縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
のんびり温泉に浸かり、美味しい魚で一杯。
夢に見た生活を楽しんでいます。

「弱き者よ、汝の名は・・・」 ~ 『VOLVER(帰郷)』

2008-01-29 00:18:15 | 芸術をひとかけら
 これは『ハムレット』の中のセリフだが、この映画を見ると続けて「女なり」とはとても言えない。「強き者、あるいはたくましき者よ、汝の名は女なり。」と言いたくなってしまう。なにせ映画の出だしからして凄い。墓を掃除する女性達のシーン。男は長生きしないから、などと軽口をたたくお婆さん。
 この映画はスペインの映画である。昨年、テレビ・スペイン語講座で紹介されており、機会があれば見てみようと思っていた。それが先日たまたま名画座でやっているのを見つけ、早速行ってきたのである。監督は『オール・アバウト・マイ・マザー』で有名なペドロ・アルモドバル、主演はペネロペ・クルスである。

 主人公の名はライムンダ、彼女は田舎からマドリッドに出てきた。朝から晩まで飛行場で働いている。洒落た仕事ではない、掃除のオバサンである。亭主は失業し家でゴロゴロ、しまいには娘を犯そうとして娘に殺されてしまう。ちょうどそのとき、ライムンダの育ての親ともいえる伯母さんが死に、一方で死んだはずの実の母親が現れる。そこで過去の殺人や近親相姦の問題が明らかになって・・・・。と、書くと、暗い話、それこそとんでもない悲劇のように聞こえるが、この映画はまったく違う。
 これがドイツやイギリスの映画だったら、止め処なく暗く、とことん落ち込んでしまいそうだが、そこは情熱の国スペイン、明るく、たくましく、そしてユーモラスに描かれている。強い生命力の感じられる映画だ。

 母子、姉妹それに女友達、いずれも脛にキズを持つ女性ばかり出てくる。男はほとんど出てこない。極めて陰が薄い。困難な事態に直面する女性達が互いに協力しあうことで、物事は良い方向へと向かって行く。もっとも、それはあくまで彼女達にとっての“良い”方向であり、道徳上あるいは社会通念上必ずしも“良い”とは言えない。一言で言えば、自分勝手な女性達の物語なのである。
 もし自分の周りがこんな自分勝手な女性ばかりだったら迷惑で堪らない、勘弁して欲しいと思うが、映画の世界であれば許せる。楽しんで見ることが出来る。

 ペネロペ・クルスの演技が良い。娘に対しては強く気丈な母親であり、その一方、暗い過去を背負い、それを乗り越えるため母の愛を求める。知らなかったが、彼女はこの演技で2006年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたそうだ。繰り返すが、これはスペイン映画であり、全編スペイン語である。にもかかわらず彼女はノミネートされたのである(残念ながら受賞には至らなかったが)。

 最後に、映画の中で2、3度、風力発電の風車が大写しになるシーンがあった。荒涼たる大地の中に、白い、無機質な風車の回る姿。今になって気が付いたのだが、ライムンダの田舎の村はラ・マンチャにある。そう、あのドン・キホーテの舞台、ラ・マンチャである。
 この風車は、いつの時代になっても男は愚かな者、ということを暗示しているのだろうか。

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