縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
のんびり温泉に浸かり、美味しい魚で一杯。
夢に見た生活を楽しんでいます。

映画『ロケットマン』の忖度?

2019-09-16 19:16:01 | 芸術をひとかけら
 まだ生きている人の半生を描くのは難しい。本人に話を聞けるメリットはあるものの、気を使って書けないこともあるだろうし。そう、例の忖度ってやつ。

 エルトン・ジョンの絶頂期をリアルタイムで知る僕としては、封切り早々『ロケットマン』を観に行った。それも音が良いというDOLBY ATMOSによる上映で大枚2,100円もはたいて観た。
 しかし、個人的には、同じデクスター・フレッチャー監督の『ボヘミアン・ラプソディ』の方が好きだし、主演のタロン・エガートンが本作同様「I’m Still Standing」を歌っていた『Sing』の方が楽しかった(おまけに『Sing』は飛行機で観たからタダだった)というのが正直な感想。エルトンの歌はやっぱり最高だし、タロンの歌も良かったのに何故だろう。

 まずは映画のあらすじから。少年時代、両親に愛されたかったのに愛されなかったエルトン。彼の孤独を癒してくれたのは音楽。作詞家バーニー・トーピンとコンビを組み、「Your Snog(僕の歌は君の歌)」、「Crocodile Rock」などヒット曲を連発し、富も名声も手に入れたエルトン。しかし、どんなに成功を収めても孤独感は変わらない。今も自分は愛されていないとの思い。不安からアルコールや薬に溺れ、次第に身も心もボロボロになっていく。しかし、彼はあることをきっかけに再生する。
 まあ、よくあると言えばよくある話である。もっとも『ロケットマン』が、ただのお涙頂戴物と違うのは、ミュージカル映画としてエルトンの曲が効果的に使われていることである。

 『ロケットマン』は、エルトンをよく知らない人の方が素直に楽しめる映画かもしれない。エルトン・ジョンと聞いて、「Your Song」の人、ダイアナ妃の歌を歌っていた人、奇抜な格好をしたおじさん、同性婚をした人といった程度の知識しかない人の方が、悩み、苦しみ、もがくエルトンにうまく感情移入できるのではないだろうか。
 これが変に知識があると違和感を覚えることが多く、ちょっと落ち着かない。例えば、時系列の問題。デビュー早々の公演でエルトンが後の大ヒット曲「Crocodile Rock」を歌っていたり、1976年にデュエットするキキ・ディーが映ったりするなど。それに「I’m Still Standing」は、実際にはもっと早くに作られた曲である。

 そして、僕が一番違和感を覚えたのは、エルトンが酒や薬に溺れて行った理由である。両親から愛されなかったトラウマやゲイであることなどから、周囲との人間関係を上手く作ることができず、自らの殻の中でしか生きられないエルトン。確かに、それも一つの理由であろう。しかし、それ以上に、以前のように売れなくなったことが、きっかけになったと僕は思う。
 エルトンの絶頂期は1970年代の前半である。アルバムは7作続けて全米第1位を獲得した。さらに1975年の『Captain Fantastic and the Brown Dirt Cowboy』というアルバムは、史上初めて、初登場で全米No.1という快挙を達成している。しかし、これがエルトンのピークだった。翌作『Rock of the Westies』は全米1位にこそなったものの、業界の評価は芳しくなかった。そして、以後、エルトンのアルバムが全米のトップに立つことはない。それなりに売れはするものの絶頂期の状況からは程遠く、70年代終わりからエルトンは過去の人となって行った。
 一度栄光をつかんだ人間にとって、これは耐えがたいに違いない。売れないという事実は勿論のこと、自らの才能や能力の衰えに対する恐怖、あるいは世間から自分の歌が必要とされなくなったとの不安。映画では、そうした面はまったく描かれていなかった。成功の真っただ中で孤独を感じ崩れて行くというストーリー。大スターであるが故の孤独と演出上分かりやすくしたのか、売れない姿は出さないとの忖度なのか、そのどちらだろう。

無断キャンセルの行きつく先

2019-09-15 13:12:50 | おいしいもの食べ隊
 「ごひいき予約」という某カード会社のサービスがある。キャンセルの出た人気飲食店を優先的に予約できるサービスである。お店に直前キャンセルが出たとき、登録者にメールが入り、後は早い者勝ち。対象の飲食店は、ミシュラン星付きのお店など人気の飲食店であり、予約の取りづらい店が多い。何か月も前から予約するといった殊勝な心掛けのない僕にとっては、大変有り難いサービスである。

 先日、このサービスを使ってミシュラン一つ星の割烹に行って来た。妻の友人大絶賛の店である。が、この店、実は週に3、4回キャンセル情報が出ており、キャンセル頻度が群を抜いて高い。僕は、単に集客のために「ごひいき予約」を使っているのではと訝しみ、ずっと行くのを避けていた。
 しかし、いざ実際に行ってみると、これがなかなか良い店だった。旬の食材にこだわり、丁寧で、どれも手の込んだ料理である。特に刺身がうまい。素材自体良いのだろうが、ひと手間かけ、さらにおいしく食べさせてくれる。醤油やわさびを使うことはなかった。

 慣れてきたところで、僕は今までの謎に迫るべく、女将さんに恐る恐る聞いてみた。「僕たちにしてみると、今日は本当にラッキーで良かったのですが、キャンセルって結構多いんですか?」
 女将さん曰く、「ええ、残念ですがよくあります。皆さま事情がおありだと思いますので、日にちを替えるようお願いしていますが、皆さまというわけにはいきませんし。結局来られない方には、キャンセル料の送金をお願いすることもありますが、これも難しいですし・・・。その点、ポケットコンシュルジュさんは事前の決済なので助かります。」キャンセルには相当頭を悩ませているのか、女将さんは長々と答えてくれた。
 因みに、「ポケットコンシュルジュ」という会社は、元料理人の方が、飲食店の方の予約や支払いのトラブルを無くしたい、ドタキャンによる食材のムダを無くしたいとの思いから立ち上げた、レストラン予約・決済サービスの会社である。ホテルの予約のように、カード番号を登録し事前に決済する、きちんとキャンセル料の取れるシステムを作っている。「ごひいき予約」は先月までポケットコンシュルジュと提携していたので(なんと、この1月に同社はアメリカン・エクスプレスに買収されてしまった!)、女将さんは付け加えたのであろう。

 今、飲食店のキャンセル問題は深刻である。昨年、経済産業省が発表した『No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート』によると、無断キャンセルは予約全体の1%弱発生し、その飲食業界の被害額は年間約2千億円だという。さらに予約2日前までのキャンセルを含めると、発生率は6%強、被害額は約1.6兆円に及ぶとのこと。ちょっと想像できない金額だ。最近では無断キャンセルの損害分を補償するサービスや弁護士による回収代行サービスが出て来ているらしいが、それも納得できる。
 一方、キャンセルする側の理由としては、取り敢えず場所を確保しただけ(=行くかどうかはまた別の話)、複数の店を予約した(=その日の気分や相手の希望で店を決める)、人気店だから予約してみた(=予約が取れたけど行けるかどうか分からない)等々、真に身勝手な理由が多いようである。やれやれ、我が日本人の常識、モラルはどこへ行ったのだろう。

 このままでは、近い将来、飲食店を手軽に予約できなくなる日が来るに違いない。電話1本で簡単に予約できたのは遠い昔の話。ホテルの予約のようにカード番号の登録を求められたり、予約金が必要になったりするのである。まずは人気店から始まるだろう。
 ところで、先日僕が行ったお店だが、今月からコースの金額を税込みで3,000円程度値上げしていた。元が1万円強とミシュラン一つ星にしては安かったのだが、それが一気に3割近い値上げ。ちょっと敷居が高くなってしまった。キャンセルの多いことが値上げの一つの理由だと僕は思う。
 だから僕はドタキャンする人に声を大にして言いたい、「みんな、天に向って唾を吐くような行為は止めよう!」と。