江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

鯉のたたり

2020-01-19 17:07:08 | その他
鯉のたたり
                        2020.1

武蔵の国の隅田川のあたりの牛島という所に、中田屋という酒を売る店があった。

前から、生け簀の鯉を料理して提供していた。
その人を、葛西太郎とのあだ名で呼んでいた。
ある夜、その妻の夢に、衣冠をした人が出てきた。
「明日、お客さんが来て、鯉を食べようというが、鯉を切って殺しては、いけない。」、と言った。

果たして、あくる朝、石原片町という所に住んでいる山口右膳なる者が来た。
鯉をさげて持ってきて、主に調理してくれ、と言った。
中田屋の妻は、鯉を殺さないように固くとめたが、夫は、あざ笑って、山口氏とともに、調理するために出て行った。
さて、山口氏は席について、中田屋は、まな板に向かい、包丁をとって、鯉を切ろうとした。
すると、ううとウメいて、倒れた。
人々は驚いたが、すこしすると息が絶えて死んでしまった。

この話は、いい加減な伝聞ではない。
山口氏に仕えていた熊谷喜平次が、まのあたりに見た、
                 と語ったものである。

天明年中のことである。

以上、
「石楠堂随筆」 蜀山人(しょくさんじん)全集より


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