Ambivalent Blog

e-Tetsuによる「アート」と「釣り」の生活誌

SI企業の興亡 -- トータルソリューションの終焉

2004-10-30 | ◆ビジネス
CNET Japan にブログを書かれている江島さんよりe-Tetsuブログを紹介して頂いた。そのブログのテーマがSI(システム・インテグレーション)企業の今後に警鐘を投げかけるものであった。SI企業に身を置くだけに、今日はその議論を更に発展させてみたい。

システム・インテグレーション事業における対デフレ戦略 -- Kenn's Clairvoyance

SI企業の現在
最近SI企業の中間決算発表も相次いでいるが、江島さんも言うように景気の良い話はない。各社とも景気の回復に伴って売上高や営業利益に改善傾向は見られるものの、価格競争と単価の下落は決して緩んでおらず気を抜ける状況にはない。

では、景気が本格的に回復すればSI業界も浮揚するのであろうか?恐らくそうではない。なぜなら、今回のSI業界の低迷は景気減速だけではなく、構造的な変化を伴っているからだ。コモディティ化がいち早く進展したハードウェア・ベンダー、そしてインド・中国の低コスト・ベンダーが攻勢を強めるなか、SI業界は過当競争の状態にある。そこへきてテクノロジー面でもサービス志向アーキテクチャー(SOA)の流れが、いよいよソフトウェアのコモディティ化を現実のものとしようとしているのである。

これまでのSI業界
そもそもシステム・インテグレーションというビジネスは、オープン化の流れの中で多様なプラットフォームを連携させたシステムを構築するニーズから来ている。浮揚期においては、各社ともサポートするプラットフォームを増やし、システム開発からより上流のコンサルティング領域、あるいは下流の運用管理といった方向にもカバー範囲を拡大していった。いわゆる「トータル・ソリューション企業」の登場である。「なんでも出来ます」でビジネス規模を拡大するのである。

しかし、上流の仕事、下流の仕事は、求められるスキルセットもコスト構造も異なるため、不用意な拡大政策は決して成功には結びつかない。また、この拡大の過程は、各社の特徴を薄める過程でもあった。結果、中途半端に何でも出来るが、あまり特徴のないSIベンダー群が誕生した。しかし競争の激化した今、「なんでも出来ます」は顧客に響かない。顧客に「おたくは何が強いんだ?」と問われたとき、「昔は...」と余計な接頭語を付けたくなる人も多いのではないか。 

これからの課題
そんなSI企業に対し、江島さんは以下の3つの選択肢があると言う。

1. M&Aにより規模の拡大を目指す
2. 得意分野のキーワードでマーケティングを行う
3. プロダクト開発に投資する

これを自分なりに解釈してみたい。第一の選択肢であるM&Aは価格下落をスケールメリットで勝ち抜く戦略である。しかし、個人のスキルへの依存度が大きいSI業界においては、SIそのものの規模拡大が必ずしもコスト競争力に繋がらない可能性があることには注意を要する。スキルによらない標準化、あるいはアウトソーシングなど設備投資によるスケールメリットなどを追求する必要があろう。

規模の経済への対抗としては、第二の選択肢である得意分野へのフォーカスである。ここでの留意点は、多くのSI企業が得意分野を拡大政策の過程の中で失っていることである。成長分野が必ずしも得意分野ではないことに注意しなくてはならない。

第三の選択肢であるプロダクト開発に成功例は少ないと江島さんは指摘する。確かに、SIとプロダクト開発は投資回収に考え方も異なるため、必要とされるマインドセットも異なるからである。この方向に進むとすれば、この相違を理解したうえで取り組むことが肝要である。

また、これらの選択肢をSOA化の流れの中で解釈し直すことも重要であろう。スケールメリット戦略ならば、SOA型サービスのプラットフォームをマーケットに対して提供するということも考えられる。また、得意分野戦略では、特定分野におけるSOA型のインテグレーション・ビジネスと位置づけることが可能だ。そして、プロダクト開発もよりコンポーネットに近い部分で取り組むことにより、リスクを押さえた参入というのが可能となるかもしれない。

最も重要なこと
江島さんは「いずれのアクションも起こさない」企業にとってSI事業は「斜陽産業」になると指摘する。その通りだと思う。もう1つ加えるとすれば、中途半端に3つの選択肢をそれぞれ実行する企業にとってもSI事業は「斜陽産業」になるということだ。トータルソリューションの時代は終わりである。戦略とは選択をすることなのだ。

それにしても書くことが全部自分に跳ね返ってくるのでつらい。。。


システム生物学?

2004-10-28 | ◆ビジネス
ITを仕事にしながらも、意外と生き物好きなので「システム生物学」という変な言葉で引っ掛かってしまったのがこのWired Newsの記事である。

システム生物学で予測の医学を実現へ -- Wired News

この記事は「生物学における次の進展は、ネットワーク・システムの研究にかかっているといえるかもしれない」と始まる。また遺伝子解析の話かなと思いながら読んでみると、どうもそうではないようだ。テキサス大学のギルマン博士の言葉が引用されている。

 「科学者たちは生体システムを1つ1つ解析するのに過去
  50年間を費やした。いまや生物学研究の行く末は、そ
  れらをどうまとめるかにかかっている」

つまり、個々の部品は理解できたので、それらがどう連携するのかを解き明かしたい。そして、それが予防医学に繋がるということのようだ。なんかSOAっぽい論調になってきたが、ここで部品といっているのはDNAやRNAのことである。

この話で面白いなと思ったのは、西洋医学と東洋医学が近づいてきたような感じがするからである。個々の要素を究明し、問題点のみを取り除いたり直したりする西洋医学、もしくは西洋的な考え方。それに対する全体の関係性から問題の解決にあたる東洋医学、あるいは東洋的考え方。(以前このテーマで書いた記事です。ご参考まで。)

今回のシステム生物学の話は、西洋医学が個々の要素を解き明かしたのちに、それらの関係性に着目し始めたと捉えると、西洋と東洋が出会ったかのような印象を受ける。

そういえば、人間の遺伝子の数が思ったよりもずっと少なかったという記事が先日あった。

ヒトの遺伝子数、最初の推測の4分の1と判明 -- Wired News

これは、人間の複雑さを作り出しているのが遺伝子の数の多さというよりも、その関係性の複雑さにあることを示唆しているのかもしれない。これからの医学がどんな方向に進むのか楽しみだが、ITにおけるSOAはこの関係性の複雑さを軽減してくれるのだろうか?とまた仕事に戻ってしまった。


Webサービスの将来に不協和音

2004-10-25 | ◆ビジネス
いやなニュースである。

IBM参加を理由にMicrosoftがLiberty Allianceを非難 -- Nikkei IT Pro 

Webサービスのスタンダード策定にあたっては、Microsoftが積極的な姿勢を見せ、IBMと協調路線を取ってきた。それゆえにWebサービスこそはアプリケーション間連携の標準化をついに実現すると期待されている。

一方、IBMとMicrosoftが主導権を握るのを嬉しく思わない一派が当然存在する。そして、Sunを中心としてLiberty Allianceが結成された。問題は、IBMがLiberty Allianceへの加盟を表明したことにある。

IBM Joins Liberty Alliance -- internetnews.com

スタンダードの策定は、マーケットへの信頼性を増大し、市場規模の拡大に繋がる。特にIT業界においては、これまでにも顧客を裏切り続けて来た経緯から、Webサービスによるスタンダードを確立することは非常に重要である。しかし、標準化の主導権を握れなくなると、どの企業もそのスタンダードが市場に受け入れられることを恐れて、標準化から離反して自らの顧客囲い込みに走る。すると結果的に市場におけるスタンダードは中途半端なものとなり、顧客は裏切られる結果となる。JAVAと.NETが良い例である。

最近SUNとMicrosoftは和解の方向にあるが、WebサービスがMicrosoftにとってはJava陣営切り崩しの切り札だけに、今回ばかりは容易に譲るわけには行かないのだろう。IBMの二股は今に始まった話ではないが、余裕のある強者のずるさである。今回ばかりはIT業界のためにもどこかに妥協点を見つけてもらいたいが、どうなることか。

何だそりゃ 「囚人のジレンマ」20周年記念大会

2004-10-23 | ◆ビジネス
何だそりゃ、という感じだが、「囚人のジレンマ」で毎年戦っている人たちがいるらしい。より正確には、「囚人のジレンマ」のなかでも、それを繰り返し行う「繰り返し囚人のジレンマ」大会を開催しているのだ。

戦略ゲーム『繰り返し囚人のジレンマ』記念大会開催 -- WIredNews 

我々なんぞは、「囚人のジレンマ」について本で勉強してふ~んで終わってしまうことが多いが、その戦略を日々研究し、それを大会の場で試している研究者たちがいるのだ。それだけ囚人のジレンマというのは奥が深いということだし、どういう環境(参加者数やゲームのルールなど)で行うかによっても、その戦略や結果は大きく変わってくる。

今回の大会の目玉
記事によると、今回の大会では、これまでに勝利を続けてきた「しっぺ返し」と呼ばれる、相手が裏切ったらこっちも裏切るという作戦が敗れたことが大きな話題となった。イギリスのサウサンプトン大学が複数のチームを送り込んで、チーム間で協調させることで勝利を掴んだという。

ゲームへは複数のチームを送り込むことが可能だが、総当たり戦なので仲間のチーム同士が対戦することもある。サウサンプトン大学のチームは、ゲームの中でお互いを認識できるようにし、相手が仲間とわかれば、一方が必ず負けるような戦略を取ったという。結果、勝率上位にサウサンプトンのチームが多く名を連ねた一方、下位ににも多くの名を連ねることになった。

でもその意義は?
しかしこのサウサンプトンのチームの戦略を現実世界に持ち込むとどうだろう。例えばグループ企業、あるいは企業連合がマーケットで戦うとき、サウサンプトンのような戦略を取ることは難しい。一方で利益を出しながらも、他方は常に赤字を垂れ流さざるを得ないからだ。それゆえに、サウサンプトンの戦略はあまり現実世界では参考にはならないように思える。

一方で、この大会の特徴である、複数参加者による総当たり戦という考え方は面白い。ついついゲーム理論とか囚人のジレンマと言われると、寡占市場における2者間の争いを思い浮かべてしまう。しかし、競合相手が複数いるなかでどういった戦略が最適なのかを考える場合、総当たり戦のようなモデルの中に囚人のジレンマを持ち込む方がより現実に即している。

単に大会で勝つことを目的とせず、大会のルールをより現実の企業世界近いものとして運営していくと、更に面白いものとなりそうだ。

マンチェスター・ユナイテッドの買収阻止に野村證券が名乗り

2004-10-23 | ◆ビジネス
アメリカの投資家Malcolm Glazerが、イギリスの名門フットボールクラブであるマンチェスター・ユナイテッドの持ち株比率を28.1%まで高め、買収に乗り出そうとしている。それを阻止しようとするマンチェスター・ユナイテッドのファンでありビジネスマンであるKeith Harrisに野村UKが資金面で手を貸そうという話だ。

Nomura joins Man Utd battle -- Reuters

野村UKと言えば、イギリスのパブチェーンを買収したり、(確か)ミレニアムドームの案件にも関わったりと、イギリスではかなり派手なビジネス展開を行っている。今回は、アメリカによるイギリス名門フットボール・クラブの買収に、日系金融機関が登場するという面白い構図となった。

「ビジネス情報 備忘録」ブログでも触れられているように、日本と違ってクラブそのものが上場企業として純粋に市場原理に左右されるところが、イギリスのフットボールクラブの面白さであり厳しさでもある。

が、フットボールクラブが普通の企業と違うところは、ファンという普通の企業では通常存在しないステークホルダーがおり、彼らは必ずしも経済的な利益のみにて行動するわけではないところだろう。今回行動を起こしたMalcolm Glazerはビジネスマンでもあるので、採算度外視というわけではないだろうが、ファンを味方につけていることは大きな強みであるに違いない。

同じくプレミアリーグのチェルシーはロシア資本に買収されてしまったし、マンチェスター・ユナイテッドもアメリカ資本に買収されてしまうと、フットボールの世界も金融街シティと同じような状況となってしまう。フットボールが生活そのものという人たちも多い国柄、それだけは避けるべきだろう。