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トランプの暴走は「中東大戦争・世界経済危機」を起こしかねない

2018年09月11日 02時46分38秒 | Weblog

ダイヤモンド・オンライン

2018年7月31日 北野幸伯 :国際関係アナリスト

日本人は、欧州と米国を「いつも一緒」「ほとんど同じ」という意味で、「欧米」とまとめた言葉を使う。しかし、「アメリカファースト」を掲げるトランプが、米国と欧州の関係をボロボロにしている。そして、トランプに嫌気がさした欧州は、米国のライバル・中国に急接近している。(国際関係アナリスト 北野幸伯)

トランプが欧州を激しく批判!
嵐のNATO首脳会議

トランプの「アメリカファースト」が世界に大混乱を巻き起こしているトランプの「アメリカファースト」のゴリ押しは欧州と中国を接近させ、中東大戦争と世界経済危機の危険性を高めている Photo:AP/AFLO

 ベルギーの首都ブリュッセルで7月11日、NATO首脳会議が開催された。ここでトランプは、2つの問題で欧州を激しく批判した。

 まずは、米国以外のNATO加盟国の防衛費負担が少なすぎること。毎日新聞7月11日付から(太線筆者、以下同じ)。

<NATOは2014年、対ロシア関係の緊張高まりを受け、24年までにすべての加盟国が国防費をGDP比で2%以上に引き上げる目標を設定した。
 しかし18年中に達成が見込まれるのは、加盟29ヵ国のうち米英やロシアに近い東欧中心の計8ヵ国のみだ。
 これに対し、米国はNATO全加盟国の国防支出の7割近くを占める。

 NATOは、29ヵ国からなる「反ロシア軍事ブロック」である。加盟国の中には、GDP世界4位のドイツ、5位のイギリス、7位のフランス、9位のイタリア、そして10位のカナダなど、経済大国もある。トランプは、「欧州をロシアの脅威から守っているのに、なぜ米国が7割も負担しなくてはならないのだ」と憤っているのだ。

 彼は、米国と欧州の間に対立があることを隠さない。それどころか、世界に向けて情報を発信している。

<こうした点に不満を持つトランプ氏は首脳会議前日の10日、「NATO加盟国はもっと多く、米国はより少なく払うべきだ。とても不公平だ」と主張するなど、通商問題も絡めながら欧州の加盟国を批判するツイートを繰り返した。>(同上)

 彼は、問題をツイートすることで、米国民に「公約を守っている。国のために働いている」とアピールしたいのだろう。米国民、特にトランプに投票した人々は、喜んでいるに違いない。

EUの盟主・ドイツが
トランプのターゲットに

 欧州の中で、トランプが特にターゲットにしているのは、ドイツだ。

 <とりわけトランプ氏が標的とするのは欧州最大の経済大国ドイツだ。ドイツの国防費はGDP比約1.2%で、24年までの引き上げ目標も1.5%にとどまる。>(同前)

 欧州最大の経済大国ドイツ。既述のように同国のGDPは、世界4位である。しかも、EUにおけるドイツのパワーは圧倒的で、「EU=ドイツ帝国」と主張する人もいる。名実共に「EUの盟主」と言える存在だ。

 フランスの人類学者エマニュエル・トッドは、「ソ連崩壊」「米国発金融危機」「アラブの春」などを予言したことで知られている。そんな彼も、「EU=ドイツ帝国」という意見の持ち主で、『「ドイツ帝国』が世界を破滅させる」(文春新書)という本まで出版している。

「EU=ドイツ帝国」という視点で見ると、そのGDPは世界の22%にもなり、「米国と並ぶ大国」ということになる(EUのGDPには、英国も含む)。こんな強大な国が、「安保にタダ乗りしている」と、トランプは不満なのだ。

 トランプが欧州を批判するもう1つの理由は、ロシアとドイツを結ぶガスパイプラインプロジェクトだ。

<トランプ大統領は、ロシアからドイツに天然ガスを供給するパイプライン計画「ノルド・ストリーム2(Nord Stream II)」に言及し、「ドイツはロシアによる捕らわれの身となっている。膨大なエネルギーをロシアから得ているからだ」と発言。
続けて「世界中の誰もが、このことについて話している。われわれがドイツを守るために数十億ドルも払っているというのに、ドイツは数十億ドルをロシアに支払っていると」「ドイツはロシアに完全に支配されている」と語った。>
(AFP=時事 7月11日)

ドイツとロシアが
天然ガスを巡って接近



「ドイツはロシアに完全に支配されている」という、過激な発言が飛び出した。

 欧州がロシアのガスに依存していることは、よく知られた事実である(総輸入量の約4割、総消費量の約3割)。ところで、ロシアのガスは、どうやって欧州まで届くのだろうか?

 これまで、主なルートはウクライナ経由のパイプラインだった。その後、ロシアとウクライナは、しばしばガス料金問題で対立。「ロシアがウクライナへのガス供給を止めた」というニュースを覚えている方も多いだろう。

 ロシアは、「反ロのウクライナを迂回して、直接欧州にガスを届ける方法」を模索しはじめた。そしてできたのが、ロシアとドイツを直接結ぶ海底パイプライン「ノルド・ストリーム」だ(2011年稼働)。


 その後、ロシア―ウクライナ関係は、さらに複雑になっていく。2014年2月、ウクライナで再び革命が起こり、親ロシアのヤヌコビッチ大統領が失脚(親ロ・ヤヌコビッチは、2010年の大統領選で、親欧米派の候補に勝利していた)。

 同年3月、ロシアは、クリミアを併合。同4月、ウクライナ親欧米新政権と、東部親ロシア派ドネツク、ルガンスク州の間で内戦が勃発した。そして現在に至るまで、ロシア―ウクライナ関係は最悪な状態が続いている。

 当然ロシアは、「ウクライナを経由しないルート構築」をますます望むようになり、「ガスの安定供給」を願う西欧と利害が一致した。そして現在、進められているのが「ノルド・ストリーム2」プロジェクトだ。(2019年稼働予定)

EUと中国が事実上の
「反米声明」を発表

 トランプは、これに反対しているのだ。彼は「ドイツはロシアに完全に支配されている」と批判する。「欧州のロシア依存度が高すぎるのは、安保面で問題」というのだ。これは、その通りかもしれないが、米国には「ノルド・ストリーム2」計画に反対する理由がほかにも2つある。

 1つは、親米のウクライナ・ポロシェンコ政権を守ること。「ノルド・ストリーム2」が完成すれば、ウクライナは自国領を通過するガスパイプラインの「トランジット料」を得ることができなくなり、経済的に困窮する。

 もう1つの理由は、米国自身が欧州に液化天然ガスを売りたいから。米国は、シェール革命の恩恵で、世界一の石油・ガス大国に浮上した。それで、石油・ガスの売り込み先を探している。米国は、欧州への輸出を狙っていて、ロシアを排除したいのだ。

 トランプは、「欧州のロシア依存が高くなりすぎるのは危険」というが、要は「米国のガスを買いなさい」ということなのだ。

 トランプはNATO首脳会議を終えた7月16日、フィンランドの首都ヘルシンキで、プーチンと会談した。「軍縮」「ウクライナ問題」「シリア問題」「イラン問題」など、さまざまなテーマが話し合われたが、具体的合意はなかった。それでも、トランプとプーチンは、最悪になっている米ロ関係を改善させる意志を示した。

 同日、EUと中国の首脳会談が北京で行われている。そして、なんとEUと中国が、事実上「反米の共同声明」を出した。

<<中国EU首脳会議>共同声明に「反保護主義」明記
毎日新聞 7/16(月) 23:43配信 
【北京・河津啓介】中国と欧州連合(EU)は16日、北京で首脳会議を開いた。
 会議後に発表した共同声明には「反保護主義」が明記された。
 共に米国との通商問題を抱える中国と欧州が連携強化を確認した形だ。>

 <会議には中国の李克強首相とEUのトゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)、ユンケル欧州委員長が出席。会議後の共同会見で、トゥスク氏は同じ日に米露首脳会談も開かれることに言及し、欧州と米露中が
「国際秩序の破壊や貿易戦争の開始を避ける義務がある」
と訴えた。>(同上)

「トランプ外交」が
中東大戦争を引き起こす可能性

 トゥスクは、「欧州と米露中が」という表現を使った。しかし、「貿易戦争」を開始したのは、米国である。そして、国際秩序を破壊している件についても、「クリミアを併合した」ロシアというよりは、「パリ協定」「イラン核合意」から離脱した米国のことを指しているのだろう。

「孫子の国」中国は、米国と欧州の亀裂を巧みに利用する。

中国は米中関係の悪化を見据え、欧州との関係を重視している。>(同前)


<李首相は今月ドイツを公式訪問して経済連携の強化で一致。10日には、ノーベル平和賞を受賞した民主活動家で昨年7月に事実上の獄中死をした劉暁波氏の妻、劉霞さん(57)を解放し、人権問題に関心の高い欧州諸国に配慮を示していた。>(同前)


 劉暁波氏の妻、劉霞さんも、中国にとっては「政治の道具」に過ぎない(それでも、ドイツに脱出できてよかったが)。

「アメリカファースト」を掲げるトランプは、これまで「有言実行」を貫いてきた。「公約を守ること」は、もちろん美徳だろう。しかし、その「公約」自体に問題があれば、約束を守ることで危機が起こることもある。

 「トランプ外交」の結果、起こる可能性のある「大きな災い」が2つある。

 1つは中東戦争だ。トランプ米国は、「イラン核合意」から離脱した。ところが、この合意に参加した他の国々、具体的には、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国、イランは「合意維持」を求めている。しかも、国際原子力機関(IAEA)は「イランは、合意を守っている」と宣言しているのだ。

 この件に関しては、「米国が正しい」と考える国は、イランと敵対するイスラエル、サウジアラビアくらいしかない。にもかかわらず、トランプは世界中の国々に「イランからの原油輸入をやめろ」「やめなければ制裁を科す」と脅している。

 これに反発したイランのロウハニ大統領は7月22日、「イランとの戦争が究極の戦争になることを(米国は)理解しなくてはならない!」と、米国を威嚇した。

トランプが仕掛ける貿易戦争が
世界経済危機を招く恐れも

 トランプも早速反撃。「イランのロウハニ大統領へ。米国を二度と脅すな。さもなければ、これまでの歴史でほとんど誰も被ったことのないような結末に見舞われるだろう。米国はもはやイランが発する暴力と死の狂気の言葉を我慢する国ではない。気を付けろ!」とツイートした。

 これを読んで、トランプと金正恩のやり取りを思い出したのは、筆者だけではないだろう。

 しかし、北朝鮮とイランには決定的な違いがある。そう、北朝鮮には核兵器があるが、イランにはないのだ。つまり、トランプにとってイランは、「北朝鮮よりは戦争しやすい相手」ということになる(もちろん、人口8000万人の大国イランと戦争することは、容易ではないが)。

 もう1つの「大きな災い」は、貿易戦争だ。米国は、中国、欧州と貿易戦争を開始したが、エスカレートすれば、世界GDPの6割を占める国々の貿易量が減ることになる(2017年の世界GDPに占める割合は米国24%、欧州22%、中国15%だった)。

 当然、米欧中の企業は生産を減らす。売り上げと利益が減ることで投資、消費も減少。その結果さらに生産が減るという、「縮小スパイラル」に突入していく。この貿易戦争が、容易に「世界的危機」に転化し得ることは、多くの専門家が指摘している。

 例えば、ノーベル賞を受賞した経済学者のポール・クルーグマン氏は、以下のようなツイートをした。

<「トランプ大統領が貿易戦争に向かって行進する中、私は市場の慢心に驚いている」と、クルーグマン教授はツイッターに投稿。
「トランプ氏が行くところまで行って、世界経済を壊すのかは分からない。しかし、相当な可能性があるのは確かだ。50%?30%?」と続けた。>
(ブルームバーグ 6月20日)

 そうでなくても、日本経済には、2つの「危機要因」が存在している。

 1つは、来年10月の「消費税再引き上げ」だ。これで、消費は落ち込むだろう。もう1つは、「東京五輪バブルの終焉」。すでに、銀行は不動産への融資を渋るようになり、価格が下がり始めている。日本経済には現在、「暗雲」が漂いはじめている。これに、トランプの貿易戦争が追い討ちをかけるような事態になれば最悪だ。

 当事者たちもさすがにマズいと思ったのか、7月25日、トランプと欧州委員会のユンケル委員長がホワイトハウスで会談。貿易戦争を回避するための協議を開始することで合意した。協議が進展し、世界に不幸をもたらす米欧貿易戦争が回避されることを願う。

 

 
 
 
2018年9月10日 倉都康行 :RPテック(リサーチアンドプライシングテクノロジー)株式会社代表取締役

リーマン後10年「次なるリスク」、債務膨張に経済ナショナリズム…

リーマンショックから今月で10年Photo:PIXTA

 世界経済を襲った「2008年9月15日」は、誤解を恐れずに言えば、日本列島を驚愕させた「2011年3月11日」と同じくらいに忘れられない特別な日だ。

 あの日、全米第4位の投資銀行リーマン・ブラザーズが、当時最大の6390億ドルという巨額の負債総額を抱えて経営破綻した。それ以降世界に広がった銀行不信、株価暴落、景気後退、失業急増などの「悪夢の連続」から10年がたった。

回復した世界経済が抱える
「3つのリスク」

 主要国における銀行支援策や積極的な金融緩和、そして中国の大胆な財政政策出動などが奏功し、世界経済はすっかり立ち直った。

 日本も、当時は需要蒸発、就職氷河期といった暗鬱な言葉が飛び交う経済状況に陥ったが、堅調な海外経済に恵まれて、潜在成長率を上回る経済拡大ペースを維持している。

 深刻な金融危機の温床となった米国の金融システムは規制強化によって健全化し、主要国のGDPは危機以前の水準を上回って、世界各国の株価指数も大幅に上昇している。ゼロ金利や量的緩和といった危機対応の金融政策は、米国を筆頭に修正が進んでいる。

 この回復過程で、欧州でのギリシャ不安や中国からの資本流出懸念など、危機再来への懸念が強まる局面も何度かあったが、世界経済はその都度、難局を乗り越えてきた。そして2017年には「世界同時好況」といったムードに包まれるようになり、少なくとも金融危機の記憶はすっかり風化してしまった、といってよい。

 だが安心していていいのだろうか。

 各国経済をより深く眺めれば、危機が残した爪痕は完全には消えていない。 リーマンショックの「置き土産」として、世界は、債務の膨張、金融政策の迷走、地政学の変貌という3つの潜在的リスクを抱えている。

記録的に膨張した債務
政府の赤字や中国の民間借り入れ

 まず目立つのは、世界各国で増加する負債額だ。

 世界経済が成長軌道に戻ったのと、世界の負債規模が大幅に増大しているのは、コインの裏表のようなものだ。美しい片面のもう一方に、将来のリスクが隠れている。100年に一度といわれた金融危機からの脱却が、経済の自律的回復力だけで達成されたものでないことは明らかだ。

 成長の代償として、世界各国は大規模な債務増を背負った。IIF(国際金融協会)によれば、世界の債務額は2007年の142兆ドルから2008年3月には247兆ドルにまで増加、GDP比で見ると269%から320%にまで拡大している。

 その中枢を占めるのが、政府など公的機関と非金融民間企業の借り入れだ。

 前者は銀行支援や景気対策で各国政府の財政赤字が拡大した結果だ。後者は中国企業を中心とした不動産・建設・資源開発などの投資のための借金である。

 いずれもプラス効果とマイナス効果を併せ持つ負債だが、今後、金利上昇が続くとすれば、変動金利ベースでの借り入れ負担はかなり厳しくなるだろう。

 この負債の増加の中で、イタリアやギリシャなど南欧諸国や日本の慢性的な財政赤字構造や、減税・歳出拡大へ邁進する米国の財政赤字が拡大した。だが公的債務の増加も気がかりだが、昨今の市場がより警戒しているのは、ハイペースで膨らんでいる中国の民間企業の負債残高だ。

 同国の負債水準はさまざまな国際機関や民間金融が推計しているが、現時点で、中国の非金融民間企業の負債水準はGDP比ほぼ200%のレベルにまで達した、との見方が強まっている。

 日本のバブル期でも100%程度だったことを思えば、空恐ろしい水準である。さらにドル建て債務のシェアが高まっていることは、昨今のドル高・人民元安で返済負担が増大していることを意味している。

 これは、リーマンショック後、2008年に中国政府が金融危機対策として発動した財政出動と平仄を合わせて急増した民間負債であり、その中の怪しげな負債が銀行のバランスシートから外されて「理財商品」として個人を含む投資家に転売されていたことも話題になった。

 現在、中国政府は「金融システムの健全化」を掲げて取引の透明化を急いでいるが、過剰投資・過剰生産が常態化している中国経済で、金融問題の是正は容易ではない。

 米国との貿易摩擦が貿易戦争へと転じていく過程で、成長ペースに下押し圧力が強まれば、国有企業といえどもデフォルトリスクに直面する。そんなリスクを回避すべく、いま中国政府は鉄道などインフラ投資増を含めた景気対策を打ち出している。負債額が一段と増加しかねない状況に向かい始めているのである。

金融危機対策の後遺症
正常化に遠い金融政策

 金融危機対策の後遺症として中国経済に現れたのが民間負債の急増だとすれば、低成長の長期化という「難病」に悩まされる日米欧など先進国には、金融政策へのしわ寄せが表面化している。

 その「症状」をなかなか克服できないのが日本であることは、ここであらためて述べる必要もあるまいが、ようやく軌道修正に向かい始めたユーロ圏だけでなく、金利正常化へとかじを切った米国さえも、本来の金融政策の姿を取り戻しているとは言い難い。

 ECB(欧州中央銀行)は10月以降、資産買い入れ額を半減させ、年内に量的緩和策を打ち切る方針を決めた。来年夏以降には利上げも視野に入れており、FRB(米連邦準備制度理事会)に続いて正常化への道を歩むと見られている。

 だが昨年の高成長の反動やユーロ高の影響、そして米国との貿易摩擦などの逆風を受けて、実体経済や物価動向には強い不透明感が漂っている。

 EU内を見ても、ギリシャは支援のプログラムから脱したとはいえ経済・財政の再建には程遠く、ポピュリズム政権が誕生したイタリアは再び財政赤字拡大へ向かう公算が高い。同国の反ユーロ機運はいずれ復活するだろう。

 そして政治経済の中核を担うドイツではメルケル首相の存在感の低下が甚だしく、域内をまとめ上げる政治力が弱まっていることもユーロ圏経済と金融政策を揺さぶる要因になっている。

 欧州には、まだ危機の余韻が漂っているのだ。

 そして量的緩和から脱却して利上げと保有債券減少の「正常化路線」を歩むFRBも、自信満々という印象からは程遠い。

 米国の潜在成長率は戦後で最も低い1%未満の状況にあり、就業を希望しながら仕事に就けないでいる潜在的労働力も、まだ相当存在すると見られている。

 トランプ大統領の減税策や歳出拡大策によって景気拡大期が延びているが、債券市場の利回り曲線は来年後半にも景気が失速する可能性を示唆している。景気後退となれば、FRBはゼロ金利・量的緩和などの再出動や、日本と同様のマイナス金利導入あるいは長期金利の低水準での固定化といった「奇策」を余儀なくされる可能性が高い。

 つまり日本だけでなく欧州も、そして米国さえも、金融政策では、リーマンショック以降の異常な政策からの「本物の出口」を見いだせていないのである。

「異形の大統領」を生み出した
経済ナショナリズムの高揚

 そしていま為替市場では、トルコをはじめとしてアルゼンチン、ブラジル、ロシア、インドそして中国などに至るまで、新興国通貨安の嵐が吹き荒れている。

 これは各国における政治経済情勢への懸念にドル高や金利上昇が加わったうえ、トランプ大統領が仕掛けた貿易戦争を契機とする投資家心理の悪化が重なったものだ。

 関税引き上げという反自由貿易政策への傾斜をトランプ大統領流の脅しと見る向きも多いが、これは10年前の危機と全く無縁の産物ではない。

 1930年代の世界大恐慌が保護貿易の嵐を呼び、それが第二次世界大戦の呼び水になったことは周知の通りだが、2008年の世界的大不況を機に、成長機会が他国に奪われたとの不満が各国の国民の間で強まり、米国内でも保護主義が生まれる下地を形成した、と言ってよい。

 しかも結局、この10年間のリーマンショックからの回復の過程でも、恩恵を受けたのは株や不動産の値上がりを享受した富裕層や、公的支援を受けた金融業界の経営者、デジタル社会の波に乗ったハイテク企業の経営者といった少数の人々だった。

 労働分配率が低下する中で、一般家計の実質所得は低迷したままであり、そんな大衆の不満をうまく吸い上げたのが、2016年の米国大統領選挙で勝利したトランプ氏だった。

「異形の大統領」の出現は、決して偶然ではなく金融史が生んだ1つのドラマなのである。

 その「経済ナショナリズムの高揚」は、地政学の面でも重要な意味を含んでいる。

 20世紀初頭は英国の国際的覇権が大きく低下する世界秩序の転換点だったが、トランプ政権の誕生もまた、米国が戦後に築いてきた世界秩序が崩れる予兆を示唆しているからだ。

 同大統領はカナダや欧州、日本など伝統的な友好国にも背を向け、NATO同盟国のトルコを冷たくあしらい、中国やイランへの敵意をむき出しにする一方で、ロシアには秋波を送りつつ中東ではサウジに極度の肩入れをするなど、世界の安定的な政治経済基盤を揺るがせている。

地政学リスクは
戦後システムの転換につながる

 地政学リスクは、単に目先の株式市場や為替相場を左右するだけの存在ではない。

 歴史的に見れば、地政学の変貌は金融センターの変遷や基軸通貨の代替、通貨制度の変革、資本市場の激変など、経済システムに大振動をもたらしてきた。

 リーマンショックから10年が経過して世界経済は安定したかに見えるが、大局的にいえば我々は「単に余震に気付いていないだけ」という可能性もあるのだ。

 例えば、今日の米中の泥沼の覇権争いは、IMF、世銀、WTOなどの国際機関の存在意義を消失させてしまうことも考えられる。

 深刻な危機を脱して経済成長軌道を取り戻したかに見える米国は、実は危機の残滓を引きずりながら保護主義へ向かい、世界秩序の乱れを引き起こそうとしているかのようだ。

 世界的な債務の記録的膨張、出口なき主要国の金融政策、そしてトランプ大統領の独善的な振る舞いとその「米国第一主義」に厚い支持を寄せる人々の存在は、「次なる危機」への潜在的リスクを示す「炭鉱のカナリア」なのかもしれない。

(RPテック(リサーチアンドプライシングテクノロジー)株式会社代表取締役 倉都康行)

 
2018年9月10日 福田晃広 :清談社

20代で「脳の病気予備軍」も!医師が語る「脳ドック」の必要性

将来的に超高齢化社会を迎えることが確実な日本。医療費の増大が危惧される中、注目されているのが病気になる前に予防するという“未病改善”の重要性だ。2018年1月、「IT×予防医学×検診」をコンセプトに掲げ、“脳ドック”に特化したメディカルチェックスタジオ東京銀座クリニックを開院した知久正明院長に、未病改善について詳しい話を聞いた。(清談社 福田晃広)

短時間&低価格で受診できる
「スマート脳ドック」

若い世代であっても、脳ドックで「未病」状態を発見し、改善することが重要ですストレスや睡眠不足を抱えやすい職種の場合、20~40代であっても、脳に病変が見られる人が少なからずいます(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 日本医師会によれば、未病とは「発病には至らないものの軽い症状がある状態」のこと。大病に進行する前に異常を早期発見し、病気を予防することが重要とされる。

 とはいえ、それなりの症状が出ない限り、病院まで出向いて検査をしようとする人は少ないだろう。一般的には会社などで行われる健康診断が早期発見の役割を担っているが、特に「脳」に関しては、そこまで精密な検査が行われるわけではないため、早期の段階で病気の兆候を発見することはなかなか難しいのが実情だ。

 そんな中、「スマート脳ドック」で未病改善を実現という理念を掲げているのが、メディカルチェックスタジオ東京銀座クリニックだ。

「スマート脳ドック」とは、スマートフォンやPCを活用し、予約から問診、検査結果の通知、管理まで一貫して行うことができるシステムと、放射線科医師と脳神経外科医師のダブルチェック体制、AI画像解析補助(研究開発中)を活用したクラウド画像診断によって、脳血管疾患の予防と早期発見が目的の新しい検診方法だ。

 こうした検査は保険がきかないため、かつてはそれなりの費用がかかっており、一般消費者にとってハードルが高いと思われてきた。しかし、現在は技術の進化や医療機関間の競争もあって、低価格で検査を提供するところが増えてきている。たとえばメディカルチェックスタジオ東京銀座クリニックでは、短時間(検査時間約10分)かつ低価格(税別1万7500円)を実現し、脳ドックをリーズナブルに提供している。

自覚症状のない脳の病気は
早期発見することが重要

 知久院長によれば、脳ドックを受けたいと思っていても、実際に受けられる人はそれほど多くないのだという。

「メディカルチェックスタジオが独自で行った20代から70代男女600人のアンケートによると『健康診断以外で受診したい検診』の1位が脳ドック(39%)だったものの、『知っているが、受診したことがない』人は全体の53%でした。また、脳ドックについては、80%以上が『費用がかかる、料金が高そう』と答えていました。確かに、これまでの脳ドックは病院によって千差万別とはいえ、安くても3万円から高いところでは8万円が相場。値段がネックになっている人が多かったのです」(知久院長、以下同)

 ハードルが高かった脳ドックではあるが、知久院長は脳ドックの必要性についてこう語る。

「2017年の厚生労働省の発表によると、『脳血管疾患』は死因の4位に入っていますが、この病気は、寝たきりなどの後遺症に悩まされたり、長期の治療が必要だったりするなど、多大な負担がかかるケースも珍しくありません。しかし、普段の健康診断では、リスクの層別化はできても実際の脳の状態はわからないのが現状です。これでは、多くの人が脳に関する病気の早期発見ができず、取り返しのつかない段階まで発展しまう可能性があります。まずはMRI検査など脳ドックを受けることが、とても大事なのです」

 特に脳に関する病気は、自覚症状がないため、検査によって初期病状を発見することが未病改善には、とても重要だという。

ストレスフルな職種では
20代でも脳に異変が!

 これまで数千人の働き世代を診断してきた知久院長だが、そのデータからある傾向が読み取れるという。

「『脳白質病変』といって、脳内の血の巡りが悪いと出現する所見は50歳以上で出てくると考えられていましたが、ストレスや睡眠不足を抱えやすい職種だと20~40代でも状態の人が少なからず見られることがわかりました。病変が進行すると脳梗塞や認知症を起こしやすくなるので、早期に発見して、適度な運動や質の良い睡眠、喫煙者には禁煙を促すことで予防することが重要だと考えています」

 程度にもよるが、脳梗塞にかかると完治は難しく、その後は再発予防をするだけという、取り返しのつかない状態になってしまう。

 高齢者が増え続ける社会となり、この先は医療費が国家財政を圧迫することが予想される。国としても専門家の医師による未病講座を開催するなど、対策には動いている。

 また、メディカルチェックスタジオ東京銀座クリニックでは、脳ドックのほかにも、被ばくの少ない低線量による「肺・心血管ドック」(脳ドックとセットで受診でき、税別2万5000円)や、超音波を利用した頸動脈、心臓エコー検査など画像診断機器を取り揃え、未病発見に努めている。

「これから増えてくると思われる病気は、肺炎、脳梗塞、心臓病。しかし一般の人間ドックでは、肺や心臓の血管検査をやるところもごくわずか。遅くとも働き盛りの40代に一度、脳ドックや肺・心血管ドックを受診するのは、未病対策としてぜひ多くの人にやっていただきたいと思っています」

 検査以外にも日頃からの食事、運動、睡眠、喫煙、ストレスなどに気をつかうことが、あらゆる病気予防につながることは言うまでもない。そこに定期的な検査を加えることで、健康寿命を大きく延ばすことができるだろう。

 

前川喜平氏が危惧 「安倍政権があと3年も続投したら…

2018年09月11日 02時03分02秒 | Weblog

日刊ゲンダイDIGITAL                                                  2018年9月10日

 

   安倍首相が3選を狙う自民党総裁選が7日、告示された。投開票は20日だ。安倍が続投すれば、世論の7割以上が不信感を抱き続けるモリカケ問題の再燃は避けられない。その一方で、教育行政への介入が一層強まる懸念もある。加計学園問題を巡る決定的な証言で安倍を追い込み、目の敵にされる前川喜平氏(63)はどう見ているのか。

■「石破4条件」は下村元文科相が作らさせた

  ――「あったことをなかったことにはできない」と告発した加計問題の真相はいまだ藪の中です。

 当事者の安倍首相や加計孝太郎理事長は事実を認めていませんが、学園が国家戦略特区を利用して獣医学部を新設するに至ったプロセスの全貌は、ほぼ明らかになったと言っていい。私が直接見聞きしたのは2016年8月から11月にかけてですが、一連の文科省文書や愛媛県文書や証言によってすべて浮き彫りになっています。

 

  ――愛媛県文書では「加計ありき」でコトが始まり、「加計隠し」で進んだのが鮮明です。

 衝撃的なのは柳瀬唯夫首相秘書官(当時)の発言です。15年4月2日に学園関係者、愛媛県と今治市の職員と官邸で面会した際に「本件は首相案件である」と口にした。首相から直接言われなければ、そういう言い回しには絶対にならない。首相秘書官はいわば側用人。首相の言葉を秘書官に伝達する人間は存在しません。愛媛県文書によって、15年2月から4月にかけての出来事はよく分かる。今治市が特区に提案する前のこの時期に、安倍首相と加計理事長は少なくとも2回会っている。そのうちの1回は15年2月25日に15分程度。おそらく官邸でしょう。

  ――面会で安倍首相は獣医学部構想について「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」と応じたと記載がありますが、「首相動静を見る限り、お目にかかっていない」と否定しています。

 

 首相動静に書いていないという言い訳はひどい。首相の面会記録は秘書官が必ず持っていますよ。首相動静は番記者が首相の動向をチェックしてまとめたものですが、官邸の正面玄関で来訪者に「総理に会うんですか?」と確認しているんです。官邸には裏口がある。私自身、記者に気付かれないで官邸に入ったことがあります。

  ――どのような形で?

 文科省の天下り問題で杉田和博官房副長官に何度か説明に行きました。記者の目につくのはよくない状況だったので、文科省の出向者に業務用車両の通用口で待機してもらいました。そういうルートを使えば、記者の目に触れずに官邸内のどこまでも行けるんです。

  ――獣医学部新設の壁となる「石破4条件」は「下村4条件」だったといわれている。下村博文元文科相は安倍首相の側近で、学園からの闇献金疑惑が浮上しています。

 

 下村元文科相はもともと学園と関係があった。愛媛県文書からは、安倍首相と加計理事長が会食する以前に下村元文科相が学園に「課題」を出していたことが分かります。「課題」は後に閣議決定された「石破4条件」のもとになったもの。石破茂氏が特区を担当する地方創生相時代に閣議決定したため「石破4条件」と呼ばれるようになりましたが、その原型は下村元文科相が高等教育局に指示して作らせたものなのです。獣医師増加につながる獣医学部新設は認めないという原則のもとで例外を認めるには、従来の獣医師がやっていない新しい分野の人材ニーズがあり、そうした獣医師の養成は既存の大学ではできない、という条件が必要になる。これは非常に高いハードルで、条件を満たすのは極めて難しい。下村元文科相は安易に考えたのかもしれませんが、学園はその「課題」をこなせなかった。

  ――安倍首相と加計理事長の会食の席で、安倍首相が「課題への回答もなくけしからん」という下村元文科相の発言を伝えたとされます。しかし、4月2日の面会以降はトントン拍子に進んだ。

 

 愛媛県文書によると、その「回答」について学園は、柳瀬氏から〈今後、策定する国家戦略特区の提案書と併せて課題への取組状況を整理して、文科省に説明するのがよい〉と非常に的確なアドバイスを受けています。特区認定事業は国際競争力の強化、国際経済拠点の形成といったものに限られる。逆に言うと、その説明さえできれば通る。役人言葉で言う「作文」です。中身がなくてもそれらしい言葉が並んでいればいい。特区の提案書は、その道のスペシャリストの藤原豊地方創生推進室次長(当時)が指南する手はずになっていた。試験官が模範解答を教えるようなものです。

  ――まさに手取り足取り。文科省の私大支援事業を巡る汚職事件では、前科学技術・学術政策局長の佐野太被告も東京医科大に申請書類の書き方を指南したとされます。

「要はどうやってだますかですよ」という音声データが流れていましたね。「一番の殺し文句は、新しい学問の領域をつくる。これが最終目的ですと」とも。

安倍政権の危うさはこれまでの比ではない

  ――愛国心を養う教育改革に熱を入れる安倍政権は文科省に対する圧力を強めてきた。相次ぐ不祥事発覚は“文科省潰し”との見方もあります。

 この事件の裏で一体何が起きているのか、全体像がつかみきれない不可解さはある。ただ、文科省の信用がまた落ちてしまったのは極めて残念です。私自身が天下り問題で信用を失墜させた責めを負ったわけですから。

  ――教育行政への政治介入はどうですか。安倍シンパの国会議員が文科省と名古屋市教育委員会を通じて前川さんが授業をした中学校に圧力をかけました。

 第1次安倍政権の06年に教育基本法が改正された影響は大きいですね。教育の自主性が非常に弱められた。教育と教育行政の関係について定めた旧教育基本法第10条はとりわけ重要な条文だったのですが、大きく改変されてしまいました。

 

  ――〈教育は(中略)国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきもの〉とのくだりですね。

 政治権力は教育に介入しないという趣旨でした。この文言と入れ替わったのが、〈この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの〉。法律に根拠があれば、政治権力が教育に介入してもいいと解釈される余地が生まれた。

■教育基本法改正で教育行政介入にお墨付き

  ――与党勢力が国会の3分の2を占める状況では、教育に介入する法律の制定は難しくない。

 作ろうと思えばなんぼでも作れるんです。教育への政治介入にお墨付きを得たと思っている政治家も多いでしょう。国を愛する態度を養え、家庭教育はこうせい、とも書き加えられた。政治の力で教育を変えようとする動きは非常に強まっている。安倍首相を支援する日本会議の思想と連動しています。日本会議は憲法改正と同時に教育を根本的に変えようとしている。教育を国家のための人間づくりととらえ、国家に奉仕する人間をつくろうとしている。憲法も教育も戦前回帰の危険が強まっていると思います。

  ――物議を醸している道徳の教科化は今年度から小学校、来年度から中学校で実施されます。

 道徳教育は特に危険ですね。政治圧力に忖度する、迎合する、屈する。そういう教育委が出てくる可能性がある。日本会議は地方議会にも根を張っている。僕に言わせると、彼らはファシストですよ。気の弱い教育長や校長が顔色をうかがうようであれば、現場の先生たちの自由が縛られかねない。これが心配ですが、都立七生養護学校の性教育を巡る11年の東京高裁判決が参考になります。

  ――どんな内容か?

 都議3人が授業を非難し、都教委を動かして学習指導要領違反で教員を処分させたのです。教員や保護者が教育への不当介入だとして都議らを相手取って損害賠償などを求める訴訟を起こし、1審、2審とも原告側勝訴でした。

 

  ――心強い判例ですね。

 ただ、最近は司法も危うくなってきている印象です。高校無償化を巡る朝鮮学校の訴訟に原告側で関わっているのですが、1審判決の原告側勝訴は大阪地裁だけ。東京、広島地裁は国が勝ち、政治に忖度しているとしか思えないような判決内容でした。警察も検察も信用できない。安倍首相と昵懇で、「総理」などの著書がある(元TBSワシントン支局長の)山口敬之氏に対する準強姦容疑の逮捕状が執行停止になり、検察も不起訴にした。警察、検察に官邸の支配が及んでいるとしか考えられない。安倍首相があと3年も続投したら、最高裁は安倍政権が任命した裁判官だらけになってしまう。安倍政権の危険さはこれまでの比ではない。このままでは本当に危ないと思います。

(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)

▽まえかわ・きへい 1955年、奈良県御所市生まれ。東大法学部卒業後、文部省入省。宮城県教育委員会行政課長、ユネスコ常駐代表部1等書記官、文部相秘書官などを経て、2012年に官房長。13年に初等中等教育局長、14年に文科審議官、16年に文科事務次官に就任し、17年1月に退官。現在は自主夜間中学のスタッフとして活動。単著「面従腹背」(毎日新聞出版)を上梓

 

利権政権に国民を守れるのか ミサイル防衛よりも原発停止

2018年9月8日

 最大震度7の強烈な揺れを引き起こした北海道胆振東部地震による大混乱は、収束の気配が見えない。台風21号の大雨の影響で道内の地盤は緩み、そこにとんでもない揺れが襲った。各地で大規模な土砂崩れが発生し、死者は18人、安否不明が19人に上り、負傷者は390人を数えている。余震は100回を超え、8日の明け方にかけて1時間に最大25ミリの強い雨が降る厳しい気象条件も重なり、2次災害、3次災害の懸念が高まっている。

 市民生活をズタズタにし、交通網を寸断して経済活動をマヒさせた大きな要因が「ブラックアウト」だ。地震発生から17分後に北海道電力の火力発電所がダウン。道全域の295万戸が停電になった。全国で電力の需要調整を行う認可法人「電力広域的運営推進機関」によると、大手電力会社の管轄エリア全域で停電するのは初めてのケースだという。地震発生から2日経っても完全復旧はほど遠く、経産省や北海道電力によると、1週間以上かかるという。

 

 そこで持ち上がっているのが、「北電の電源構成に問題があった」という議論だ。3・11後に運転停止した泊原発が再稼働していれば、ブラックアウトは避けられたというのである。

 この時期の道内の電力需要ピークは約380万キロワット。その半分を供給しているのが、震源地に近い苫東厚真火力発電所だ。

 この基幹電源が失われたことを引き金に、数分以内に他の火力発電所も次から次へとストップ。さながらドミノ倒しのように運転を停止した。泊原発の3基が稼働していれば、供給力は200万キロワット超。原発停止で電力の安定供給がおろそかになっている――というのである。

■再稼働浮上は原子力ムラの倒錯

 東京電力の福島第1原発を7日視察した日本商工会議所の三村明夫会頭は、「ひとつの大きな発電所に依存するのではなく、原子力発電も含めて安定した電源を確保することが大事だ」と言及。「前々からそう思っている」として、基幹電源における原発の必要性を強調した。

 

 6月には最大震度6弱を観測した大阪北部地震が発生した。

 大きな地震に直面した市民の反応は果たしてそうだろうか。福島の原発事故が頭をよぎらなかったか。ブラックアウトを理由にした原発再稼働推進は原子力ムラの倒錯でしかない。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)は言う。

「泊原発が停止していたのはむしろ幸運でした。震度2程度の揺れで外部電源を喪失し、非常用電源に頼る綱渡り。非常に危うい施設だということが浮き彫りになり、リスクの高さが証明されたと言っていい。今年だけでも、日本列島は西日本豪雨や台風21号などの記録的な自然災害にさらされている。大災害のたびに〈原発は大丈夫か〉と不安になる市民は少なくありません。胆振東部地震で得られた教訓は、一日も早い脱原発です。北電は巨大火力発電所に頼む電源構成を見直し、自然エネルギーを活用して構成を分散させる好機とすべきです。原発が存在する限り、いつか必ず福島の事故は繰り返される。今夏の異常猛暑でも電力不足は起きず、需給は安定していた。原発を再稼働させなければならない理由はない。推進論者の主張は論理のすり替えでしかありません」

 

発生1分後に対策室設置、2分後に首相指示のしらじらしさ

 安倍政権は地震発生から1分後に官邸の危機管理センターに官邸対策室を設置。さらに1分後に安倍首相が被害状況の把握や被害者の救助徹底を指示したと報じられている。およそ2時間半後に安倍は官邸入り。報道陣のブラ下がり取材に「人命第一で、政府一丸となって災害応急対応にあたる。危機管理のため、しっかりと対応していきたい」と応じたが、心中は疑わしい。赤坂自民亭騒動の汚名をすすぐ絶好のチャンスとばかりに腕まくりで“やってる感”を演出しているのはミエミエだ。

「安倍首相の危機意識は極めて歪んでいます。自然災害が頻発する日本のトップでありながら、防災に対する感覚は貧弱で未然防止に関心が薄い。災害を軽視しているのです。一方で、いつ来るとも分からない軍事的脅威には過剰なほど備え、約2400億円を投じて(陸上配備型迎撃ミサイル)イージス・アショアを導入するなど、米国製装備品を盛んに購入し、国防力を肥大化させている。防衛費は4年連続で最大を更新し、5.3兆円に迫ります」(五十嵐仁氏=前出)


 一進一退しているが、6月の米朝首脳会談以降、国際情勢は着実に変化している。日本を取り巻く環境、置かれた状況を冷静に見れば、誰がどう考えてもミサイル防衛よりも原発停止が先だろう。

 台風21号の猛威による過去最高潮位に見舞われた関西国際空港は冠水。暴風雨で漂流したタンカーが連絡橋に衝突するアクシデントも重なり、陸の孤島となった関空には7800人が取り残された。関空の運営会社は「想定外」を連発したが、災害のたびに想定外の事態は起きている。振り返れば安倍は、そのたびに「懸命に取り組む」という舌先三寸を繰り返すだけなのだ。

■被災者は踏み台、国民はないがしろ

 コスト至上主義で原発再稼働を求める財界、原発輸出推進を掲げる経産省に牛耳られた官邸。オトモダチに踊らされ、「日本の原発技術は世界一安全」とうそぶく安倍は世界の嘲笑の的である。

 

 高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)は言う。

「例えば、欧州でも原発は利用されていますが、事情が大きく異なります。西欧が経験した大地震は1755年のリスボン大地震までさかのぼる。1980年にマグニチュード6.9の地震に襲われた火山国のイタリアは、90年までに原発施設を閉鎖しました。国際社会は3・11で日本が被った壊滅的ダメージを鮮明に記憶している。地震列島の日本が原発再稼働に突き進むのは自殺行為と見られています」

 安倍は外交や災害対応でリーダーシップを見せつけたがるが、原子力規制委員会の新規制基準を振りかざし、机上の安全神話を見直さない狂気じみたご都合主義に、国際社会は呆れ返っているのだ。

 7月に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」では、2030年までに電源構成に占める原発の比率を「20~22%」とする数値目標が新たに設けられた。何が何でも原発を維持しようとしている。脱原発の政治勢力を結集させ、利権癒着政権を倒さなければ、この国はもう、どうにもならない。

 

 安倍が3選を狙う自民党総裁選(20日投開票)は石破茂元幹事長との一騎打ちだ。

 石破は「脱炭素化・再生可能エネルギーを原動力に地方創生を実現」を掲げ、出馬会見でも「安心・安全を最大限に確保しながら、原発の割合を減らしていくことが必要」と訴えていた。オトモダチ優遇しか頭にない安倍よりは、脱原発に向けた動きが前進する可能性はある。

 日本世論調査協会が実施した3・11と福島原発事故に関する全国面接世論調査では、「原発の安全性は向上したと思うが、深刻な事故の懸念は残る」との回答が過半数の56%に上った。原発の在り方を巡っては64%が「段階的に減らして将来的にゼロ」、11%が「いますぐゼロ」と回答。「新基準で安全性が向上し、深刻な事故も起きない」は5%にとどまった。

「国民の声を無視して原発再稼働を推し進めるのか。脱原発に向かうのか。将来のエネルギー政策をどう描くのか。相次ぐ自然災害で原発の在り方が再びクローズアップされる中、次の首相を決める総裁選で国民的テーマを議論しないなんてあり得ません。そもそも無投票3選を目指していた安倍首相は、石破氏との議論から逃げ回り、胆振東部地震の対応を選挙活動自粛の口実にしている。政治的野心の実現に災害を利用して被災者をふみにじり、その一方でオープンな議論を求める国民をないがしろにしているのです。二重の不誠実を働く安倍首相を続投させていいのか」(五野井郁夫氏=前出)

 安倍の常套句「国民の生命と財産を守る」は嘘っぱちなのは、明々白々だ。

 

 

脇雅史氏が自民批判「政党さえ勝てばいいでは国が終わる

日刊ゲンダイDIGITAL                      2018年7月23日

 

「1票の格差」是正に向けた参院選挙制度改革をめぐる自民党提出の公職選挙法改正案が18日、衆院で可決、成立した。「埼玉選挙区の定数2増」「比例代表定数4増」「比例名簿に特定枠を設ける」という自民党案に対し、参考人として出席した9日の参院政治倫理確立・選挙制度特別委員会(倫選特委)で「選挙制度は国民のためにある。自民党のためではない」とバッサリ切り捨てたのが、元自民党参院幹事長・脇雅史氏だ。2013~14年に与野党でつくる参院選挙制度協議会の座長を務め、22府県の選挙区を11に再編する独自案を示した参院選挙制度の“専門家”の目に古巣の改正案はどう映ったのか。

■抜本策を作るという法律を作らない自民党

  ―――まずは参院選の「1票の格差」問題をどう見ていますか。

「1票の格差」問題については、以前から国会で問題視する声が出ていたけれども、あまり本気で対応してきませんでした。ところが、2012年10月、最高裁が10年の参院選の「1票の格差」を「違憲状態」と判断した。これを受け、さすがに制度を変えないといけないという空気が国会で強まったわけですが、次の参院選(13年7月)までは8~9カ月しかなかったため、抜本改革は無理だろう、と。そこで当面の是正策として「4増4減」という、ほんのちょっとの格差是正をした。そして改正公選法の付則で、16年の参院選までには「制度の抜本的な見直し」「結論を得る」と明記したのです。つまり、国会にとって参院選挙制度の抜本的改革は「責務」となったわけです。

  ――国会は「1票の格差」是正に必ず取り組まなければならないとなったわけですね。

 そうです。ところが自民党は相変わらず、「そんな必要はない」「最高裁なんか関係ない」という姿勢でした。しかし、15年の法改正に向けて公明党や当時の民主党が10カ所の「合区」を提案すると、このままだと「10合区案」が成立するかもしれないと慌てたのでしょう。自民党は少数野党と組んで現行の「2合区10増10減」という案を出して押し切ってしまった。筆頭与党のリーダーシップを発揮したわけではありません。自分たちにとって都合の悪い案が出てきたので、場当たり的に対応したに過ぎません。そして、抜本的な見直しについては先送りして、付則の「結論を得る」に「必ず」を付け加えただけ。倫選特委でも指摘しましたが、抜本的な解決策を出す、という法律を自ら作っておきながら、それを守らなかったのです。まったくひどい話で、私から見れば(自民党議員は)国会議員の資格がないと思いますね。

  ――参院選挙制度協議会の座長時代、改革に後ろ向きな参院自民党を「死んだも同然」と批判していました。

 自分たちで作った法律を守らないことに対する罪の意識もなければ、恥とも感じていない。だから、まともに生きてる人間ではないだろうという意味を込めて言ったのですが、それでも生きているのだから、ゾンビです。ゾンビになってよりひどいことをやっている。

  ――今回の自民党案のことですね。

 ドサクサ紛れで作った現行法は付則に「制度の抜本的見直し」が明記されていて、それ自体が抜本策ではないと認めているわけですが、(前回の法改正の時と)今回は少し状況が変わりました。昨年9月に最高裁が(合区が導入された)16年7月の参院選を「合憲」と判断したためです。要するに、ドサクサの現行法が「合憲」になったわけで、そうであれば今、慌てて法律を変える必要はありません。変えるのであれば、どう抜本改革に取り組むのかという国の基本的な理念、考え方を国民に示した上で行うべきです。

  ――しかし、今回の自民党案はそうではない。

 提案理由で行政監視のために比例代表を増やす、などとありましたが、国会議員を4人増やせば、今よりも行政監視の機能が高まると言いたいのでしょうか。人数を増やさなくても行政監視は与党がきちんと対応すれば済む話です。例えば森友問題で国会答弁に立った佐川宣寿理財局長(当時)に対し、与党議員が「いい加減な答弁をするな」と厳しく迫った場面がありましたか。皆、官邸の顔色をうかがい、追及するどころか「何もしていませんよね」と同意を求める追従発言ばかりでした。与党がしっかりしていれば、ああいうふざけた答弁にならなかったはず。今の与党議員に本気で行政を監視する気があるとは到底、思えません。

 

国権の最高機関である立法府がムチャクチャに

  ――地域代表が大事だとも自民党は説明しています。

 好き勝手言っているとしか思えません。大体、国会議員が地域代表だけでよいはずがない。その(選挙区の)地域のことだけ考えるなんて本質的に考えておかしいでしょう。国会議員は国のために尽くすのです。地域で抱えている問題があれば、全国共通の問題として引き上げて解決しなければならない。自分の地域さえ良くなればいいということではないのです。

  ――あらためて抜本改革に程遠い内容だと強く感じたわけですね。

 自民党が国家や国民のためになると真剣に考えた上で提案したのであれば理解できますが、何らスジが通っていない。そもそも「抜本改革」と言いながら、一方では、安倍首相が6月の党首討論で(自民党案は)「臨時的措置」と説明しているのです。全く整合性が取れていません。法律を作る立法府が、そんないい加減なことで許されるのか。もうムチャクチャです。

 

  ――世論や野党の批判を無視して改正法成立を急いだ自民党の本音はどこにあると思いますか。

 来年の参院選を乗り切るため。合区の「島根・鳥取」「徳島・高知」で立候補できない現職の救済策以外の何物でもないでしょう。本来は候補者調整すれば済む話なのに、それをしないし、できない。そのために比例を用意します、しかも順番をつけて特定枠も設けますと。とんでもない発想です。自分の政党さえ勝てばいい。多数議席を持ってるからいいという考え方では、国が終わってしまいます。この方法だと、例えば自民党に対する世論批判が全国で高まり、選挙区で自民党候補が全滅しても、特定枠の候補者だけは必ず当選することになる。選挙というのは民意を反映するために行うのであって、民意によらない結果が出ることになるのです。一体、何のための法改正なのか。国民はもっと怒らなくてはいけないと思います。

■責任が「ある」と「取る」を勘違いしている安倍政権

  ――小選挙区で落選しながら比例復活する衆院議員と同じですね。

 衆院の重複立候補は、小選挙区制を導入する際の臨時措置だったはずですが、まだ続いている。小選挙区、比例の並立立候補を禁止し、それぞれの選挙をきちんと通った議員が当選していれば、国会の姿も今とは違っていたかもしれません。しかし、現実は(比例復活の)ゾンビ議員を許している。こんなバカな制度をいつまで続けているかと思いますね。今の国会議員は与野党問わず、国民にとってどんな選挙制度がいいのかということを本気で考えていない。自分たちにとって使い勝手がいい互助会制度と考えているのではないか。今ほど国会議員の質が悪くなったことは過去に例がないと思います。

  ――確かに今の安倍政権下では国会議員の劣化が目立ちます。

 

 その安倍首相自身が物事の意味をきちんと理解した上で発言していない。言葉を大事にしていないとも言えますね。衆議院の選挙制度についても、かつて安倍首相は「合憲になると思う」と発言していました。本当に合憲になるのかと問われると、3回も「合憲になる」と言ったのです。ところが、その直後に裁判所で「違憲判決」が出ました。ふつうは、こういう理由で合憲と思っていたが、結果として間違えたのだから責任を取る、というのが当然でしょう。しかし、一言もありませんでした。彼は責任は私にありますとよく言うが、責任が「ある」と「取る」の意味はまったく違います。ところが、彼は責任があると言った途端、なぜか責任を取ったと勘違いしている。国権の最高機関である立法府がそんな格好でむちゃくちゃやってるから、日本全体の道徳観念が衰えるのも当然かもしれません。

(聞き手=本紙・遠山嘉之)

 

▽わき・まさし 1945年、東京都生まれ。東大工学部卒。建設省道路局国道第二課課長、同河川局河川計画課課長、近畿地方建設局局長などを経て、98年の参院選に自民党から比例代表で出馬して初当選。党参院幹事長、国対委員長、参院政治倫理審査会会長などを歴任した。2015年、参院選挙制度改革をめぐり自民会派を離脱。16年参院選には出馬せず引退(当選3回)。

 

作家・中村文則氏が警鐘 「全体主義に入ったら戻れない」日刊ゲンダイDIGITAL                          2018年6月18日

 

 ウソとデタラメにまみれた安倍政権のもと、この国はどんどん右傾化し、全体主義へ向かおうとしている――。そんな危機感を抱く芥川賞作家、中村文則氏の発言は正鵠を射るものばかりだ。「国家というものが私物化されていく、めったに見られない歴史的現象を目の当たりにしている」「今の日本の状況は、首相主権の国と思えてならない」。批判勢力への圧力をいとわない政権に対し、声を上げ続ける原動力は何なのか、どこから湧き上がるのか。

  ――国会ではモリカケ問題の追及が1年以上も続いています。

 このところの僕の一日は、目を覚ましてから新聞などで内閣が総辞職したかを見るところから始まるんですよね。安倍首相は昨年7月、加計学園の獣医学部新設計画について「今年1月20日に初めて知った」と国会答弁した。国家戦略特区諮問会議で加計学園が事業者に選ばれた時に知ったと。これはもう、首相を辞めるんだと思いました。知らなかったはずがない。誰がどう考えてもおかしい。ついにこの政権が終わるんだと思ったんですけど、そこから長いですね。

 

  ――「現憲法の国民主権を、脳内で首相主権に改ざんすれば全て説明がつく」とも指摘されました。

 首相が言うことが絶対で、首相が何かを言えばそれに合わせる。首相答弁や政権の都合に沿って周りが答弁するだけでなく、公文書も改ざんされ、法案の根拠とする立法事実のデータまで捏造してしまうことが分かりました。この国では何かを調べようとすると、公文書や調査データが廃棄されたり、捏造されている可能性がある。何も信用できないですよね。信用できるのはもう、天気予報だけですよ。後から答え合わせができますから。安倍首相の言動とあれば、何でもかんでも肯定する“有識者”といわれる人たちも、いい大人なのにみっともないと思う。

  ――熱烈な支持者ほど、その傾向が強い。

 普通に考えれば、明らかにおかしいことまで擁護する。しかもメチャクチャな論理で。この状況はかなり特殊ですよ。この年まで生きてきて、経験がありません。

■安倍政権が知的エリート集団だったらとっくに全体主義

  ――第2次安倍政権の発足以降、「この数年で日本の未来が決まる」と警鐘を鳴らされていましたね。

 これほどの不条理がまかり通るのであれば、何でも許されてしまう。「ポイント・オブ・ノーリターン」という言葉がありますが、歴史には後戻りができない段階がある。そこを過ぎてしまったら、何が起きても戻れないですよ。今ですら、いろいろ恐れて怖くて政権批判はできないという人がたくさんいるくらいですから、全体主義に入ってしまったら、もう無理です。誰も声を上げられなくなる。だから、始まる手前、予兆の時が大事なんです。

  ――そう考える人は少なくありません。総辞職の山がいくつもあったのに、政権は延命しています。

 安倍政権が知的なエリート集団だったら、とっくに全体主義っぽくなっていたと思うんです。反知性主義だから、ここまで来たともいえますが、さすがにこれ以上の政権継続は無理がある。森友問題にしろ、加計問題にしろ、正直言って、やり方がヘタすぎる。絵を描いた人がヘタクソすぎる。こんなデタラメが通ると思っていたことが稚拙すぎる。根底にはメディアを黙らせればいける、という発想もあったのでしょう。

  ――メディアへの圧力は政権の常套手段です。

 実際、森友問題は木村真豊中市議が問題視しなかったら誰も知らなかったかもしれないし、昨年6月に(社民党の)福島瑞穂参院議員が安倍首相から「構造改革特区で申請されたことについては承知していた」という答弁を引き出さず、朝日新聞が腹をくくって公文書改ざんなどを報じて局面を突き破らなかったら、ここまで大事になっていなかった。一連の疑惑はきっと、メディアを黙らせればいい、という発想とセットの企画のように思う。本当に頭の良い、悪いヤツだったら、もっとうまくやりますよ。頭脳集団だったら、もっと景色が違ったと思う。

 だいたい、メディアに対する圧力は、権力が一番やってはいけないこと。でも、圧力に日和るメディアって何なんですかね。プライドとかないのでしょうか。政治的公平性を理由にした電波停止が議論になっていますが、止められるものなら、止めてみればいいじゃないですか。国際社会からどう見られるか。先進国としてどうなのか。できるわけがない。

モリカケ問題は犯人が自白しない二流ミステリー

  ――安倍首相は9月の自民党総裁選で3選を狙っています。

 これで3選なんてことになれば、モリカケ問題は永遠に続くでしょうね。安倍首相がウソをつき続けているのだとしたら、国民は犯人が自白しない二流ミステリーを延々と見せられるようなものですね。

  ――北朝鮮問題で“蚊帳の外”と揶揄される安倍首相は外遊を詰め込み、外交で政権浮揚を狙っているといいます。

 “外交の安倍”って一体なんですか? 誰かが意図的につくった言葉でしょうが、現実と乖離している。安倍首相が生出演したテレビ番組を見てビックリしました。南北首脳会談で日本人拉致問題について北朝鮮の金正恩(朝鮮労働党)委員長が「なぜ日本は直接言ってこないのか」と発言した件をふられると口ごもって、「われわれは北京ルートなどを通じてあらゆる努力をしています」とシドロモドロだった。あれを聞いた時、度肝を抜かれました。この政権には水面下の直接ルートもないのか。国防意識ゼロなんだ、って。

 

  ――中国と韓国が北朝鮮とトップ会談し、米朝首脳会談が調整される中、日本は在北京の大使館を通じてアプローチしているだけだった。

 ミサイルを向ける隣国に圧力一辺倒で、あれだけ挑発的に非難していたのに、ちゃんとしたルートもなかったことは恐ろしいですよ。それでミサイル避難訓練をあちこちでやって、国民に頭を抱えてうずくまれって指示していたんですから。安倍首相は北朝鮮の軟化をどうも喜んでいない気がする。拉致問題にしても、アピールだけで、本当に解決したいとは思っていないのではないか、と見えてしまう。拉致問題で何か隠していることがあり、そのフタが開くのが怖いのか。北朝鮮情勢が安定してしまうと、憲法改正が遠のくからか。

■萎縮して口をつぐむ作家ほどみっともないものはない

  ――内閣支持率はいまだに3割を維持しています。

 

 要因のひとつは、安倍首相が長く政権の座にいるからだと思います。あまり変えたくない、変えると怖いなという心理が働いたりして、消極的支持が増えてくる。政権に批判めいた話題をするときに、喫茶店とかで声を小さくする人がいるんですよね。森友学園の籠池(泰典)前理事長の置かれた状況なんかを見て、政権に盾突くと悪いことが起こりそうだ、なんだか怖い……という人もいるのではないでしょうか。マスコミの世論調査のやり方もありますよね。電話での聞き取りが主体でしょう。電話番号を知られているから、何となくイヤな感じがして、ハッキリ答えない、あるいは支持すると言ってしまう。ようやく、不支持率が支持率を上回るようになってきましたが、正味の支持率は今はもう、3~5%ぐらいではないでしょうか。

  ――政権批判に躊躇はありませんか。

 政権批判をして得はありません。ハッキリ言って、ロクなことがない。でも社会に対して、これはおかしいと思うことってありますよね。僕の場合、今の状況で言えば、そのひとつが政権なんです。この国はこのままだとかなりマズイことになると思っている。それなのに、萎縮して口をつぐむのは読者への裏切りだし、萎縮した作家ほどみっともないものはない。

 

 歴史を振り返れば、満足に表現できない時代もあった。今ですら萎縮が蔓延している状況ですが、後の世代には自分の文学を好きなように書いてもらいたい。それには今、全体主義の手前にいる段階で僕らが声を上げる必要がある。これは作家としての責任であって、おかしいことにおかしいと声を上げるのは、人間としてのプライドでしょう? それに、今の情勢に絶望している人たちが「この人も同じように考えているんだ」と思うだけでも、救いになるかなと思うんです。いろんな立場があるでしょうが、僕は「普通のこと」をしているだけです。

(聞き手=本紙・坂本千晶)

▽なかむら・ふみのり 1977年、愛知県東海市生まれ。福島大行政社会学部卒業後、フリーターを経て02年、「銃」でデビュー。05年、「土の中の子供」で芥川賞、10年、「掏摸〈スリ〉」で大江健三郎賞。14年、ノワール小説に貢献したとして米国デイビッド・グーディス賞を日本人で初めて受賞。16年、「私の消滅」でドゥマゴ文学賞。近未来の全体主義国家を生々しく描いた近著「R帝国」が「キノベス!2018」で首位


 

 

 

もう利用価値なし 安倍首相がトランプにクビ宣告される日

ゲンダイDIGITAL                          2018年9月9日

蜜月時代もついに終わり(C)共同通信社

 カネの切れ目は縁の切れ目。「揺るぎない絆」なんてしょせん、こんなものである。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)が6日、トランプ大統領が巨額の対日貿易赤字を問題視し、安倍首相との友好関係が「終わる」と語った――と報じた。

 コラムニストのジェームス・フリーマン氏がトランプに電話取材した内容をまとめた記事で、同紙は〈トランプ氏はなお、日本との貿易の条件で悩んでいる〉と指摘。トランプは安倍との良好な関係に触れつつも、貿易赤字の解消のために〈日本がどれだけ(米国に)払わなければならないかを伝えた瞬間、(良好な関係は)終わる〉と語ったという。

 2017年の対日貿易赤字は689億ドル(約7兆6000億円)。赤字幅の国別順位では中国、メキシコに次ぐ3位だ。トランプは6月の日米首脳会談の際も、日本の通商政策に対して「真珠湾を忘れていない」と不快感を示した、と米紙ワシントン・ポストが報道。日本政府は事実関係の否定に躍起になっていたが、今回はコラムニストの電話取材を踏まえた記事だから信憑性は高い。

 

■最大の理由は拉致問題

 11月の中間選挙を控えたトランプにとって貿易赤字の解消は喫緊の課題だ。中国、メキシコに続き、次の標的は日本、ドイツだろう。対日貿易赤字の大部分は自動車産業だが、これを解消するには農産物の大幅な市場開放ぐらいしか手がないが、ここに手を付けたら地方の猛反発は必至。日本政府も到底、受け入れられない話だ。さらに今、トランプにとって最大のネックになっているのが北朝鮮の拉致問題だという。経済評論家の斎藤満氏はこう言う。

「中間選挙に向けて北朝鮮問題を進めたいと考えていたトランプ大統領は、非核化と経済支援を同時進行させるため、日本と韓国に費用を負担させようと考えていたが、日本は拉致問題の解決なしには金を出さないスタンスで、北も強硬路線一辺倒の安倍政権との日朝首脳会談は断固拒否です。つまり、安倍政権では北朝鮮問題は1ミリも進まない。となれば、トランプ大統領にとって、もはや安倍首相の利用価値はないと考えても不思議ではないでしょう。総裁選の最中のタイミングで“三くだり半”のような報道が出ること自体、安倍首相に対する何らかのメッセージではないかと勘繰ってしまいます」

 

 安倍首相はこれまで散々、拉致問題を政治利用して地位を築いてきたが、今度は逆に拉致問題が足元を揺さぶり始めたのだ。安倍首相は総裁選で勝っても、直後に予定されている日米首脳会談でトランプから2国間の自由貿易協定(FTA)の締結などを強く求められる可能性が高い。トランプから「シンゾウ、You’re fired!(おまえはクビだ!)」と宣告される安倍首相のひきつった顔が今から容易に想像できる。