江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

芭蕉の妖怪  中陵漫録

2021-07-08 19:54:15 | 怪談

芭蕉の妖怪                            2021.7

昔、信州のある寺に、一人の僧がいた。

夜、書を読みんでいたが真夜中になった。

一人の美人が来て、この僧にたわむれた。

この僧は、大いに怒って、この婦人を刀で打った。

その帰り道には、点々と血の跡があった。

翌朝、その血の跡をたどって行ってみると、庭の芭蕉が、すべて倒れていた。

人々は、これを見て、皆こう言った。

「この芭蕉の魂が、化けて婦人となったのであろう。」と。

 

私(中陵漫録の著者の佐藤成裕)は、始めは、この説を信じなかった。

しかし、その後、琉球人に会って、考えを変えた。

琉球の芭蕉園の事を尋ねた。

すると、琉球は暖かい国であって、住民は皆芭蕉布を着ている。

それ故に、山野には、皆芭蕉を植えており、糸を取って芭蕉布を織る。

この園を蕉園と言う。

この芭蕉は、大変大きく高くなって、太樹のようである。

雨が降っていても、その下にいれば、雨にぬれる事はない。

真夜中ににこの芭蕉園の中を独りで歩く時には、必ず芭蕉の妖怪(蕉妖)に逢う。

その姿は、皆婦人である。

敢て人を害する事はない。

只、人がその化けた婦人を見せて驚かせるだけである。

他に何も害ある事を聞かないと言う。

この妖怪を防ぐには、日本の刀がある。

刀を帯て、芭蕉園を通り過ぎる時には、この妖怪に逢う事はない、と言われており、皆々日本刀を貴んでいる。

 

この説を聞いて、始めて信州の芭蕉の妖怪の事を信じる事になった。

 

また、考察するに、この芭蕉という物は、元来は草である。

草ではあるが、長ずれば大樹のようである。

このことから見れば、芭蕉は、草の中の王である。

その魂は、化して妖をなすであろう。

 

千年の大樹も妖を為す事がある。

芭蕉も、この類であろう。

 

以上、「中陵漫録」蕉妖の項より  



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