縁側でちょっと一杯 in 別府

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キャラメルボックス『雨と夢のあとに』を観て

2013-08-05 00:56:54 | 芸術をひとかけら
 初めて演劇を観たのは、小学校で観た『夕鶴』だったと思う。学校側としては、情操教育とともに、何か良いことをすれば自分に返って来る(だから進んで他人に良いことをすべき)、約束を破ってはいけない、といった教育的見地から観劇を行ったのであろう。『夕顔』は子供に安心して見せられる劇なのである。
 しかし、今どきのすれた小学生に『夕鶴』ではちょっと無理がある気がする。鶴の恩返し、と言っただけで鼻で笑われそうだ。そんなときにお勧めしたいのが、この『雨と夢のあとに』である。愛すること、そして信じることの大切さについて教えてくれる。

 まずは簡単に劇について説明しよう。演じるのは『演劇集団キャラメルボックス』。1985年設立の劇団である。設立以来、成井豊と真柴あずき(あるいはどちらか一人)が脚本を担当。 "人が人を想う気持ち" をテーマに、"誰が観ても分かる"、"誰が観ても楽しめる" 舞台作りを心掛けているという。
 『雨と夢のあとに』は柳美里の小説。彼女初の“ファンタジック・ホラー”という触れ込みだったそうだ。そう、怖くはないが、幽霊の話なのである。2005年に単行本が発売され、その年に成井・真柴の脚本でドラマ化され、翌2006年にはキャラメルボックスで舞台化されている。今回はその再演である。ただキャストのほとんどは初演から変わっている。
 物語は、幻の蝶を捕まえに台湾に行った朝晴が、無事蝶を捕まえて自宅に戻ったところから始まる。母を亡くし、父と二人で暮らす娘の雨は涙を流して喜んだ。が、朝晴の姿は、雨と、朝晴と親しいごく一部の人間にしか見えない。そう、朝晴は蝶を捕まえた途端、大きな穴に落ち、そこで死んだのであった。肉体を穴の底に置き、彼の魂だけが戻って来たのである。もう一度雨に会いたい、ずっと雨を守りたい、との一心で。しかし、そこから朝晴の父親としての、更には幽霊としての葛藤が始まるのであった。

 『雨と夢のあとに』は、8月18日まで池袋のサンシャイン劇場、8月22日から25日まで大阪、8月30日から9月1日まで名古屋で公演されている。小学校高学年から中学生にかけての、雨に近い年齢のお子さんをお持ちの方は、是非親子でご覧頂きたい。父・朝晴の娘・雨を想う心、あるいは雨の朝晴を慕う心に触れ、親子関係に何か良い変化が起きるかもしれない。また、お子さんが、自分は一人で生きているのではない、皆に守られて生きているのだと感じてくれるかもしれない。
 一方、ご両親には違う観点からも考えて欲しい。『夕鶴』が人間の欲や愚かさも表していたように。この劇のタイトルは『雨と夢のあとに』。“夢”というのは誰の夢だろう? 朝晴の夢? そして、どんな夢なのだろう? 幻の蝶を捕まえること、それとも・・・。僕自身、何か明確な答を持っているわけではない。しかし、このあと、雨が朝晴のいない世界を生きて行かなければいけないことは確かだ。

 いずれにしろ、観終わって「よし、僕も頑張らないと。」と前向きな気持ちにしてくれる、心温まる話だった。


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