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医者も食べている「がんリスクを減らして若返る」3つの食材

2018年05月16日 20時45分41秒 | Weblog
2018年2月7日 夏目幸明 :経済ジャーナリスト

医者も食べている「がんリスクを減らして若返る」3つの食材

論文を読むのが日課という「めんどくさいお医者さん」、東京大学病院・地域医療連携部の循環器専門医、稲島司先生。彼は医学的な調査、科学的な証明を論拠に「健康」を考え、逆に、論拠なき「健康イメージ」を撲滅せんとする人物だ。今回は彼自身の食習慣を教えてもらった。(経済ジャーナリスト 夏目幸明)

食事改善はまず朝食から
夕食は比較的自由でもOK

さまざまな「健康にいい食べ物」情報が世にあふれるなか、論文マニアの現役医師が伝授する「エビデンスのある食事法」とは...?

夏目 というわけで先生の提唱してる食習慣を取り入れたいんですよ。私、生活が不規則で、夜も飲みが多くて、しかも独身でしょ?なんかの調査で、独身男性は既婚男性に比べ早死にするって読んだこともあるんですよね…(※大阪大学、2007年。40~79歳の男女9万64人について、10年間にわたり婚姻状況とその後の死亡との関係を追跡調査。独身男性は既婚男性に比べて循環器疾患で3.1倍、呼吸器疾患で2.4倍、外因死〈事故や自殺〉で2.2倍の死亡率となる)。

 先生は最近、「医師が実践する 超・食事術」という本を出版されましたが、健康になれる食生活って結局、どんなもんなんでしょう?

稲島 健康的に長生きできる食事を続けると、なんと見た目の改善も期待できそうなんです。私はまず「無理せず朝食だけ変える」ことをお勧めします。食事は楽しむことも大切だから、夕食は比較的自由に、でも朝食は習慣化しやすいから改善してみましょうという提案です。そして、まず摂ってほしい食品その1は「ナッツ」なんですね。

夏目 あ、ピーナッツとか?

稲島 素晴らしい間違いです。私は以前から、ピーナッツは「ピービーンズ」と呼ぶことを推奨しています。名前に「ナッツ」とあるから紛らわしいんですが、ピーナッツはナッツではなくマメ科です。ただ、「ピー」は豆の意味らしいので、ピービーンズだと豆豆になってしまいますが…。

夏目 相変わらず細かいところにこだわりますね。

稲島 一方、ナッツは主に木の実のことで、よく見かけるものだとアーモンド、くるみ、ヘーゼルナッツなどを指します。長生きしたいなら、これを毎朝食べてほしいんですよ。ちょっと見てください。直腸癌、子宮体癌、そして星野仙一氏の訃報でも話題になった膵臓癌もリスクが減るようです。

 そしてコレステロール値も改善して、心臓病による死のリスクも減少しています。(参考論文:Public Health Nutrition2009;13,1581、JAMA Intern Med. 2015;175:755 )

血管年齢の若返りは
がん予防効果も期待できる

夏目 たかがナッツで、がんも心臓病も減るんですか!なんでなんですか?

稲島 不飽和脂肪酸といって、血液中のいわゆる善玉コレステロールを増やす要素が多い成分を多めに含んでいることが理由と考えられます。

 以前お話ししましたが、牛や豚や羊の肉など「赤肉」とか「畜肉」と言われる肉は、飽和脂肪酸、いわゆる悪玉コレステロールを増やして動脈硬化を進める要素をたくさん含んでいます。牛や豚の煮物が冷めると脂が白く固まりますよね。あくまでイメージですが、「常温で固体」のアブラが血管に多く含まれると、そこで固まって動脈硬化や心臓疾患の原因と想像してはいかがでしょう。

 一方、ナッツは固体ですが、そこに多く含まれる不飽和脂肪酸を絞り出したりすると「常温で液体」です。植物油は液体ですね。これらは善玉コレステロール値を上げて動脈硬化を防いでくれるんです。

稲島先生の最新刊「医師が実践する超・食事術」(サンクチュアリ出版)は、医学的エビデンスのある正しい食事術を紹介している

夏目 摂るアブラの種類によって、カラダに良かったり悪かったり…?。

稲島 そうなんです。善玉コレステロールというのは、ちょっとややこしいのですが…密度の高いリポタンパクに含まれるコレステロールのことで、この密度の高いリポタンパク(High density lipoprotein: HDL)が、血管の壁にへばりつくコレステロールを回収してくれるんです。そして動脈硬化が抑えられる。

 病気と老化というのは密接に関係していることは以前お話ししましたが、かなり雑に言えば「動脈硬化を防ぐ」=「血管年齢が若返る」んですね。そして不思議なことに、動脈硬化を予防する食生活と、がんを予防する食生活は、大きく共通点があるんです。そのメカニズムはいろいろ提唱されていますが、機序はさておき、実際の生活の上ではさっきお伝えした直腸癌・子宮体癌・膵臓癌を減らすということも納得できると思います。

夏目 食べなきゃ損ですね。

稲島 ですね。少し前までナッツというと「油分を含んでいるから」と敬遠する方が多かったんです。確かにカロリー量は多くなってしまう懸念はあります。しかし、これまでの臨床研究からは、「アブラは避けるものでなく、選ぶもの」と言えます。ちなみに、オリーブオイルにも同様の効果が確認されてきていて、あとアマニ油やエゴマ油にも期待が持たれています(詳しくは過去記事「マーガリンやコーヒーフレッシュはなぜ体に悪いのか」を参照)。もちろんこれらのカロリーも注意すべきですが。

チョコ×ナッツのおやつが
最強である理由

夏目 じゃあ、スーパーで売っているナッツをポリポリかじればいいんですか?

稲島 それもいいんですが、市販の加工品の場合は塩分が問題になります。また、たいていは炒ったり揚げてあるから、余計な(ナッツに含まれる以外の)油分があることも気になりますね。私は炒っていない生ナッツを水でふやかし、フードプロセッサーでペースト状にして、アスパラやブロッコリーと食べたりしています。

 料理が面倒なら、おやつの時に、例えば「カカオ95%」などと書いてある、ブラックチョコレートに近いような市販のチョコを買って、ナッツと一緒に食べる、なんてのは手軽かもしれません。ちなみにチョコレートも、英ケンブリッジ大学が11万人以上の解析によって、心臓発作や 脳卒中などの心血管病のリスクが低くなると発表しました(参考論文:BMJ 2011 ;343:d4488)。チョコとナッツ、いい組み合わせです。

夏目 フツーのチョコじゃだめなんですか?

稲島 フツーの甘いチョコも美味しいですが、たくさん摂ると糖分が多く、現代人にとって脅威でもある体重増加や糖尿病などのリスクが懸念されます。少し前から流行っている糖質制限にも逆行しますしね。カカオ95%のチョコを1日数かけとナッツ1日30グラム程度なんて、いいと思いますよ(詳しくは過去記事「糖質制限は本当に危険なのか!?」を参照)。

 これに加えて、食べてほしいのが豆類です。

夏目 豆腐とか、納豆とか?

稲島 ええ。さっき「ナッツじゃない」といったピーナッツも豆類ですね。こちらもナッツ同様、人類にとっての福音と言っていいほど健康的な食品なんです。まず、植物なのにタンパク質が多い。これは例外的な存在なんです。

夏目 肉や魚もタンパク質が多いんじゃないですか?

稲島 そうですね。確かにざっくり成分だけを見るとタンパク質が多い食材としては、豆の他に肉や魚が挙げられます。でも大事なことは、昔からよく使われるフレーズ「この成分を含んでいるからカラダに良い」ではなく、「この食品・食材を多く摂っていると病気になりにくい・なりやすい」といった直接的な証明なんです。

サプリではなく食事を見直すことが
重要である理由

稲島 先ほどナッツでも説明しましたが、不飽和脂肪酸が良いというのは説明のための理屈であって、人々の健康に資する情報は「ナッツを多く摂っている人たちに病気が少なかった」という調査結果です。そして豆類に加えて魚も多く摂ると良いことが示されてきています。私は肉が好きなので、夏目さんとも何度となく焼肉トークしてきましたが、多くの現代日本人はタンパク質を十分に摂れていますから、高齢者を除き、肉を積極的に食べた方が健康に良いということはなさそうです。

 また、大豆はホルモンに関わるがんの発症も抑えます。例えば、男性なら前立腺がんの発症リスクです。日本国内での調査でも確認されています(こちらを参照)。

夏目 なぜこういった作用があるんですか?

稲島 それが特定できないのが難しいところで、面白いところでもあります。大豆のイソフラボンやサポニンに何かいい効果があるんじゃないか、と考えられますが、それだけを抜き出して摂取しても目立った効果は期待できないようです。

 何でもそうで、以前「コーヒーをブラックで飲む方は糖尿病や肝臓がんになる割合が下がっていく」と話したことがありますよね(詳しくは過去記事「βカロテン摂取で肺がんが増える!データで読み解く食品のウソホント」を参照)。クロロゲン酸やカフェインなど、コーヒーに含まれるどの物質が有効なのか気になるところですが、動物実験や細胞実験などでは効果が出るものの、ヒトではエビデンスを言えるほどの結果は得られていません。最近の予防医学では「コーヒーにはこんな力がある、成分はともかく、それでいいじゃないか」という風潮になりつつあります。同様にナッツや大豆の「この物質が体にこう影響するから…」、というのは忘れちゃってもいいです。

夏目 医者がそんなこと言っちゃっていいんですか?テレビとかに出てくるお医者さんたちは、「○○という成分が入ってるからこれ食べましょう」みたいなこと言ってるじゃないですか。

稲島 その成分とやらが良いなら、市販のサプリは良いものだらけということになります。そう言って売ってる商品はたくさんありますが、本来はきちんと臨床試験を経て宣伝すべきです。以前お話ししたβカロテンやビタミンEは効果がないどころか、一部有害事象が多いという結果も出ています。

 病院で処方される薬は厳密な臨床試験で評価されたものが採用されることになっていますので、それを除けば、口にするのはサプリや健康食品ではなく、結局ふつうの食事が良いということを最近の研究は証明してきています。その中で今回はナッツと豆を紹介してみました。

病気予防に効く食事は
若返りにも大きな効果が!

夏目 ちなみにコーヒーも豆ですよね?

稲島 コーヒーは、「豆」とは言いますが、実はコーヒーノキになる「種子」なんです。ざっくり言うとマメ科は草(1年草)、ナッツは木の実なので、コーヒーはどちらかというとナッツに近いです。

夏目 (どうでもいい…)…で、大豆をはじめとしたマメは実際にはどう食べるのがいいんですかね。例のごとく、あんまり辛くしちゃいけないから、生のままむしゃむしゃ食べろってことですかね?

稲島 「辛い」と一言でいいますが、要は塩分の摂りすぎがよくないんです。いろんな工夫がありますが、たとえば、大豆製品の代表選手である豆腐なら、ポン酢なんていかがでしょう。茶色い醤油が入った「ポン酢醤油」の製品は塩分に加えて糖分を多く含むの商品が多いので、薄緑色の、塩分や糖分をほぼ含まない「ポン酢」を買ってきて、少量の醤油を加える方法を勧めています。

 料理が得意な方なら、ご自宅で酢や柑橘類、香辛料から作られると、なお良いと思います。大豆自体も良い効果がありそうですが、大豆を加工した豆腐を調べた調査もあって、乳がんのリスクが低下することが示唆されています。(参考論文:Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 1996 Nov;5(11):901-6.)

夏目 そういえば、稲島先生って写真を載せたいくらい肌がプルップルですよね。

稲島 ナッツや大豆やオリーブオイルや魚を食べ、塩分を取り過ぎず、もちろんタバコも吸わず…という生活をしていると、いろいろな病気のリスクが減ります。すると、肌も若さを保っていられる、とも言えそうなのです。 

夏目 以前、一卵性双生児の見た目の年齢と寿命を比べた論文がありましたよね(詳しくは過去記事「見た目年齢や歩く速度が寿命に影響!データで読み解く健康情報のウソホント」を参照)。まったく同じDNAを持っているのに、老けて見えた人は若く見えたほうより先に死んでしまう割合が高い、という内容でした。

稲島 その通りで、逆から解釈すると、長生きする確率が高い人は見た目も若く見えるわけです。だから、長生きする食事と若さを保つ食事は同じかもしれません。モテる食事になるかもしれませんね。

夏目 わかりました!長生きでモテるなら今日からやるしかないですね!でも、いきなり3食すべてをナッツやオリーブオイル、魚、大豆にするってのはちょっと辛いかな…。

稲島 そう、だから冒頭でもお伝えしたように「まずは朝食から」を試していただきたいんです。一朝一夕に若返るとは言いませんが、継続すれば、必ず目に見える効果が出てきますよ!

2018年3月9日 木原洋美 :医療ジャーナリスト

東北大が復興策に「ゲノム医療のデータ蓄積」を選んだ理由

バイオバンクで復興?
最初はピンとこなかった

写真はイメージです

 東日本大震災から7年。被災地沿岸部は依然、土木工事やら建設工事が続き、地域住民の生活再建はあまりが進んでいるようには見えない。

 人口流出への歯止めはかからず、特に被害が甚大だった南三陸町(宮城県)では、震災前の2011年2月末には1万7666人だった人口が2018年2月末には1万3207人にまで減ってしまった(データは南三陸町公式HPより)。

 このままだと、あと20年くらいで誰もいなくなる計算だ。

 そんなわけで「復興政策は大失敗だったのでは」という声も方々から聞こえてくるが、なかには着々と前進し、成果をあげている復興事業もある。

 東北大学が中心となり、東日本大震災被災地の復興に取り組むために作られた『東北大学 東北メディカル・メガバンク機構』だ。文科省・復興庁が推進する国家プロジェクトでもある。

 国家プロジェクトと聞くと、「被災地のことを何も知らない役人が、復興支援を口実に、予算を使うために企てた計画なのでは」と、疑わしく感じる人も多いだろう。

 実は筆者も、疑いの目を向けていた。

 プロジェクトの中心は、住民への長期間健康調査(血液・尿の採取あり)をもとにバイオバンクを作り、遺伝子研究等を行い、未来の医療に役立てようというものなのだが、バイオバンクがどうして復興に役立つのかが、まるでピンとこなかったからだ。

 だがある取材で、同機構の機構長、山本雅之氏の話を聞いて、認識はガラリと変わった。そもそもこのプロジェクトは、中央官庁の発案ではなく、震災直後の現場で奮闘する、医療関係者たちの思いから誕生したものだったのだ。

新幹線内で震災を知り
大量の寝具とともに帰還

 2011年3月11日、山本氏は東海道新幹線の車中で、大震災の発生を知った。大気汚染物質関連の研究が米国の学会で高く評価され、『最先端の基礎科学賞』を授与された翌々日。帰国した足で京都大学に向かい、講演を済ませた帰り道だった。

「京大を出たのは昼頃でしたが、震災の影響で新幹線はなかなか動かず、最終的に東京駅に着いたのは夜の10時過ぎでした。駅の周辺はものすごい数の帰宅難民で、あふれかえっていました。

 機中泊からの京大講演と長時間の移動でフラフラでしたが、当時、私は東北大医学部の部長兼副学長でしたので、日本橋口にある東北大の出先機関に直行しました。一息ついて、大学関係者でいっぱいの室内で雑魚寝していると、深夜になってようやく東北大と電話がつながりました。

『寒い、雪が降っています。崩壊の危険があり、建物には入れない。ものすごい被害です』

 現地の様子を聞き、もう一瞬でも早く帰りたいと思いました。気持ちはみんな一緒です。

『布団を持って帰ろう』という話になり、貸布団会社に電話して、あるだけの布団、4tトラック、運転手を借りて、翌日の土曜日の夕方に準備が整い、赤羽の倉庫を出発しました。途中、検問があり、「自衛隊か災害支援の車しか通さない」と止められましたが、「私は東北大学の医学部部長です。救援物質を積んでいます」と交渉し、その場で、1ヵ月有効の通行許可証をもらい、なんとか仙台にたどり着きました」

 倒れた電柱、ひび割れてぐにゃぐにゃになった道路、信号も照明も消えた街で、山本氏らは東北大学に設けられた3ヵ所の避難所に布団や毛布を配って回った。

被災者を長期間見守り
若手医師も惹きつける

 キャンパスも大きな被害を受けた。コンクリートの建物は全て入館禁止。体育館に避難し、雪をしのいだ。通行許可証をフル活用し、東京の拠点に全国から届いた救援物資を持ち帰り、2週間を生き延びた。

「東北大学は災害対策本部になっておりましたので、3月25日に、『さあ、これからどうしようか』という話し合いをしました。その時に出たのが、元に戻すだけでは大きく変わらないだろうと。私たちに必要なのは、元を上回るような、東北地方の発展につながるような創造的な復興だ、それをやろうという意見でした。東北大の医学部は研究に力を入れています。医学系の研究者がどういった方法で、創造的復興に貢献できるだろうかと考え、出てきたのが『メディカル・メガバンク』だったのです。

 それまでの2週間、被災地各地への医師の派遣はもとより、布団を持ち帰ったり、全国から物資を調達して配ったり、目いっぱい動いていましたが、それは一時的な支援です。

 中長期スケールの支援をするには、どういうことが望ましいのか。必死に考えました」

 東北大学の医学研究科に、世界をリードするようなライフサイエンスのイノベーションに繋がるセンターを創り、東北地方を求心力にして、創造的な復興を実現しようという方向性で、意見が固まった。

 それが「メガバンク」になったのには3つの理由があった。

「第1は、何十万人という人が津波で家をなくし、仮設住宅に入ったり、避難をしたりという未曽有の事態が起きていましたので、そういう方々の健康を、長く見守って行くような医療をやるため。

 第2は、沿岸部で6つの公立病院が流されたのですが、その際、カルテも流されてしまい、継続した診療ができなくなっておりましたので、もう2度とカルテを失くさないような医療システムを作りたいと考えたこと。

 第3は、優秀な若手医師が腰を据えて、災害からの復興に貢献してくれるような体制を作りたいと思ったことでした。

 というのも、沿岸部は、そもそも若手の医師が行かないようなところなんですね。仙台までならみんな行きたいと思うけど。やはり自分の将来のキャリアを考えると、医師としての訓練や研究ができないようなところへは行けない。

 この3つを、連立方程式を解くように考えた結果、『コホート調査』とバイオバンクを軸にする事業を行おう、ということになりました」

 ちなみにコホート調査とは、一人ひとりの体質と生活習慣・環境がいかに病気の発症と関連するかを明らかにするための研究方法の一つだ。

病人の遺伝子だけでは
どれが怪しいかは分からない

 こうして、2012年、『東北大学 東北メディカル・メガバンク機構』が誕生。翌年から、血液や尿等生体試料の採取をともなう、地域住民に対する「コホート調査」と、妊婦を中心とする「三世代コホート調査」を実施してきた。

 調査の目標人数は15万人。対象地域と定めた宮城県と岩手県の全人口のおよそ4%にあたる。バスに乗ったら1人か2人は、コホート調査に協力した人がいる計算だという。2016年11月、開始から3年半で、目標は達成された。

 さらに調査と並行して2013年11月には日本で初めて1000人分の全ゲノム解析を完了。現在は、すでに2000人以上の全ゲノムデータをもとにした情報をネット上で公開している。

 同機構が構築しようとしているのは「日本人の全ゲノムリファレンスパネル」。病気を発症した人ではなく、健康な人たちを調べた全遺伝子情報のデータベースだ。

 ある病気の原因が特定の遺伝子の変異によるものか否かを調べる場合、患者の遺伝子だけでは、どの遺伝子が怪しいのかを調べることはできない。患者と健康な人、両方の遺伝子情報を比較することで初めて見当がつく。全ゲノムリファレンスパネルは、健康状態や病気に遺伝子がどう関係しているのかを研究するための非常に有益な情報なのである。

 同機構のデータは、公開されているものとしては、質・量ともに世界トップレベル。筆者の周囲の医療関係者には「世界一」と称賛する声もあり、日本のゲノム医療に画期的な発展をもたらすことが期待されている。

「例えばがんの薬には、あるタイプの人には非常に効果があるけれど、別のタイプの人には効果がないものがあります。不思議なことではありません。人間はひとり一人が違っているからです。これからは、そうした各自の体質・遺伝子に則した医療を行う時代。我々は、メディカル・メガバンクによって、そうした未来型医療の実現に貢献したいと考えています」

 同機構のHPには以下の通り、着々と、研究成果を報告するプレスリリースがアップされている。今後もすごい勢いで増えていくだろう。

 ・2018.02.08 震災による家屋被害が生活習慣・検査データに影響を与えている可能性 ‐東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査の解析から
 ・2018.02.01 東北メディカル・メガバンク計画の三世代コホート調査‐世界初の三世代の家系情報付き出生コホート調査が7.3万人のリクルート完了。初期的な解析結果‐
 ・2017.12.28 日本人一般住民が持つ疾患の原因遺伝子の変異の頻度がわかる?
 ・2017.12.28 緑内障の個別化医療への第一歩 – 緑内障の遺伝要因と臨床的特徴の関連を同定 –
 ・2017.10.18 国立長寿医療研究センターとToMMoが共同研究契約を締結~超高齢社会における健康寿命の延伸に向けた研究を、バイオバンク間連携で~
 ・2017.10.03 日本人多層オミックス参照パネル、更に高精度に-メタボロームの解析人数がこれまでの5倍の5,093人に。年齢別の代謝物濃度分布・ネットワーク解析結果を追加-
 ・2017.09.12 肥満に影響する遺伝マーカーを解明 ~日本人17万人の解析により肥満に関わる病気や細胞を同定~

日本では同機構だけ
個別化医療・予防の取り組み

 いいことだらけに見えるメガバンク事業だが、「莫大な復興資金を費やすなら、まずは病院再建等にお金をかけるべきではないか」「判断能力のない子どもの遺伝子を検査するのは人権上問題がある」「ゲノムと病歴という重大な個人情報を取り扱うためのセキュリティは万全なのか」など、法整備や倫理、セキュリティについての問題を指摘し、不安視する声もある。

 そこは注意深く、真摯に取り組まなくてはならない。

 

 ただ、リスクはあるとしても、補って余りある可能性が同機構の事業にはある。プロジェクトの未来に見えている個別化医療も個別化予防も新しい医療であり、日本で本格的に取り組んでいるのは同機構だけ。創造的復興策として、世界に誇れるプロジェクトだ。

(医療ジャーナリスト 木原洋美)

2018年4月2日 仲正昌樹 :金沢大学法学類教授

医薬の臨床データ不正を防ぐ新法施行に早くも「抜け穴」の懸念

 神戸製鋼所や東レ、日産自動車、スバルなど、日本を代表する大手メーカーで品質や試験データの改ざんが行われ、森友問題での財務省の公文書改ざんまでが明らかになった。「日本」に対する信用が根底から揺らぎそうな様相だが、人の命に直接、関わる医療や医薬品業界でも、2013年3月に、ノバルティスファーマ社の高血圧治療薬ディオバンのデータ改ざん・捏造が発覚して、大きな話題になった。

 その教訓から医薬品の臨床研究を規制する「臨床研究法」が4月から施行されるが、いくつかの「抜け穴」が早くも懸念される。

相次ぐデータ改ざんの背景
近視眼性と蛸壺的体質が共通

 ノバルティス事件では、製薬会社・ノバルティスの都合のいいように、京都府立医科大や東京慈恵会医科大での臨床研究のデータが操作されていたことが発覚した。

 ほかにも研究を担当した教授等の論文に実験画像の捏造など多数の不正があったこと、ノバルティスの社員が社員であることを隠して、統計解析スタッフとして参加していたことが明らかになった。

 製薬業界では、翌14年にも、武田製薬の降圧剤ブロプレスについて、データ改ざんとそれに基づく誇大広告が発覚。昨年4月にも、バイエル社の経口抗凝固薬イグザレルトに関して、製薬会社の社員による患者のカルテの不正閲覧とその“データ”に基づく医学論文の代筆などの問題が報道された。

 ライバル会社の先を越して、治験をクリアし商品化して利益を上げたい製薬会社と、研究費を獲得して“すぐれた成果”をあげたい研究者のそれぞれの思惑が重なって、健康や人命という最も大事なことが後ろに回される。

 これらの問題の背景には、自らが属する組織が当面取り組んでいる業務で“成果”を挙げることしか考えられなくなる近視眼性や、違う職場で働く同僚の過ちに気づいても見て見ぬふりをし、場合によっては“組織を守る”ため間接的に隠蔽に加担してしまう蛸壺的な体質があると思われる。

 このことは、大手メーカーの品質データなどの改ざんや財務省の公文書書き換えでも共通するように思う。

 ただ、さらに言えば、治療の基礎になる研究成果の捏造は、多くの被害者を生み出す危険がある。しかも、被害と思われる事例が報告されても、当該医薬品の副作用によるのか、病気自体に起因するのか判定しにくいことが多い。

 それを分かっている“プロ”が不正に手を染めるのは、かなり悪質と言える。

臨床研究法、4月施行
資金提供の情報公開などを規定

 こうした事態を受け、医薬品の臨床研究を規制する「臨床研究法」が昨年4月に制定され、今年4月から施行される。

 法律の第1条では、臨床研究の実施の手続きを定め、資金提供等に関する情報公開の制度を作ることで、被験者を始め国民一般の臨床研究に対する信頼を確保することが目的として謳われている。

 その中で、製薬会社から資金提供を受けたり、未承認の医薬品を研究したりする「特定臨床研究」の場合は、「実施計画」を厚生労働大臣に提出したうえで、「認定臨床研究審査委員会」に実施状況を報告して審査を受け、その意見を尊重しながら進めることが義務付けられた。

 さらに19条では、研究による健康被害の発生が予想される場合、厚生労働大臣が中止を命じるなど、必要な措置を取ることができると規定される。違反すれば、懲役刑を含む刑事罰が科せられることもある(19条違反の場合は、三年以下の懲役もしくは三百万円以下の罰金)。

 これまでも薬機法で臨床試験に関する製薬会社の義務は規定されていたし、「臨床研究に関する倫理指針」をはじめ、人の生命に関わる研究については各種の指針が定められていたが、臨床研究のやり方を罰則込みで直接的に規制する法律はなかった。

 臨床研究法は、製薬会社と研究機関が臨床研究をめぐって本来は「利益相反関係」にあることを明確にし、それゆえに製薬会社による恣意的な介入を防ぐことに主眼があると見られる。

「利益相反」というのは、こういうことだ。

 大学病院など研究機関で行われる臨床試験は、製薬会社が生産しようとする医薬品の有効性や副作用を厳密に検証して安全性を確保し、臨床研究の対象者や潜在的な利用者である国民一般の利益に寄与することを本来の目的としているはずだ。

 しかし、研究を、当事者である製薬会社から資金提供を受けて行うと、研究費を継続的に得るため、患者よりも企業にとって都合の良い“結果”を出したくなる。そこに利益相反が生じるわけだ。

 どの業種でも新製品の開発には相当の人手と時間をかけるので、少々の欠陥には目を瞑って早く商品化したいと思う。製薬会社の場合、そこに薬機法に基づく新薬の承認や外部の研究機関による検証というさらなるハードルが加わる。

 ライバル会社より少しでも早く治験をクリアできるかに社運がかかってくるので、データ捏造への誘惑が生じやすい。半面、その分野の権威が在籍する有力な大学病院が事情を察して“黙認”してくれれば、不正は判明しにくい。

 薬が本当に効いているかどうか素人にはなかなか分からない。この点は、製品の品質がある程度素人である使用者にも分かる自動車などと違うところだ。

 他方、企業から研究費を獲得して“すぐれた成果”をあげたい研究者の側にも捏造への動機が働く。双方の思惑が一致すると、ノバルティスのような大問題に発展することになるわけだ。

いくつかの「抜け穴」
対象になる研究の範囲が曖昧

 しかし、臨床研究法にはいくつかの「抜け穴」があり、またこの法律ではカバーされていない臨床研究上の問題がある。

 具体的に言えば、次のようなことだ。

 法律では、「特定臨床研究」の第一の定義として、「医薬品等製造販売業者及びその特殊関係者」によって「資金等」を提供された研究であることを挙げているが、この「特殊関係者」というのが、曖昧なことだ。

 この規定では、せいぜい子会社までしか含まないと解される可能性がある。

 従って、製薬会社が財団などを設立して、その財団から迂回する形で資金提供をしたり、あるいは、目的を特定しない「奨学寄附金」といった形で資金提供したりする場合、「特定臨床研究」と見なされず、規制の対象外となるかもしれない。

 法律では、「特定臨床研究」以外の一般的な臨床研究に関する記述もあるが、この研究については、厚労省の定める「臨床研究実施基準」に従って実施すべく努めるとする努力義務しか課されていない。

「特定臨床研究」の第二の定義で、未承認の医薬品は、製薬会社の直接の資金提供がなくても、「特定臨床研究」と見なされる。

 だが既に承認され、一般的に使用されている既成の医薬品については規制がない。

 既成のものは安全性が一応、確認されているからと、臨床試験を厳密に実施しなくてもいいというわけにはいかないはずだ。その薬の効果を他のものと比較したり、副作用の程度を測ったりすることが必要になることもある。 武田製薬やバイエル社の例がまさにこれに当たる。

 ほかにも「臨床研究法」は、規制の対象として想定していないものがある。

 経験のほとんどない医師が腹腔鏡手術を試みて患者を死亡させた、2002年の慈恵医大青戸病院事件のように、医師が先端医療の技術を身に付けるため独自に行う臨床研究もある。

 手術でなくても、抗がん剤のような重大な副作用を伴う薬品を使用する場合、未経験の医師が実施すると、“危険な人体実験”になってしまう。

 こうしたケースでは、被害の範囲は限定されるものの、(ほとんどの場合、医師の技能については十分なインフォームドコンセントもなく)被験者にされる個々の患者の被るリスクは極めて高い。

 さらに言えば寄附講座のような形で、針灸、温熱療法、ハーブ療法、食事療法、アロマセラピーなど、必ずしも医薬品としての承認を目指しているわけでもない、「補完代替医療」の臨床研究を行っている場合も、法的規制から外れる可能性がある。

「補完代替医療」を取り入れることは、いろんな方法を試してみたいという患者の個別のニーズに応えていると見ることもでき、現在でも金沢大や阪大、徳島大など、いくつかの大学で行われている。

 だが一方で、大学病院の権威を使って、効果の不確かなものを患者に売りつけることに加担することになる恐れがある。

 国から認定された研究機関でもある大学病院が、そうした医薬品なのか、単なる健康商品なのかさえ曖昧なものを扱う領域に手を出していいのか、何らかのガイドラインが必要ではないか。

 こうした疑問はかねてから提起されているが、厚労省は本格的にこの問題に手を付けてない。

監視の審査会、機能するか
委員を身内で固める懸念

「特定臨床研究」では、監視体制についても問題がある。

「特定臨床研究」を監視する「認定臨床研究審査委員会」がきちんと機能するのか、あてにならない心配がある。

 審査委員会は厚労省が「認定」することになっているが、設置主体は臨床研究を行っている大学医学部などの研究機関であり、委員もそこが任命する。

 この委員にはどういう人が選ばれるのか。大学医学部などの都合のいい人選が行われる恐れはないのか。

 たまたま私自身も、この問題を考えさせられる経験をした。

 私の勤務する金沢大学には、認定臨床研究審査委員会の他に、一般の臨床研究を扱う医学倫理審査委員会がある。委員会のメンバーの専門分野や所属部局、運営の仕方などは、臨床研究審査委員会とほぼ同じだ。

 最近、私は法学系の責任者から、医学倫理審査委員会の委員を引き受けてくれないかと打診を受けたので、承諾した。

 ところがその直後、医薬保健研究域の責任者や事務部は私が委員になることを拒んだので、推薦を見送りたいとの連絡を受けたのだ。

 学内業務の負担が増えなかったので内心、ほっとしたが、一方で、腑に落ちないので、医薬保健学類に理由を問い合わせたが、回答はなかった。

 しかし、どういうことか大よその推測はつく。

 というのは、98年に、金沢大医学部(当時)の産婦人科で、卵巣がんの(承認済みの)抗がん剤の比較臨床試験を患者の同意を取らずに行っていたことが、同婦人科に勤める医師の内部告発で明らかになり、私は当時、その医師たちに協力して事件の概要と法的問題点を調べ、書籍にして出版したことがあったからだ。

 この問題は、患者の遺族が訴訟を起こした。この臨床試験は、抗がん剤の副作用で減少する白血球を回復させるためのノイトロジンという中外製薬の薬の市販後臨床試験とセットになっていたと思われる。

 既に末期癌の段階だったので、臨床試験と死亡との因果関係ははっきりしていないが、既に承認ずみで保険適用の薬なので、臨床試験であることを告げる必要はないとする病院側に対し、遺族側は、承認薬であるか否かにかかわらず、臨床試験を製薬会社と連携しながら計画的に行う以上、そのことを告げる義務があると主張した。

 この裁判で、金沢地裁は、臨床試験であることを告げずに症例登録を行うことは患者の人格権の侵害に当たるとして、大学と国に損害賠償を命じた。高裁の判決では、賠償額は減額されたが、人格権に関する基本線は維持された。

 今回の委員任命の件では、病院事務部が、そのことを根に持つ医学系教授等の意向を「忖度」したものと思われる。

 金沢大ではその後も、2010年に骨肉腫に対する治療で抗がん剤にカフェインを併用する療法を、国の定める指針に違反するずさんなやり方で実施して、患者が死亡し、整形外科教授等が書類送検される事件が起こっている。産婦人科の抗がん剤の臨床試験問題の教訓が全く生かされていないと言わざるを得ない。

 こうしたことが繰り返されてきたにもかかわらず、“無害な人”だけで委員会を構成しようとするのは、いかに閉鎖的、組織を守ることが優先される志向が根強いかを感じざるを得ない。

 果たしてこういう体質の大学病院の「認定臨床研究審査委員会」がきちんと機能するだろうか? 臨床試験を適切にコントロールすることができるだろうか?

 臨床試験を本格的に監査し、安全性を確保するつもりがあるのなら、少なくとも個別の研究機関とは独立の、立ち入り監査の権限を持った審査・監督機関を設置することが検討されるべきだろう。

(金沢大学法学類教授 仲正昌樹)

2018年4月3日 木原洋美 :医療ジャーナリスト

突然死を招く「高血圧」の真実、普段元気な人が危ない!?

写真はイメージです

年齢が50~60歳にもなれば、脳卒中や心臓病で突然死してしまうリスクが高くなる。特に高血圧の人はそのリスクが高い。普段は元気だからと言って油断ならない。その実態や予防法などについて、常喜医院院長・慈恵医大新橋健診センター非常勤診療医長の常喜眞理医師に聞いた。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

意外なことに高血圧患者は
上250下150でも元気ハツラツ

 今年2月、66歳で亡くなった俳優・大杉漣氏の死因は急性心不全。急性心不全は病名だと思っている人が少なくないが、実は病名ではなく、心臓の働きが「急激に低下」することによって不十分となり、結果起きた体の状態のことを指す。

 原因として最も多いのは突発的に発症する急性心筋梗塞などの虚血性心疾患で、これらの疾患を引き起こす最大の危険因子が心臓に余分な負担がかかる「高血圧症」である。

 大杉氏が亡くなった詳しい経緯は公表されていないが、訃報を耳にした人たちは皆、「自前のサッカーチームで、還暦超えても月2回はプレーするほど元気だった人がなぜ」と驚いたのではないだろうか。

 だが、仮に高血圧が絡んでいたとしたら、基本的に自覚症状はないので、前兆を感じなかったことに不思議はない。悪化すると動悸や頭痛、めまいはあるようだが、血圧との直接の因果関係を判断することはできない。

 それどころか、「高血圧の人ほど元気です。元気と血管リスクは逆ですよ」と警鐘を鳴らすのは、「家庭医」として自らのクリニックで日々患者たちの健康管理に取り組み、かつ慈恵医大新橋健診センターの診療医長として、日常的に大勢の健康診断(人間ドック)に関わっている常喜眞理医師だ。

 常喜医師は言う。

常喜医院院長の常喜眞理医師

「この間も50歳の男性で、血圧が上は250の下が150もあるのに、非常に元気な方がおられました。自覚症状が全然ないとのことでしたが治療に取り組んでいただき、2ヵ月目には180の120ぐらいに下がったんですけどね。『先生、俺低血圧なんじゃないでしょうか。立ちくらみがする』って(笑)。『お願いですから、もうちょっと下げましょう』と伝えました。

 高血圧の方は、低血圧より元気があるんですね。

 この患者さんも、放置していたら近い将来、心筋梗塞や脳卒中でいつ突然死しても不思議じゃない状態だったので『ふらふらして元気がなくなっても、死ななかっただけよかったんですよ』と言ったんですけど。『自分はまだすごく元気で、小学生に野球を教えてあげて、走り回ってもぜんぜん大丈夫です』っておっしゃる。

『ぷっつり逝くからいいんです』と、元気な高血圧患者さんたちは皆さん言うんですが、そう上手くぷっつり逝ける人は少ないですからね。潔いのもいいですが、気を付けてほしいです」

「朝は低血圧」は間違い
実は一番高くなる

 男性の場合、血管年齢は女性よりも10歳老けていると言われている。

 女性の場合は、血中のコレステロールを制御し、血管をしなやかに保つ役割を持つ女性ホルモンによって守られているが、男性はそうではないからだ。よって男性は、実年齢が50歳なら血管は60歳のつもりで、大切にメンテナンスするのが望ましい。

 また、女性でも、女性ホルモンの量が低下する50代になったら、血管の劣化に気を付けなくてはならない。10代の頃からずうっと低血圧だった女性でも、50代になって閉経した途端、高血圧になる人は少なくない。

「男性も女性も、50代にもなると加齢によって血管は硬く、詰まりやすくなります。50年使った水道管を想像してみてください。この状態で高血圧を放置することは極めて危険です。脳卒中、心不全、腎障害、動脈瘤など、いずれも高血圧が原因で起こります」

 常喜医師のお勧めは、男性も女性も、50代になったら家庭に血圧計を備え、日常的にチェックすることだ。

「家庭で血圧を測るベストのタイミングは、起床直後です。起床して、排尿を済ませた直後に、椅子に座って測定しましょう。朝起きてすぐというと、頭がぼんやりしていて血圧も低そうですが、実は安静状態に限って言えば、この時間帯が一日のうちで一番血圧が高くなります」

 ということは、この時点で、血圧が基準値である上135の下85の範囲内に収まっていれば、一安心というわけだ。

 ちなみに血圧は生きている限り、刻一刻と変化する。深呼吸を一つするだけで、上の血圧が10ぐらい下がるのは当たり前。逆に、前日に飲み過ぎた場合や塩分摂取量が多かった時、寝不足や体調不良でも上がるという。

起床時の口腔内菌数は大便と一緒
心筋梗塞や脳梗塞と歯周病の関係

 この10年ぐらいの間に知られるようになった事柄に、心筋梗塞、脳梗塞等の血管病と、歯周病の関係がある。

 通常、歯周病と聞くと、イコール歯槽膿漏と思われがちだが、ことは口の中だけでは納まらず、歯周病菌は体中で悪さをしていることが分ってきた。

 心筋梗塞も、脳梗塞も、糖尿病も、どうやら歯周病菌が血管に炎症を起こすことが、原因の一つになっているようなのだ。

「歯周病菌が口腔内の血管に入り込むことで、全身を駆け巡る際、血管に炎症を起こし、血流を詰まらせて、これらの疾患を生じさせてしまうのです」

 常喜医師にも、忘れられない出来事があった。

「私が勤めていた病院に、若い男性の患者さんがくも膜下出血で搬送されてきたことがありました。その時は原因不明だったのですが、のちに、発症前に抜歯をしていたことが分りました。その方は、抜歯後に処方された抗生物質をきちんと飲まず、熱が出てもかぜと思って放置していたようなのです。

 結果、歯周病菌が原因と思われる細菌性の脳動脈瘤ができて、破裂してしまったというわけです」

 歯周病は、30代を過ぎたあたりから増え始め、高齢者はほぼ100%、歯周病持ちになる。50代、60代ともなれば、加齢の影響で唾液の分泌量が減り、口腔内の自浄能力も低下、歯周病菌が繁殖しやすくなるからだ。

「お休み前のケアは、特に念入りにしていただきたいですね。それでも起床時の口腔内の菌数は、大便とほぼ同じくらいの量と言われています。びっくりですよね。起床直後も口をよくすすぎ、軽く歯磨きすることを心がけてください」

最善の対策は
ホームドクターの確保

 高血圧の予防・改善には、減塩と適正体重の維持を心がけ、腎臓を守ることが重要。もちろん、運動、快適な睡眠も欠かせない。加えて、口腔内のケアに努め、歯周病を予防することも大切…ということは分ったが、常喜医師の一番のお勧め対策は、40代ぐらいのうちに、気の合うホームドクター(家庭医/かかりつけ医)を見つけることだ。

「早いうちに、ホームドクターを見つけて、高血圧はもちろん、今後の体調管理やがん検診などの相談相手になってもらうとよいでしょう」

 極めてポピュラーな疾患である高血圧でさえ、あまり周知されていない知識がある。がん等はさらに分からない。健康に気を付けているはずの著名人が、手遅れで亡くなってしまったニュースを知ると、自分は大丈夫だろうかと心配になる人は多いはず。

「たとえば背中に痛みを感じたとします。みなさん、どの医者に診てもらいますか。大変な病気かもと心配し、大きい病院の内科や整形外科を受診するでしょうか。とにかく、いくつもの科を受診しないと安心できませんよね。そんなとき、信頼できるホームドクターがいれば、自分の専門や、看板に掲げている診療科目を超えて、診断から治療方法まで、一緒に考えてくれます。自分のクリニックで手におえない場合は、大学病院等も紹介してもらえます。

 職場や自治体の健診を受けて、要注意項目が出た場合も、検査結果を持って相談してみてはいかがでしょう。体質や生活習慣など、あなたをトータルな視点で診て、より突っ込んだ改善策を考えてくれるはずです」

 確かに、そんな頼れる医師が身近にいたら、相当安心だ。長く住み続けている住民が多い地域では、親子3代に渡って子どもの頃から診てもらっているクリニックがある人は少なくないので、そういう患者がいるクリニックに行ってみるのもお勧めだ。

 新しいところを開拓したいのなら、インターネットを活用しよう。今やたいがいのクリニックはホームページを開設しており、院長の考え方や姿勢が書いてある。ホームドクターになりたい旨もアピールしている医師は多い。参考にして、元気なうちに、ホームドクターを見つけよう。

◎常喜眞理(じょうき・まり)
常喜医院院長、慈恵医大新橋健診センター非常勤診療医長、日本医師会認定産業医。1963年生まれ 東京慈恵会医科大学卒業。消化器内視鏡学会専門医・指導医、 消化器病学会専門医、内科学会認定医。著書:『マリ先生の健康教室 オトナ女子 あばれるカラダとのつきあい方』(すばる舎/2018)
 
2018年3月16日 王青 :日中福祉プランニング代表

中国医療の過酷な現実、エリート中間層でも一寸先は医療費破産

写真はイメージです

中国のSNSで爆発的に拡散した投稿がある。北京在住の中年男性が投稿した家族の闘病記である。なぜ、その投稿が多くの中国人の共感を呼んだのか。経済が発展し、人々が豊かになった今でも、中国の医療や社会保障の状況は厳しく、中間層の立場は脆弱であるという「現実」を象徴していたからだ。(日中福祉プランニング代表 王青)

中国のネットで拡散した
「家族の死」に関する投稿

 先月、中国のSNSでは、ある投稿が燎原の火のように拡散した。閲覧数はうなぎのぼりに上がり、シェアの連続とおびただしいコメントの数。

 その投稿者は北京在住の中年男性だった。

 今年1月に義理の父が、風邪を患って、病院を受診したが、病状が一向に改善せずに悪化したため、病院を転々とした。

 最後にはICU(集中治療室)に入れられて、ECMO(体外式膜型人工肺)の使用に伴う大量の輸血、そして全身チューブ管だらけとなって、生死をさまよったあげくこの世を去った。

 投稿は29日間に渡る病との凄絶な戦い、病院への奔走、医師との会話、病院内の人間模様、お金の工面などを日記のように詳細に記録したもので、文字数は2万6000字にも及んだ。

 多くの人がそれを読み、その内容に自分自身を当てはめ、「自分がそうなったら、どうなるのだろう」と想像した。似たような経験を持つ人もいろいろな思いが湧き上がってきて、それらはコメントとして折り重なっていった。

 その投稿の内容をかいつまんで説明すれば、下記のような状況であった。

 義理の父がICUに入っている数日間は、毎日の入院費と治療費は2万元(約32万円)かかり、長期入院となれば、手持ちの現金財産では1ヵ月しか持たないとの計算になった。その他、輸血用の血液を闇で高額なお金を支払って入手したほか、入院や薬の円滑な調達のためのコネ、お世話になった人々への「謝礼」など、想定外の出費が多かった。

 「過剰な延命治療」という問題も取り上げられていた。

 義理の父は、全身をスパゲッティのように管で埋め尽くされ、傷から血を流しながら最後の数日を過ごしたという。これらの医療行為には患者本人の意志を確認するプロセスがなく、家族は助けたい一心で、医師に提案されるままに受け入れるしかなかった。

 結局、散財したあげく、身内の命とお金の両方を失ってしまった。そして、患者は苦痛から開放されず、患者の尊厳には一瞥も与えられなかった。

投稿者は裕福なエリート中間層だったが
一瞬にして家計は破綻しかかった

 この投稿は、なぜそこまで多くの人々の共感を呼び、大きな反響があったのか。

 その理由は明らかだ。多くの中国人にとって、その中年男性が直面した「現実」が他人事ではなかったからである。

 将来自分が突然、その「中年男性」と同じ身となったら、「果たして彼のようにできるのか」と誰もが自問自答し、多くの中国人は自分自身の不安定な境遇を悟り、凍りついた。

 実は、冒頭の投稿者である中年男性は、中国ではかなり恵まれた存在だった。

 高学歴で金融関係の仕事をし、これまで本人の努力で事業にも成功して一財産を築いてきた人である。マイホームやマイカーを持ち、金融資産があり、一般の人より裕福な生活をしている、典型的なエリート中間層のビジネスマンである。

 また、途轍もなく高い治療費を支える経済力に加え、良い病院と良い医師の情報を取得でき、入院できるコネもあり、献血してくれる友人たち、さまざまな場面で奔走してくれる多数の親戚たち、セカンドオピニオンを提示してくれる友人の医師などもいた。

 それにもかかわらず、家族の1人が病気となった途端、一瞬にして家計が破綻しかかった。その実態を見て、「中間層の現実はなんと脆弱であろう」と、読者は深いため息を漏らし、嘆いたのだ。

大病院には患者が殺到
多額な医療費負担という現実

 最近の中国の経済発展は目覚ましい。生活は豊かになった。しかし、医療や社会保障の面を見ると、まだまだ厳しい現実がある。

 まず、都会と地方の医療格差が大きい。そのため地方の人々が都会の病院へ殺到し、都会の大病院は、いつも人でごった返し大変混雑している(ただでさえ、経験豊かな医師が多く、最新設備が整っている都会の大病院は患者が殺到しがちである)。医師が1日平均80人の患者を診察しているとの統計もある。巷では「待つ3時間、診察3分間」言われていて、これは中国では「常識」だ。

 医師は電子カルテを見るだけで、患者の顔をまともに見ない、話をゆっくり聞かないのが当たり前。「後ろがいっぱい待っているから仕方がない」と言われて、もうそれまでだ。患者と医師の間でコミュニケーションが取れるのは、コネを通じての紹介か、運よく人柄の良い医師に当たった場合に限られる、といった具合だ。

 医療費の負担も大きい。

 中国では、国民皆保険である日本の医療保険の仕組みとは違って、患者の年齢、退職した年、受診する病院の種類により、自己負担率が違ってくる。

 保険対象外の薬や手術時の医療器具など、医療保険ではカバーできない項目が非常に多い。言い換えれば、お金がなければきちんとした治療を受けることができず、最終的には「死を待つ」しかないという厳しい現実がある。

医師と患者の関係は「険悪」
ヘルメットを被って勤務する医師も

 病院と医薬品関連業者の癒着も度々指摘されている。

 病院側がなるべく高い薬や、輸入ものの医療用品を患者に勧めるのは日常茶飯事だ。実際に昨年、筆者が出張先の上海で腕を骨折をしてしまった際には、上海の病院では「これはもう手術だ。輸入の人工骨がお勧めですよ」と言われた。翌日、慌てて日本に戻り病院へ駆け込んだら、「手術する必要はない。保存療法で治せます」とのことだった。

 このように、医師から充分な説明をしてもらえないまま、お金ばかり取られる患者は、病院との間に「信頼」関係を築くどころか、「険悪」関係に陥っている。

 診察室に入るまで長時間待ったあげく、医師とのやりとりでは言葉に気をつけながら、頭も下げる。その上、手術となった場合、執刀医や看護師たちにお金を包むケースは当たり前だ。

 その結果、病気が治らないとなれば、怒りと失望はすべて病院や医師にぶつけられる。

 ここ数年、病院を破壊したり、医師に暴力を振るったりする事件が後を絶たない。数人の医師が命を落とす事態まで発生している。日本では考えられないかもしれないが、数年前にある病院の院長室が窓や机など鉄の棒で叩き壊され、院長自身も大怪我を負った事件があった。

 また、ある病院では医師と看護師がヘルメットを被って勤務していたことが中国で大きな話題となった。襲われた病院には警察が駐在することも報道された。国はこのような事態を何とか改善しようと動き出して、メディアを通じて「救死扶傷(命を救い負傷者を助ける)は医師の使命であり、患者第一に思う医師が大多数で、彼らは我々の天使だ」と大々的に訴える。

 ある医師が手術台に十数時間も立ち続けて、疲労で倒れたのをたたえる内容のドラマまで、わざわざ作られ放送された。

「医者も人間だ、お互いに理解し合おう」と主張しつつ政府は、必死に「医患(医者と患者)関係」を良くしょうとする。そしてついに、政府は正式に今年から毎年の8月19日を「中国医師の日」として設定すると発表。「聖賢を尊重するように医師を尊重しましょう」と呼びかけた。

 中国では、かつて医師は人が羨む職業の一つであった。

 だが、大学進学試験の首席が医学部に進む時代は、今はもう過去の話となっている。「きつい、責任重大、理解されない、リスク大きい」というのが現在の医師の境遇だからだ。いつから医師はこのように弱い立場に、そして命の危険を感じる羽目になったのか。ある統計では8割の現役医師が自分の子どもを医学部に行かせない、という結果が出ている。

医師の友人は作っても
子どもは医師にしたくないという矛盾

 経済が発展し、人々が豊かになった今でも、個人のセーフティネットは置き去りとなっている現実。

 社会保障制度が追い付かない状況下で、「結局、幸せは何らかの不意なことで砂の器のように崩れていくこともあるのだ」と人々は悟った。

 これまで思っていても口に出さなかったさまざまな問題に関して、この実録日記の記事は改めて警鐘を鳴らす存在となって現れた。そして、将来に対して常に不安の気持ちを内面に押し込めていたものが、爆発したように表面化し、投稿が大きな反響を呼んだのだろう。

 投稿した男性は最後に、今回のことを教訓に、自分に言い聞かせるように、次のようにアドバイスをしていた。

「医者の友達を作ろう、お金を稼ごう、子どもに医学の勉強させない」

 中国の病院では長い列を作って受診する。あまりに長く待たされるからその不満を医師にぶつける。医師が身の安全に危険を感じる、そして自分の子どもに医師の道を選ばせない。そうすると、医師は人手不足になる、病院での待つ時間がより長くなる、不満がさらに高まる……このような悪循環が続く。

「中年男性」が医師の友達を作ろうとしながらも、子どもには「医師になってほしくない」という矛盾。

 こうした数多くの矛盾、理不尽を抱え込みながら、中国は経済発展してきた。そして経済一辺倒から、国民の生活や心の豊かさを優先した社会に舵を切る時代に突入しつつある。

 

 


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