Ambivalent Blog

e-Tetsuによる「アート」と「釣り」の生活誌

『ソフトウエア企業の競争戦略』 マイケル A. クスマノ

2005-04-18 | ◆読んでみた
『ソフトウエア企業の競争戦略』を読んだ。400ページを超えるので疲れるが、著者の研究とコンサルティング・ワークに裏打ちされた議論には納得させられる部分も多い。一方、著者のこの領域での研究が長いためか、ソフトウェア企業の領域が閉じたものである印象を受けることなど、物足りない側面もある。

ポイントをいくつかピックアップして紹介すると。。。

◆国別のソフトウェア産業の比較
冒頭で欧州、日本、米国のソフトウェア業界を比較している。日本と欧米という見方はしたことがあるが、以下のように分類されるとなるほどといった感がある。SAPはやはりドイツでアメリカではないな、と納得してしまう。

 ・設計における美を追求する欧州
 ・高度だがイノベーションのない日本
 ・品質はまあまあだが業界標準を打ち立てて大もうけする米国

◆ソフトウェア企業の戦略軸
続いて、ソフトウェア企業の戦略を考える際の軸の定義と、それぞれの戦略軸における落とし穴。これを固定的な戦略軸として捉えるべきではないと思うが、スタートラインとしては有効である。また、各戦略軸の解説にでてくる、戦略遂行時の課題なども参考になる。

 ・製品企業かサービス企業か
 ・ターゲットは法人か個人か、マスかニッチか
 ・水平(業界横断)マーケットか垂直(特定業界)マーケットか
 ・市場動向に左右されない安定収入はあるか
 ・メインストリーム市場を狙うか
 ・目指すはマーケットリーダーか、フォロワーか、補完製品メーカーか

◆ソフトウェア企業の類型化とライフサイクル
まずソフトウェア企業を以下の3つに類型化する。

 ・製品企業(ライセンスを主たる収益源とする)
 ・ハイブリッド企業(ライセンスとサービスの双方を収益源とする)
 ・サービス企業(サービスを主たる収益源とする)

そして、多くの例から製品企業が、ハイブリッド企業、そしてサービス企業へと変化していくことを考察している。しかし、それでもどの路線でいくのかを選択する必要があるという。ハイブリッド企業であってもライセンスとサービスのどちらに比重を置くべきか明確にすべきであるという。なぜなら「それぞれで必要とされる戦略、組織能力、投資金額が大きく異なるからである。」 

一方、サービス企業が製品企業になることは容易でないという。成長しようと思えば、サービスのパッケージ化も1つの手であると示唆する。

◆開発のベストプラクティス
ウォーターフォール・モデルとマイクロソフトなどの採用する同期安定化モデルの比較など、開発手法に関してもかなりの紙数が割かれているが、ここでは割愛。

◆スタートアップ企業の例
10社に及ぶスタートアップ企業の顛末を先の戦略軸と照らし合わせながら分析、解説している。

◆ソフトウェア・ビジネスの理想と現実
最後に、製品企業、ハイブリッド企業、サービス企業の特徴や課題について改めてまとめている。また、意外と著者の現実論はあまりに現実的で寂しいものである。

【製品モデル】成否がはっきりするビジネスであるが、成功した場合においても製品がコモディティ化する危険性が常につきまとう。

【ハイブリッド・モデル】製品ビジネスより安定的であるが、製品ビジネスとサービスビジネスのスキルを両方必要とするため、「とてつもなく高度な技術的、組織能力を必要とする」

【サービス・モデル】顧客ニーズに応えながらも、そこから得られた知見を「守秘義務に抵触するこ
となく、他のプロジェクトに活用する方法を習得する必要がある。」

理想論については。。。
「一般論としては、理想的なソフトウェア・ビジネスは水平市場を目指す...なぜなら水平市場は、垂直でニッチな市場よりもたいてい規模が大きく、規模の経済、成長、そして投資家にとっての大きな収穫を確保する機会がずっと大きいからである。」 しかしながら、「このような理想的なソフトウェア企業はどれだけ一般に存在するのか。そしてこのビジネス
モデルは、どれくらい長く維持できるものなのか。」

現実論となると。。。
「筆者は、法人顧客向けのハイブリッド・ソリューションこそが、ヒット製品や支配的なプラットフォームをもたないソフトウェア企業にとって、現実的ゴールであると考えている」


冒頭にも書いたが、本書の物足りなさは、ソフトウェア企業をあくまでソフトウェア企業の領域(つまり、製品、ハイブリッド、サービス)の中のみで議論しており、そこから全く新しいビジネスモデルへ向かう可能性は考慮されていないことである。また、下記の論点については議論が十分ではなく、これからのソフトウェア戦略という点では自ら補っていくことが必要であろう。

 ・サブスクリプション・モデルに関する議論
 ・オープンソースについての議論
 ・オフショアリングの影響についての議論

とはいえ、なかなかの力作である。

住友信託に見る新しい金融ビジネスのモデル

2005-04-17 | ◆ビジネス
4/14の日本経済新聞朝刊の記事。

『企業の不動産流動化、住友信託、地銀と提携――まず道銀とファンド』

これは地方銀行の中小企業顧客の不動産を住友信託が束ねて流動化するという話である。束ねることにより、これまで規模が小さいが故に流動化が困難であった中小企業の不動産が資金調達手段として活用できる。

これは、流動化案件組成のアイデアとしても面白いが、地銀と住友信託の関係がこれからの金融ビジネスのモデルを示しているようで興味深い。住友信託銀行は、そもそも三井住友銀行との関係は弱く、メガバンクに依存した営業網は構築が難しい。それゆえに、地銀を自らの営業網として活用し、営業網を持たない自らは流動化商品の組成に徹するという方針を打ち出したわけである。

やむを得ない選択肢であるという見方も出来るが、先日エントリーしたハートフォード生命のケースのように、持たないことを前向きに捉えると他社より優位なポジションに立てる可能性があるのではないか。

Salesforce.comがMS Officeをリプレースする?

2005-04-17 | ◆ビジネス
Salesforce.comのCEOであるMarc Benioffが同社のイベントにて語ったこととしてのInternetnews.comからの引用。(元の記事全文は"Salesforce.com: The MS Office Killer"

"We don't do applications like Word or Excel," Benioff told internetnews.com. "But there are elements of Microsoft Office, like SQL Server, that we want to replace."

つまり、やや飛躍はあるが、これまでのCRMの領域からMS Officeとも重複する領域へも進出するという。また同社がMultiforceと呼ばれるWebベースのオンデマンド型オペレーティング・システムを開発するのだという。また、Benioffが語ったこととして、記事では以下のように伝えている。

Customer relationship management was only the first step in the master plan, Benioff told the audience of partners, analysts and press. The company is going after all kinds of business processes, including recruiting, project management, product development, scheduling, budgeting and human resources.

ヒューマン・リソースから、プロジェクト・マネージメント、製品開発、スケジュール管理などあらゆるビジネス・プロセスの領域へオンデマンド型で進出しようという意気込みである。

今後の展開が非常に興味深いSalesforce.comであるが、オンデマンド型で満足する顧客層を一通りカバーした後の成長戦略が同社が確立された企業となるのか否かのキーとなると考えられる。ひとつの危険は、より複雑なニーズに応えるためにアプリケーションがコントロール不能となるリスク、もうひとつは同じビジネスモデルで間違った事業領域へ進出してしまうこと、ではないかと思う。

今回の記事を読んでいると、二つのリスクのうち二つ目が現実のものとなるのではないかという懸念が持ち上がる。CRMの領域はSiebelのようにモノリシックな統合型アプリケーションの領域であったが故に、モジュール型のSalesforc.comの成功もあったのではないかと思う。同じ成功パターンを繰り返すためには、対象領域を慎重に選択することが必要ではないか。また、MS Officeのような過剰なまでに水平型のマーケットへ進出することは、ビジネスモデルの大きな転換を伴いリスクも大きそうである。

どうなるんでしょうね。
先週はSiebelのCEOが交代した一方、Sforce関連のニュースも多かったです。
Salesforce.com's Goal: Become An On-Demand Information Provider -- InformationWeek
セールスフォース、新CRMパッケージの詳細を発表--6月にリリースへ -- ZDNet Japan 
Salesforce.com: The MS Office Killer -- Internetnews.com

足踏みするSOA?

2005-04-17 | ◆ビジネス
しばしば同じタイミングで全く異なる文脈から出たニュースが符号する。今回もそんなケース。

1つは日本IBMが天城にてソフトウェア会社やシステム・インテグレーターなど23社を集めてSOAの可能性について議論したという話。

『日本IBMが伊豆・天城にソフト会社/インテグレータ23社の幹部を集め、SOAの可能性を議論』 Nikkei ITPro

オンデマンド型ソリューションの展開を目論むIBMがパートナーへの啓蒙活動を行ったものと理解できる。ただ、記事では「参加したパートナの多くはSOAに関して、まだ勉強/検討フェーズ。関心は高いものの、採用には慎重な姿勢をとる企業が多かった」とあるように、IBMが望むスピード感で市場は動いていないという現状を映し出している。

もう1つは、SOAの重要な要素技術であるWebサービスが抱える課題に関する話。

"Web Services Still at an Impasse" Internetnews.com

例としてWebサービスのセキュリティーに関する仕様で、MicrosoftとIBMが中心になって進めるWS-Securityの仕様とSUNが中心となっているLiberty Allianceの策定する仕様に重複があり、開発者の混乱を招いていることが挙げられている。

Liberty Allianceの問題に関しては以前も取り上げたが、Webサービスの標準確立において大きな障壁となる可能性を孕む。Webサービスの標準策定はマーケット主導で進んでいるが、そこには主導者となれなかった者が離反して、独自仕様による顧客囲い込みに走る危険が付きまとう。今回もし同じことが起これば、SOAというビジョンの実現は困難となり、JAVAと.NETといった相容れないアーキテクチャーの共存を許すことになる。結果的にIT業界の利することにはならないであろう。

来週ガートナーのイベントがアメリカにて開催され、複数のベンダーがWS-Securityに準拠したシステム連携の実証実験を行うという。そこにはIBMもMicrosoftもSUNも参加する。是非表面的にだけでなく、実体としてもうまく連携してくれるといいのだが。

Gartner Application Integration and Web Services Summit

映画ファンド 『阿修羅城の瞳』

2005-04-10 | ◆ビジネス
『忍-SHINOBI』 に続いて映画ファンドである。ただし、今回は去年成立した信託業法改正により、信託という方法を用いる点が前回とは異なる。

信託業法改正によって、これまでは不可能であった知的財産の信託が可能となり、また信託業務への一般事業法人の参入が認められたが、今回はそれらをフル活用したものである。松竹など6社が約13億円を出資するが、その著作権はジャパン・デジタル・コンテンツに信託される。その著作権が生み出すキャッシュフローを裏づけとして信託受益権が発行され、それらが投資家に販売されることとなる。これにより出資者は早期に資金回収が可能となり、映画制作投資に関わるリスクは投資家に移転することとなる。

しかし、仕組みよりも、信託受益権への値付けとその信頼性がやはり気になる。相当にリスクが高いんじゃないかと思うが。


『映画の資金集めに「知的財産信託」 松竹が初の試み』 Asahi.com