縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
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合併審査のガイドライン見直しについて

2007-03-17 18:48:57 | お金の話
 M&Aの増加、案件の大型化により、独占禁止法に抵触するリスクが高まる。合併により会社の規模が大きくなる、市場のシェアが高くなると、公正な競争が阻害される懸念が高まるのである。このため「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ことのないよう、公正取引委員会が合併時に審査を行っている。
 一方、わが国の産業界からは逆に合併が容易になるよう独禁法を見直すべきとの声がある。「海外の大企業と伍して競争して行くには、日本企業の規模は小さく、合併により規模を拡大したいが、そのとき独禁法が制約になる。そもそも、公取がいかなる基準を以って判断しているかよくわからないし、このグローバル化の進んだ中、日本だけのシェアで判断されては堪らない。」というものである。

 今、「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」の見直しが行われている。先日新聞記事を見たが、「今回の見直しにより国際的なシェアに基づき合併が審査されるようになった。かつ容認されるシェアの水準が高まった。これで合併が容易になり、わが国企業の国際競争力強化に資する」といった内容だった。某一流経済新聞の記事だが、これは一面しか見ていない、問題を矮小化した記事と言わざるを得ない。

 見直し案については既にパブリック・オピニオンの募集が終わったので、まもなく見直しの確定版が出ると思う。詳細はそこで確認して頂きたいが、今回の見直しのポイントは大きく二つ、審査の予見可能性・透明性を高めることと、事前相談手続きの明確化である。
 前者は冒頭に書いた、公取がいかなる基準を以って判断しているかわからない、つまり実際に公取に相談してみないと合併に独禁法上の問題があるかどうかわからない、審査結果の予見が難しい、との要望に応えたものである。具体的には、「一定の取引分野」を決めるにあたって、海外についても考慮、市場の寡占度を示す尺度であるHHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)の導入、等が盛り込まれた。
 マスコミは“海外も考慮”という点のみ採り上げ、即、国際的なシェアで合併が判断されると言っているが、それは違う。いくつか前提のある話である。独禁法の目的というのは、“わが国”において競争を実質的に制限する行為を防ぐことである。外国にその国だけで事業を行う大企業がいくらあったところで日本に何ら影響はない。その会社が、日本人の要求する厳しい品質をクリアできる、輸出余力がある、日本での販売やアフターサービスが可能(委託も含め)、かつ輸送コストや関税を考えても価格的に競争力あり、と考えられる場合、初めて日本に影響する、わが国における競争を制限する行為に対する抑止力として考えることができる。
 よって公取は、わが国の合併審査にあたり、国際的なシェアを単純に合算して合併の是非を考えるというのではなく、海外にこれらを充たす企業があればそれを考慮すると言っているだけである。

 誤解しないで欲しいが、だから今回の見直しが悪いと言っているのではない。記事の書き方が悪いと言っているだけである。私は、見直し案では合併審査に係る考え方がより具体的に示されており、予見可能性の向上の点では評価できると考えている。

 次に後者、公取への事前相談手続きについて。平成10年12月に企業結合審査に関するガイドラインが公表され、平成16年5月にそれが見直され、新しいガイドラインとして公表された。今回の見直しはその新ガイドラインをさらに見直すものであり、審査時に必要な資料が具体的に列挙される等手続き内容がより明確に示されている。とはいっても特段新しい内容ではなく、単に既定の事実を書いただけという気がしないでもないが。
 もっとも、以前に比べると公取も随分親切になった、オープンになった気がする。実は20年くらい前、公取に事業売却の件で事前相談に行ったことがある。明日はその時の話を書く。