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社会保障を人質に理屈なき消費税増税を狙う 消費税の社会保障目的税化は本当に正しいか

2011年01月27日 00時51分59秒 | Weblog
週刊ダイヤモンド「高橋洋一の俗論を撃つ!」
【第6回】 2011年1月27日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]

社会保障を人質に理屈なき消費税増税を狙う消費税の社会保障目的税化は本当に正しいか

菅直人政権は「社会保障と税の一体改革」を進めている。

 施政方針演説で6月までに改革案をつくりたいとし、与謝野馨経済財政担当相や藤井裕久官房副長官は消費税率引き上げに向けて、社会保障目的税にして2011年度中(来年3月まで)の法整備を目指し、仙谷由人前官房長官は消費税率引き上げを急ぐべきだと、それぞれ消費税増税に前のめりになっている。改造内閣の増税オールスターズは全開だ。

税方式と社会保険方式の違いを理解していない民主党

 それぞれ、消費税増税を年金など社会保障の財源にあてると言っている。逆にいえば財政赤字の補填に使うのではないと。しかし、その話は注意しなければいけない。カネに色はついていないので、どこに使うというロジックはもともと怪しい。

 もし本当に社会保障に使うのであれば、税率と社会保障給付水準はリンクしていないとおかしい。税率を上げればその分、社会保障給付水準が上がるはずだが、はたしてそうであろうか。さらに、財政赤字に使うのでないなら、財政再建は放置するのか、放置しないならどのような方策を講じるのかを明らかにしなければいけない。

 社会保障は、助け合いの精神による所得の再分配が基本であり、そのために国民の理解と納得が重要だ。というわけで、給付と負担に関係が明確な社会保険方式で運営されている国が多い。民主党マニフェストでは最低保障年金は税法式と書かれていたが、各人の保険料納付記録を持つ保険方式とそれがない税方式では、給付と負担の関係などで水と油ほどの制度の差がある。

 しばしば、現行制度の社会保険料方式でも税が投入されているので、税方式はその割合を高めることだという閣僚もいるが、そうではない。この点を民主党政権は十分に理解していない。しかも社会保険方式から税方式へ移行した先進国はない。移行にコストと時間がかかるにもかかわらず、そのメリットは少ないからだ。また、日本で社会保険方式を踏襲するなら、税財源のさらなる投入は給付と負担の関係を不明確にして、ますます社会保障への信頼を失いかねない。

年間も厚労省に無視され続けた社会保障個人勘定構想

 消えた年金問題を契機として、年金記録が整備され、年金定期便なども実施され、個人レベルでの給付と負担が明確になりつつある。

 消えた年金問題は民主党のヒットであったが、実は政府内でもかなり前から意識されていた。そこで、年金不信の払拭という大義名分で、経済財政諮問会議でも社会保障個人勘定の創設が議論されていた。個人勘定という新しいシステムを導入して、その中で、年金記録問題も解決しようというアイデアであった。

 2001年、最初の「骨太の方針」で、「IT の活用により、社会保障番号制導入とあわせ、個人レベルで社会保障の給付と負担が分かるように情報提供を行う仕組みとして「社会保障個人会計(仮称)」の構築に向けて検討を進める。」と書かれている。

 当時の報道を見ると、個人単位で給付と負担の関係を明確化するために、社会保障個人勘定が創設されるとされているが、当時の坂口厚労相は「損得勘定を助長する」と反論していた。表面的には年金記録問題が議論されていなかったが、現実問題としては、年金記録問題はそれ以前にも政府内から指摘されながら、それまで問題として顕在化しなかったので、当時もあえて寝た子を起こさないということで、社会保障個人勘定は厚労省の拒否で日の目を見なかった。

 しかし、その後の“骨太”でも何度も提言された。

 骨太2002「国民に広がる年金不信を払拭するため、個人個人の年金に関する情報提供がきちんと行われる仕組みを作り、わかりやすい年金制度とするとともに、年金をはじめとする社会保険実務の効率化を進める」

 骨太2003「「社会保障個人会計(仮称)」の導入に向けて検討を進める」

 骨太2004「社会保障制度を国民にとって分かりやすいものとするとともに、個々人に対する給付と負担についての情報開示・情報提供を徹底する」

 骨太2006「社会保障個人会計(仮称)について、個々人に対する給付と負担についての情報提供を通じ、制度を国民にとって分かりやすいものとする観点から、検討を行う」

 骨太2007「社会保障の情報化を進め、国民が自らの給付と負担の情報等を容易に入手・管理できる仕組みの導入を目指す」

 実に6年間も、社会保障個人勘定構想は、厚労省に無視され続けてきた。

フリードマンが提唱した「負の所得税」とは

 この構想では、年金記録問題の解決は単なる副産物であって、「社会保障と税の統合化」という世界的な流れが背景にあった。そのルーツは、なんと 45年前、ミルトン・フリードマンが提唱した「負の所得税」である。フリードマンというと「新自由主義」で、社会保障などにはまったく関心を払わなかった人のように誤解する者が多いが、実は社会保障関係でも先進的なアイデアを出していたのだ。

 つまり、所得税と公的扶助制度を組み合わせて、課税前所得が課税最低限を下回る者に対しては、その差額の一定割合だけマイナスの所得税すなわち給付を行うというフレームワークだ。ただ、所得ゼロの者でもかなりの給付金を受けられることとなるので、実現しなかった。

 1975年、米国は、低所得層による労働供給を促進させるとともに、低所得層に関わる社会保障税の負担を軽減するため、勤労所得税額控除 (Earned Income Tax Credit : EITC)を導入した。この制度は、職に就くことを税額控除のための必要条件としており、最も所得が低い層では、所得が増加するほど控除額(給付金)が増加するが、所得が一定水準を超えると控除額(給付金)が徐々に減少するような制度設計がなされている。ただし、控除額(給付金)と所得を合計した手取り額は増加するようになっている(図参照)。1997年、米国は子どもの人数に応じた税額控除としてCTC(Child Tax Credit)も導入した。
 (参照図省略)
これらは「給付付き税額控除」制度といわれ、税額控除という方法で算出した非納税者等に対する給付を、所得税制に組み込んだ枠組みである。

「給付付き税額控除制度」のメリットは、第1に、社会保障制度と税額控除(減税・給付金)とを組み合わせる結果、個人が社会保障給付を得るために労働供給を抑制するという非効率性がなくなることがあげられる。つまり、働かなくても給付が受けられるという「貧困の罠」の発生を防げる。

 第2に、税額控除(給付金)方式を採用することにより、高所得者に減税効果が偏りやすい所得控除(各種の控除によって課税所得を減らす)方式の場合よりも、所得再分配効果が高まる。

 第3に、行政当局による生活扶助の認定は、ややもすると恣意的になりがちであるが、所得基準という比較的客観的な基準によって恣意性が排除でき、最終的には行政組織の効率化にもつながる。

主要国の「給付付き税額控除制度」はどうなっているか

「給付付き税額控除制度」を導入している主な国として、米国、カナダ、英国、フランス、アイルランド、ベルギー、ニュージーランド、韓国がある。そして、これらの国は、(1)勤労所得税額控除と児童税額控除の両方が設けられている米国、英国、ニュージーランド、(2)勤労所得税額控除のみが設けられているフランス、ベルギー、アイルランド、韓国、(3)児童税額控除のみが設けられているカナダに分けられる。特に英国については、ブレア政権下で 2003年に採用され、貧困層の減少や経済の安定に寄与したとして高く評価されている。

 なお、オランダにも勤労所得税額控除制度があるが、税額控除還付(給付)は行わない。しかし、所得税で控除しきれない分については社会保険料からの控除を認めており、給付付き税額控除制度に比べて事務が比較的容易な制度になっている。

 こうした給付付き税額控除制度の申請においては、納税者番号(または社会保障番号)が使用されている。ちなみに、米国において勤労所得税額控除の申請は税務申告とともに行われるが、税務申告書には本人と配偶者の社会保障番号を記入し、勤労所得税額控除を申請するための添付書類類には、子どもの名前や社会保障番号を記入する。

 また、韓国は、給付付き税額控除の導入に当たり、税務行政に関連するインフラを強化した。もっとも、社会保障番号制度を持っているアメリカにおいても不正給付が多く(約3割)、大きな問題になっていることを考えると、納税者番号が不正給付防止の決定打となるとはいえないだろう。

 この納税者番号を活用して「社会保障と税の統合化」をするためには、かつて民主党が提唱していた社会保障保険料の徴収機関と税の徴収機関の統合といういわゆる「歳入庁構想」が必須である。

 世界のほとんどの国で、社会保障保険料の徴収機関と税の徴収機関の統合が行われているが、日本では、政権を取った民主党が「歳入庁構想」の旗を降ろしてしまい、実現のめどは立っていない。国税庁を所管する財務省が、自らの権限の弱体化を懸念し歳入庁構想に反対しているので、民主党はその官僚の壁を崩せないのだ。

世界の潮流とは似て非なる菅政権の「社会保障と税の一体改革」

 ここまでの話から、菅直人政権の「社会保障と税の一体改革」と、世界的な流れの「社会保障と税の統合化」は似て非なることがわかるだろう。

 菅政権の「税」は消費税だ。ところが、世界の「税」は所得税である。それは、社会保障が所得再分配を基本とするから、所得税を社会保障の中に組み込む方が、よりよい制度ができるからだ。消費税を社会保障財源というのは、その世界の流れにも反する。

 もともと消費税を上げるロジックとして、社会保障にくっつける発想には無理があり、社会保障を人質にして消費税を増税するための屁理屈にすぎない。本来の消費税は一般財源が普通で、社会保障などの特定財源にしている国はほとんどない。

 かつてドイツが、一度だけ税率アップの方便に使ったことがあるが、それくらいしか思いあたらない。日本での経緯は、1999年の自自公連立時に、当時の小沢一郎自由党党首に話を持ちかけて、「消費税を上げるために社会保障に使うと書いてください」と、財務省から要請して政治上の取引で了解されたもので、理屈はない。そうした経緯で法律ではなく予算総則に書いてある。

 さらに、消費税の性格からみても、社会保障財源にはなりえない。国はその機能として所得再分配政策を行うが、地方は公共サービス支出を行う。このため、それぞれの税源は、国は応能税(各人の能力に応じて払う税)、地方は応益税(各人の便益に応じて払う税)という税理論がある。消費税は徴税コストが少なく、安定財源であるので、地方税にふさわしい。

 ちなみに、分権が進んだ国では地方の税源になっている。社会保障は所得再分配政策であり国の業務になる部分も多いので、地方の税源である消費税は財源にできない。消費税を年金等の社会保障財源にするという話は、世界でほとんど聞かない話だ。

 欧州の国では消費税が中心であるという意見もよく聞くが、日本の人口や経済規模からすると、日本の中に欧州の国が10あっても不思議ではない。そう考えると、日本が道州制になって消費税は道州の税源になったらと考えれば、欧州の状況はより理解できる。いずれにしても、消費税は地方税のほうがいいだろう。


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[2010年12月16日]
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週刊ダイヤモンド「田中秀征 政権ウォッチ」
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田中秀征氏 [元経済企画庁長官、福山大学客員教授]

国民からも早期解散を望む声が…
消費税増税、TPP参加を掲げた菅政権の寿命

 通常国会が開会、菅直人首相の施政方針演説を聴いた。

 内容は今までの発言をパッケージしたもので新味には乏しい。気になったのは、首相の沈痛な面持ち。演説全体が切羽詰った悲鳴のように聞こえた。

 演説で首相は「ムダ使いの排除」も強調したが、これは参院選で示された「増税の前にやることがある」という世論を意識したのだろう。しかし、その具体策は何も提示されず、早口で通り過ぎた。昨年1月の「逆立ちしても鼻血も出ないほどしぼる」という自分の発言は忘れたのだろうか。要するに今回の演説は「ムダ排除はやる気がない」と言っているようなものだ。
“権力維持”に焦る菅首相が掲げた
「財政再建」と「TPP参加」

 首相は年明け以来、前のめり、爪先立って猛然とダッシュを始めた。政治の事情というより個人的事情によるものだろう。どうやって権力の座を維持していくか。それが焦りとなって表出している。

 首相は、「税・社会保障の一体改革」と「TPP参加」の2つの旗をますます高く掲げるようになっている。

 その上、野党がその協議に参加しなければ、それは「逃げている」のであり、「歴史に対する反逆行為」ときつく決めつけている。おそらく、予算委員会審議でも党首討論でもこの強硬姿勢はエスカレートするだろう。

 だが、この脅迫まがいの発言は逆効果になろう。首相はきっと「野党がこんな重要な課題に協力しないと、野党にとって大きなマイナスになる」と思っているのだろうが、世論はそう甘くはない。

 菅政権は既に「公約したことはやらないで、公約しないことをやる政権」という評価が定着してしまっている。“消費税”も“TPP”もそんなに重要なら、どうして政権交代選挙での争点にしなかったのか。もしも国民的議論が必要なら、今すぐに解散・総選挙をすればよいではないか。世論がそう受け止めるのは当然だ。首相が言うように、6月に政府案をまとめるなら、そのまま総選挙で信を問うべきだ。何よりも、昨年の参院選で菅首相自らそう約束している。
不信感から政権は立ち往生へ
世論は早期解散も容認している

 このままでは予算関連法案は成立しないだろう。そうなると4月には、菅内閣は立ち往生することが避けられない。早期解散を歓迎しなかった世論も、このところ大きく変わってきている。

 菅首相が本気で財政再建やTPP参加問題を考えているなら、まず自分が身を引いて総選挙で新しい政権の樹立を可能にすることだ。

 他でもない菅政権に対する強い不信感が、重要課題の解決を遅らせていることを、首相は理解していない。首相自身が信頼されていないから、どんなに正しいことを言っても世論は耳を貸さなくなっている。「笛吹けど踊らず」なのだ。