ここではないどこかへ -Anywhere But Here-

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黒い輪/ヴィヴ・シムソン、アンドリュー・ジェニングス

2006-03-14 23:42:33 | 
先ごろ閉幕したトリノ・オリンピックでは日本の金メダルは荒川静香の1個に終わったのだが、
そのフィギア女子のメダル授与式に現れたのがサマランチ前IOC会長だった。
テレビを見ながらこの人まだいたんだと思ったのだが、実は今もIOCの名誉会長だということは知らなかった。
柔和な顔のこの老人がオリンピックの裏側で暗躍していたというのはわりと有名な話で、
私のような事情を知らない一市民でもそういう黒い噂は耳にしていた。
そんな金と権力にまつわるオリンピックの影の部分をあぶりだしたのが本書である。

72年の血塗られたミュンヘン大会は記憶にない。おぼろげに覚えているのは76年のモントリオール大会だ。
ソ連のアフガニスタン侵攻で日本を含む西側諸国がボイコットしたモスクワ大会はまったく見ていないので、
私がオリンピックを意識してはじめて見たのは、逆に東側諸国がボイコットした84年のロサンゼルス大会からだ。
そしてこのロサンゼルス大会こそがオリンピックが商業化路線を目指して肥大化を始めた最初の大会であり、
サマランチが隠然たる力を発揮し始めた頃と重なる。
つまり私が知っているオリンピックはサマランチによるコマーシャリズムに彩られた金権五輪路線そのものである。

本書ではIOC会長のサマランチとアディダス社のホルスト・ダスラーを軸にオリンピックが金と権力に翻弄され、
政争の具と化していく様がかなり赤裸々に描かれていく。
オリンピック招致を巡るIOC委員の買収工作、ドーピングの問題、肥大化するコマーシャリズムと莫大な放送権料。
オリンピックが決して崇高な理念とは相容れない次元で語られていくのだ。
誇張したレトリックと監訳者の広瀬隆が語るようにバイアスのかかった挿話があることを差し引いても、かなりの真実を含んでいるだろう。
そして広瀬隆のあとがきによれば、そのサマランチとダスラーの背後に黒幕たるべきオリンピック貴族が存在するというのだ。

最後はなにやらマフィア映画のような結末ではあるが、華やかなオリンピックの裏にあって、
巧妙に隠されている知られざる世界があることを、オリンピックが終わったばかりの今、知っておくのも悪くはない。

オリンピックには今もって隠然たる力が働いているようだから。


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