ここではないどこかへ -Anywhere But Here-

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永遠のマリア・カラス

2007-01-13 14:04:18 | 映画
これも以前にHDDに溜めていてそのままになっていた映画。
ようやく観る時間ができた。

この作品において通底しているテーマは「無常」ではないか。
常に移ろい行く世界の中では人は無力な存在に過ぎない。
誰しもが歳を取りやがて死んでいく。
マリア・カラスのような芸術家であれ、世界のトップまで上り詰めたスポーツ選手であれ、衰退は免れ得ない。
私たちはできるだけ長く頂点にとどまりたい、降りるならできるだけ緩やかに降りていきたいと思う。
高い山に登った人ならなおのこと、その高みを去るのは辛いに違いない。
そして、マリア・カラスもそうした頂点を知るもののみに与えられた「衰退」の試練を経験することになる。

ショービジネスの世界は残酷だ。商品価値があると分かればフェイクを用いてでももてはやすが、
もう使えないと思うと、変わり身早く去ってゆく。

この作品が切ないのは、友人の演出家ラリー・ケリーによって、
全盛期に録音された歌声を使って再び表舞台へと戻ってきたカラスが、愛くるしいまでに刹那、輝きを取り戻すことだ。
その息を呑むような美しさがマリア・カラスの最後の輝きのように思えることで、私たちは苦しくなる。

監督のフランコ・ゼフィレッリは生前のマリア・カラスと親交があり、彼女との交流を通じてこの物語を作り上げた。
この作品はカラスがもし、カムバックを果たしたならこういう形で自分自身に折り合いをつけたであろうという、
監督の夢でもあったのだろう。

切なくて儚くて愛くるしい映画だ。



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