID・パスワードの本人確認を有する電子申請システムと本人確認を有しない簡易申請システム(携帯電話による申請)からなる②インターネットにより24時間365日、電子申請・届け出が行える③「ながさきITモデル」に基づきOSSを利用しているため低コストで利用可能④システム開発・運用に当たっては県内IT企業に委託しているため、地域IT産業の振興につながる⑤市町ごとに手続き設定し、様式を作成できる。 (08年8月25日発表)

 【コメント】現在政府は①2010年までにオンラインの利用率を50%以上にする②公的個人認証に対応した電子申請システムを全市町村において2010年度までに整備する―という方針を打ち出している。今回長崎県が開発した「電子申請システム」はこの方針に沿ったもの。同システムは県が開発したシステムを市町がASPにより共同で利用できる点に大きな特徴がある。ASPによる提供は全国の自治体でも初の試みという。そして、OSSで開発したため開発費および運用費が低く抑えられるというメリットを最大限に生かしきったシステムとしても特徴を持つ。さらにOSS採用により地場ソフト企業の育成にも貢献している。

 長崎県は全国の自治体の中でもOSSに熱心に取り組んでいることで知られる。OSSにより「長崎県電子県庁システム」を独自に開発したが、現在そのうち10本のソフトを公開するという実績を持つ。同県ではOSSを採用に当たって「ながさきITモデル」を策定して地場ソフト企業の育成を図っていることが注目される。「ながさきITモデル」とは、OSSを活用し、特定のメーカーに依存しない詳細な仕様書を県が作成することによって、システムを適正な規模に分割、発注してシステムを構築する同県独特な開発手法のことである。OSSによるコスト削減効果は特に年間の運用費用において効果を発揮し、電子申請システムにおいては他県と比べ1/10~1/4で済んでいる。

 最近、OSSのRubyを中心に据えた取り組みを島根県や福岡県がスタートさせ注目を浴びているが、自治体でのOSSの取り組みのパイオニアは長崎県である。OSS採用のメリットはシステム開発費・運用費の低コスト化ということ以外に、地場ソフト産業育成という観点からも重要である。これまで多くの自治体は大手IT企業に対して一括丸投げでシステム開発・運用を委託してきた。この方式であると大手IT系列のソフト企業に仕事が流れ、地場のソフト企業はその下請け、孫請けの立場に甘んじ、いつまで経っても発展できない。これに対しOSSを採用すれば、1ベンダーの技術に偏らず、世界標準の技術でよく、独立系のソフト企業でも立場は大手に対して平等になる。さらに自治体が細かく発注することにより、零細な地場のソフト企業でもソフト開発を受託できるようになる。今後、ソフト開発・運用はOSSなどオープンを基本とするよう各自治体の取り組みが注目される。(ESN)