Ambivalent Blog

e-Tetsuによる「アート」と「釣り」の生活誌

ブルー・オーシャン戦略 - W・チャン・キム+レネ・モボルニュ

2006-01-29 | ◆読んでみた

遅ればせながら。
この本は、戦略キャンバスの活用方法に尽きる。しかも、このツールは有効に活用すればその効果も非常に高いと思われる。

新規ビジネス、あるいは新しいビジネスモデルというのは、見出すのも難しければ、それを実現するのも容易ではない。この本は、それを体系的に実施できるようにして、その成功確率を高めることを目指したものである。

本書で言うところのブルー・オーシャンとは、競争のない新しい市場。レッド・オーシャンとは代わり映えのない戦略を持つ企業が血みどろの争いを続ける市場である。

本書で最も重要なツールである戦略キャンバスとは、市場での競争環境に影響を与える要素を抽出し、それらに対する市場参加者のポジションを図示する。そこに描き出される形状により、各企業の戦略独自性 - ブルー・オーシャンにいるのか、レッド・オーシャンにいるのか - が露わにされる。日々が苦しければ、往々にして全ての市場参加者が同じような形状を描くものである。

本書は、戦略キャンバスには、以下の3つの効用があるとする。

  1. 業界の戦略プロフィールが一目瞭然となる。
  2. 競合他社の戦略プロフィールがわかる。
  3. 自社の戦略プロフィールがわかる。また何を目指すべきかのヒントが得られる。

ブルー・オーシャンを切り開くための道筋は以下の6つのパスを試みよと教える。

  1. 1.代替産業に学ぶ
  2. 業界内のほかの戦略グループから学ぶ
  3. 買い手グループに目を向ける
  4. 補完財や補完サービスを見渡す
  5. 機能志向と感性志向を切り替える
  6. 将来を見通す

このあたりは、新しい方法がいろいろとあるかもしれない。が、スタートポイントとしては、とても参考になる。また、優れた戦略は三つの特徴を持つという。

  1. メリハリ
  2. 高い独自性
  3. 訴求力のあるキャッチフレーズ

ユニークな戦略キャンバスが描かれれば、これらの特徴を備えることとなるだろう。

ポーターの戦略論では、コストと差別化をベースとしているが、もはや低コストかつ独自性が求められることが普通の時代、戦略キャンバスの持つ多面性は戦略策定において有用ではないかと思う。

ブルー・オーシャン戦略 - W・チャン・キム+レネ・モボルニュ

 

 


ザ・サーチ - ジョン・バッテル

2006-01-29 | ◆読んでみた

検索にまつわる技術的、ビジネス的な展開を辿る点では面白い本である。Googleも今では"Information Company"と言っていたりするが、当初は"Technology Business"だとエリック・シュミットが言っていたという話は、Googleもそのあまりに急速な発展に合わせてビジョンを変えていっていることを感じさせる。

2002年の段階で、グーグルはメディアかそれともテクノロジー企業かと尋ねると、会社側はつねにテクノロジー企業と答えていたが、この四年間に姿勢は揺らぎ、今では尋ねる相手によって答えは違う。(p352) 

飛ぶ鳥を落とす勢いのGoogleであるが、ビジネスと企業理念の葛藤や、組織の意思決定の難しさなど、株価だけからでは伺い知れない内情なども興味深い。例えばこんな話が紹介されている。

ブリンとペイジは広告と検索を組み合わせることには、きわめて懐疑的だった(p135)

収益向上につながる具体的な経営戦略は2001年初めまでまとまらなかった(p137)

また、検索が我々の生活の一部に組み込まれることによって、我々の生活がどのように変わるか、リアルに活写している部分も興味深い。 

一方、本書は、「完全なる検索」へ至る道筋として、検索インデックスの拡大、パーソナライゼーション、シマンテック・ウェブなどの概念の現状を紹介して終わる。

テーマが「検索」だから已むを得ないかもしれないが、検索があたかも全ての答えを与えてくれるかのような印象を与えるところは逆に面白みがないと感じた。 検索がいかに「完全」になったところで、その検索結果に基づいた知的活動こそが本来の付加価値創造に結びつく点を忘れるべきではないだろう。

ザ・サーチ グーグルが世界を変えた  -  ジョン・バッテル 


『ASTERIA 実践ガイド』を読んでみた

2005-05-21 | ◆読んでみた
競争の激しい分野でソフトウェア製品を選択しようとすると、ある一時点での機能比較では優劣を決めがたいことが良くある。それは、継続的な機能強化が行われており、製品の進化が速いからである。そんなときに、重要になるのがその製品が目指すビジョンであり、そこに共感できるかである。

ASTERIAが位置するデータ・インテグレーションのマーケットも、国内外の競合がひしめいており、決して楽な世界ではない。ASTERIAの開発元であるインフォテリア社の東海林・中川・江島3氏による『ASTERIA 実践ガイド』は、そのタイトルの示すように実践ガイドであり、評価版を利用したASTERIAの体験に重きがおかれている。しかし、本書はそれだけではなく、ASTERIAがどのようなビジョンを持つ製品であるかを示すものであり、それゆえに他のプロダクトとそのコンセプトにおいて何がユニークであるのかを知ることができる。

先ほどASTERIAをデータ・インテグレーションのマーケットに位置づけたが、本書を読み終わってみれば、それもASTERIAのビジョンを理解していないが故の安易な分類であったと言わざるをえない。現時点、機能面ではデータ連携がその中心ではあるが、その目指すところは「グラフィカル・ランゲージ」であり、これまでのテキスト表現を中心としたプログラム言語からの脱却なのである。また、目指す最終ターゲット顧客は大企業ではなく、個人である。(これは、ASTERIAがエンタープライズ向けではないと言うのではなく、ASTERIAの開発者はこうした製品が個人でも利用可能な世界を志向しているということである。)

もちろん、個人向けとエンタープライズ向けでは、ビジネスのモデルも大きく異なる。しかし、「ソフトウェアなんかあとはコモディティ化するだけだ」などと言う人も多い中、「まだまだソフトウェアの世界は発展途上です」と真摯にそのビジョンの実現へ向けて邁進する執筆陣には素直に共感できるのである。

『ソフトウェアビジネスの競争力』 & 『ソフトウェア最前線』

2005-05-06 | ◆読んでみた
クスマノと違って、いずれも日本のソフトウェア・ビジネスを取り上げた本である。それぞれの概要は以下の通り。

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『ソフトウェアビジネスの競争力』 ソフトウェア産業研究会

日本におけるソフトウェア・ビジネスの問題点とその原因を分析し、どのようなビジネス・モデルが可能であるかの提唱を行っている。巻末にある独自アンケートによる集計結果も興味深い。

本書は、日本のソフトウェア業界の中心的ビジネスモデルである受託開発型が、品質、コスト、国際競争力の全てにおいて限界にきていることを指摘し、パッケージ型を目指すべきだと提唱する。パッケージ型が日本で根付かない理由として以下を挙げる。

・ユーザーが受託開発を好むため、結果としてパッケージ市場が小さい
・ソフトウェアの価値が人月をベースに測定されている
・政府調達が新規パッケージ開発を促す仕組みとなっていない
・ソフトウェア開発における知的財産権への意識が低い

その上で、ソフトウェア・ビジネスとして可能性のあるモデルとして、

・ASP型によるソフトウェアの提供
・日本が強いとされる組み込みソフト分野

を挙げる。また、ソフトウェア・ビジネスを受託型からパッケージ型へ転換するに際して、ベンダー企業は戦略的決断を行うべきであり、ユーザー企業・業界団体・政府が一体となってそれを支援するべきであるとしている。

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『ソフトウェア最前線―日本の情報サービス産業界に革新をもたらす7つの真実』 前川徹 

こちらはソフトウェア業界のビジネス・モデルという観点よりも、社会のインフラであるソフトウェアの品質と生産性を向上させるにはどうすべきか、という観点から書かれている。

まず現状認識として、社会がソフトウェアに依存していること、そして日本のソフトウェア開発の生産性は必ずしも高くないことを指摘する。以降、以下の通りに、現状の問題点を議論している。

・ソフトウェア工学よりもプロジェクトマネージメントに問題がある
・ウォーターフォール・モデルはソフトウェア開発に適しておらず、ウォーターフォールに適した日本の重層下請け構造は問題である
・優秀なソフトウェア・エンジニアを厚遇するべきであるが、人月ベースの指標がそれを困難としている
・ユーザー側もソフトウェアの品質・生産性向上への貢献を行うべきである

最後の章では、パッケージを指向することでソフトウェア開発の生産性が向上することが指摘されている。

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これらの2冊は、異なる観点から書かれているが、いずれも日本のソフトウェア業界固有の問題点を中心に議論している点、またその一つの解決策としてパッケージソフトウェアを挙げている点で共通している。

誰もが受託開発からパッケージへという議論をしているのを聞くと、そこに何か落とし穴がありそうだと勘繰ってしまう。また、その逆行のロジックもニッチな分野として成り立つだろう。

仮にパッケージへと向かうとしても、パッケージ・ビジネスはハイリスク・ハイリターンであること、受託開発モデルとパッケージ・モデルはビジネスモデルの転換を要するために痛みが伴うことは考慮すべき点である。また、これらにどうに対応するかは、個別企業の事情によって全く異なるのである。