Manaboo 電子政府・電子申請コラム 

電子政府コンサルタントの牟田学が、電子政府・電子申請、その他もろもろ、気まぐれにコメントしてます。

マルタ共和国のモバイル戦略2017-2018から学ぶ電子政府の進め方

2017年02月01日 | 電子政府
Launch of the Mobile Government Strategy
EUのミニ国家であるマルタ共和国が、モバイル戦略2017-2018を発表しました。11の原則、4つの上位目標、25の行動、および7つの重要なパフォーマンス指標などで構成しています。2年間という短期の戦略で、小国ならではのスピード感がありますが、その内容は戦略として良くできています。
 
窓口、電話、電子メール、既存の電子政府に加えて、スマホ等のモバイルチャネルから、政府サービスの大部分が利用できるようにするとあります。また、公務員にもモバイルベースのソフトウェアツールを提供し、現場でのサービス提供を支援することで、行政の運営を改善する要素もあるとしています。
 
日本には、電子政府に関する戦略が無い(戦略と呼べない「省庁のやりたいことリスト」的なIT戦略はありますが)ので、マルタのモバイル戦略を参考にすると良いでしょう。こうした戦略では、優先順位付けの基準を明確にしておくことが大切なのですが、日本の場合、そうした思考はほとんどありません。
 
例えば、マイナポータルは「政府(政治家)のやりたいこと」としての優先度は高いかもしれませんが、現在の日本の省庁や自治体には、エストニアのようなポータルを実現するためのITガバナンス(セキュリティを含む)が確立されておらず、技術的・制度的・(人的資源を含む)財政的にも、マイナポータル構築・運用の準備ができていません。
 
電子政府コンサルタントの立場から言えば、マイナポータルについては少なくとも2-3年の猶予を持たせたスケジュールの見直しを行った上で、次の施策を実行し検証していくことをおすすめします。
 
1 マイナンバーカードの仕様等を公開し、民間利用を推奨するための双方向性のあるインフラ(テスト環境等)を整備する。
2 国および自治体が参加する情報提供ネットワークによる情報連携の効果を検証する。
3 以下の条件が整ってから、マイナポータルの運用を開始する
   a) 1によりマイナンバーカードの民間利用が進み、1500万人ほどの利用者が民間サービスでカードを利用するようになる。
   b) 2により自治体の業務が効率化し、現場の職員が情報連携の効果を実感できるようになる
 
aの条件は可能性がありますが、bの条件については可能性が低いので、最終的には「情報提供ネットワークシステムの再構築(改善は難しい)」ということになるでしょう。
 
より本質的な話を言えば、今後2-3年をかけて、マイナンバーを社会保障・税番号として社会に浸透させて国民の信頼を得ていく中で、中途半端な秘密主義から脱却したより使いやすいマイナンバーへと制度変更を行うことが、何より大切です。その上で(あるいは同時進行で)、上記の1と2を実行し、マイナポータルの実現可能性について国民を交えた議論をしてくのが良いと思います。
 
 
 

 
Dutch govt should consider sharing all its software
国際競争力でも高く評価されているオランダ政府では、政府が開発した全てのソフトウェアをオープンソースとして共有する方向で進んでいます。現在、下院において「政府のために開発されたソフトウェアの共有は、情報の安全性、効率性、開放性などの大きなメリットがある」との合意があり、具体的なビジョンを策定する段階にあると。
オランダでは、議会での決議について、政党ごとに議席数と反対・賛成がわかるようになってるんですね。日本の議会も見習って欲しいです。
関連>>Motion by Oosenbrug others about the availability of the source code of software developed in-command (下院での決議)
 

 
なぜマイナポータルはJava必須なのか、開発者側の理屈でユーザー体験がおざなりに
内閣官房番号制度推進室の楠正憲補佐官の話をベースに、浅川直輝記者が丁寧に解説しています。カード普及には「組織の壁」の突破が不可欠との指摘はその通りで、国と地方における政府情報システムのITガバナンスをどのような形にしていくかまで踏み込んで欲しいと思います。マイナポータルの取組が、そのきっかけいになると良いのですが。
 
楠さんが語る「スマホアプリ単体でマイナポータルを利用できるほか、スマートフォンのNFCリーダー機能と他環境のブラウザーとを連携させることで、Windows、Mac、Chrome OSなどで動く全てのモダンブラウザー環境でJavaやJPKI利用者ソフト、マイナポータル環境設定をインストールすることなくログインできるようにすることを目指す」という目標を達成できるよう、政府関係者だけでなく、利用者側でも協力していけると良いですね。
 
ちなみに、マイナンバーカード発行と同時期に購入したSONY製のカードリーダー「パソリ RC-S380」は、特に面倒な設定も不要で、楽天カードのEdyチャージとかに使ってます。これぐらい気軽にマイナンバーカードも使いたいです。
 
関連>>日本の電子政府サービスが「時代錯誤」にならないために
 

 
内閣官房、マイナポータル環境設定プログラムに脆弱性と公表、再インストール求める
マイナポータル環境設定プログラムに「複数の特殊な条件下でご利用のPCにおいて不具合を起こす可能性のある脆弱性が発見された」と。
 
政府が保有する法人活動情報を検索できる「法人インフォメーション」運用開始
法人データは、誰でも自由に取引先の情報収集などのために活用でき、機械可読に適した形式でデータの自動取得も可能。SPARQLクエリによる検索やファイルダウンロード、検索APIも提供すると。
 
マイナンバー対応の"いままで"と"これから"【高倉万記子】
マイナンバーに対応する(国の施策に翻弄される)自治体の実態がよくわかります。先日も、仕事で訪問した小規模自治体の方が、今年もマイナンバー対応でいっぱいいっぱいと言われてました。
 
No more waiting in lines: opening a bank account via video call becomes a reality
エストニアでは、地域住民と電子住民がビデオ通話で銀行口座を開設することができるようになると。日本と比べて、EUでは銀行口座の開設時における本人確認がより厳格で、本人が身分証明書を持って銀行へ訪れる必要があり、これはマネーロンダリングの防止等の法的根拠があります。エストニアでは、eレジデンシーと呼ばれる電子住民の制度がありますが、電子住民は海外で生活しているため、エストニアにある銀行へ行くことが困難でした。今回の措置によって、今年の春頃には、ビデオ通話による面談等で口座開設ができるようになります。もちろん、その場合はeレジデンシーのeIDカードが必要です。
 
Our newly-elected president: “I want to help Estonians change the world”
昨年、イルベス大統領の任期満了に伴う次期大統領選挙で選出されたケルスティ・カリユライド氏は、エストニア初の女性大統領として注目されていますが、何より発言内容が良いですね。
タイトルにある通り、「私はエストニア人が世界を変えるのを手伝っていきたい」と語り、
「E-ガバナンス(電子政府)」は技術革新ではなく「社会の変化」であると言っています。任期満了となる5年後には、「人々に対する公的支援が、必要に応じて、必要とされる形で、自動的に、実用的なタイミングで提供されるようなシームレスな社会を築く」ことを目指しています。
 
Estonia and Finland to start sharing patient data. And that’s just the start!
エストニアとフィンランドが患者データの共有を始めたと。EUではクロスボーダー医療を目指していますので、エストニアのX-ROADを導入したフィンランドと、患者データを共有するのは自然な流れと言えるでしょう。まずは、2017-2018年までにデジタル処方箋の国境を越えたアクセスを実現し、2018-2019年までに患者の病歴データを交換することを目指します。
プライバシーとセキュリティの確保についても、本質を突いたコメントがありますね。Connected health (connected health solutions、connected health systems)は、今後ますます主流になっていくことでしょう。
また、患者データ以外にも、商業登記、住民登録、社会福祉データの自動データ交換を予定しています。
 
Lifeline for 36000 companies: filing reports will become totally automated
2018年までに実現される「レポート3.0」により、企業が政府に提出する報告(従業員の給与や人件費に関するもの)が自動化されると。必要なデータは、会社で使用されるソフトウェアによって直接送信される(バックグラウンドで処理される)ので、会社で使っているデータが正しければ、手続は自動で完了します。送信されるデータは、様々な政府機関のデータベースに自動的に送り込まれます。
 
電子災害診療記録システム、災害現場で使ってみた
独自開発した大阪医療センターDMATが熊本地震で実証
使用回数は少なかったものの、電子災害診療記録システムが2回目、3回目と継続的な診察にも適しているメリットを十分発揮できたと。災害時は、地域住民だけでなく(海外を含む)地域外からの来訪者も被災するので、全国共通のメディカルID(患者ID)が欲しいですね。
 
健康ポイント制度で医療費抑制効果 初の実証 _ NHK 2016年12月08日
参加しなかった人と比べた結果、1人当たりおよそ4万3000円を抑えたことがわかり、医療費抑制の効果が初めて実証されたと。
 
「5年間で従業員の平均年収を100万円アップ」、ワークマンの土屋氏
「ITはシステムの完成度よりも、使用頻度が高いことを重視している。使ってもらうことが目的だからと。
 
【更新】「おごってもらった」と言えば小学生に150万円払わせてもいじめじゃないのか 猛烈批判に横浜市教委が迷走
市教委事務局は1月23日夜、「改めて確認」したうえで、岡田教育長のコメントを発表したとありますが、全文を見ても、結局何を言いたいのかよくわかりませんでした。。
 
「世界一幸せなデンマーク人」と日本人の違い
働くモチベーションからして全然違う
デンマーク人は今あるものに感謝する能力に長けていて、今の状況に満足している。社会が非常に平等で、誰もが高等教育にアクセスできるため、自分がなりたいものになれるというチャンスがあると。もちろん、北欧にも光と影があり、評価は分かれるようですが。
Hygge=ヒュッゲとは、デンマーク語で「居心地のいい時間や空間」といった意味のデンマーク特有の概念だそうですが、電子政府サービスのデザインでも「ヒュッゲ」が組み込まれているのでしょうね。
 
「医療等分野専用ネットワーク構想」、知っていますか?
医療等分野専用ネットワークは、既存の地域医療情報連携ネットワーク、レセプトオンライン請求用のネットワーク、2018年から段階的に実施する被保険者のオンライン資格確認のためのネットワークなどを「インターネットワーク・エクスチェンジ」(IX)センターを設置して相互接続する仕組みで実現する計画と。「セキュアな医療等の分野専用に閉じたネットワーク」「サービスの共通利用が可能な全体最適化されたネットワーク」「公益性を担保した全国をカバーするユニバーサルサービス」が基本コンセプト。
 
「外国人歓迎」と言いつつ鎖国続ける嘘つき日本
いまだ変わらない「仕方ないから外国人で」的差別意識
日本の様々な制度が外国人に厳しく、その一部は合理性を欠いていることは、その通りですね。ただ、親の不法滞在が理由で、強制帰国させられる子供については、現在の国籍法や入管法上、妥当な決定と言えるでしょう。こうした子供たちへの支援は、可能性の低い日本の在留特別許可(仮に取得しても日本での生活が不安定になる可能性が高い)よりも、本国で適切な教育を受けられるようにするのが良いと思います。あとは、本人の努力次第で、日本への留学や就労という道が拓かれます。
 
「市のミスで戸籍上死亡」と提訴
西東京市の男性、遺産相続できず
男性は2001年に小平市から転居。住民票を異動したが、西東京市は戸籍がある小平市に新住所を通知する義務を怠り、戸籍に新住所が記載されない状態になったと。そもそも住民登録と戸籍による二重管理に問題があると思いますが、せめてマイナンバーで連携していれば、起き得ない問題ですよね。日本は、いつまでこんな欠陥制度を続けるのでしょうか。
 
紙まみれのお役所仕事から完全脱却した豊島区
タブレット端末を配布し、無線LANを配備してペーパーレス会議を実現したと。紙がなくなることで、単なる電子化から、スマート会議へと発展させやすくなります。議事録は簡単なもので良いので、その場で作成して参加者が確認し完成させると、事務負担が軽減します。
 
「官民データ活用推進基本法」が成立、AIやIoTも法律で初めて定義
日経BPの井出さんによる解説。基本的な施策として、行政手続きなどでのオンライン利用の原則化、国・自治体のデータの容易な利用(オープンデータ化)、マイナンバーカードの普及・活用、国・自治体のシステムの規格整備や互換性確保、業務の見直しなどの措置を講じると。
関連>>ついに成立した官民データ活用推進基本法は“2000個問題”を打ち破れるか


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