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かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞  279

2021-08-10 16:06:39 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究34(16年1月実施)
    【バランスシート】『寒気氾濫』(1997年)115頁~
     参加者:石井彩子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部 慧子  司会と記録:鹿取 未放


279 鉄を打ち抜くは鉄なり工場にプレスもっとも孤独な機械

        (レポート)
 鉄を打ち抜くのはプレスと呼ばれる鉄製機械であって、様々な作業用機械のある工場でもっとも孤独な機械だという。同胞あいあわれむという意味の逆を詠ったのだろう。(慧子)


         (当日意見)
★「同胞あいあわれむという意味の逆を詠った」ってどういう意味ですか?(鈴木)
★違うもので鉄を打ち抜くなら普通だけど、同じもので打ち抜くのは淋しい。(慧子)
★そういう意味なら同感です。(鈴木)
★人間と人間が闘うのは淋しくて、人間と猿だったら淋しくないかというとそうではない
 から。とても哲学的な歌ですね。(鹿取)
★あくまでも物質に収斂させての話だから。(石井)
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渡辺松男の一首鑑賞  278

2021-08-09 17:09:45 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究34(16年1月実施)
    【バランスシート】『寒気氾濫』(1997年)115頁~
     参加者:石井彩子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:渡部 慧子  司会と記録:鹿取 未放


278 CNC旋盤見る見る鉄削る 削られてゆく未来オモエリ

       (レポート)
 旋盤の運動制御をコンピューターによっているCNC旋盤。それが今みるみる鉄を削っている。削られてゆく見える物質。一方で目には見えない未来というものを作者は「オモエリ」という。コンピュータープログラムによって動いているので、そこに人間の勘やためらいはない。それを「オモエリ」と乾いた感じの表記とした。(慧子)


      (当日意見)
★下の句に既視感があって、誰かの本歌取りかなあと思うんだけど思い出せなくて。誰か知
 りません?まあ未来思えりって誰でも使うような言葉だけど、「思えり」ではいけない理
 由がこのカタカナの「オモエリ」にはあるんですよね。。(鹿取)
★削られてゆくに目が行っているのは、何かが無くなっていくようで。(鈴木)
★工場って何か作り上げるところなのに、何かが失われてゆく。(石井)
★そうですね、失われてゆくものが過去のものではなくて未来に繋げているところ、時の矢
 が前方から迫ってくるような感じが怖いですね。(鹿取)
★何かを作り上げるということは価値のあるものばかりを目指す訳で、そこから排除される
 ものがあるわけです。役に立たないと思われているもののなかに本当はすごいものがあっ
 たかもしれな いのに。経済成長だけが善という今はいきかただけど、成長しなくてもい
 いのではないか、そこで失われていくものは何なのか、そういうことを言っている。
     (鈴木)
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渡辺松男の一首鑑賞  277

2021-08-08 16:55:36 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究34(16年1月実施)
    【バランスシート】『寒気氾濫』(1997年)115頁~
     参加者:石井彩子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:渡部 慧子  司会と記録:鹿取 未放


277 フライス盤に西日当たりてしずかなり無人の時間よどむ日曜

     (レポート)
 西日は独特の強さをもって事物を圧倒する感じがある。無機質なフライス盤があってそこには誰もいない。そんな場の日曜日のある時間帯をよどませるほどなのだ。(慧子)


      (当日意見)
★フライス盤ってどんなものか分からないのでネットで調べてみました。(みんなに写真
 を見せて)こんなのです。(鹿取)
★フライス盤って回転して手で材料を削っていく、そんな機械です。CNCはコンピュー
 ター制御ですね。ソフトを組み込んで設計どおりに作ってくれる。平日はフライス盤を
 扱う人たちがいたんだけど、日曜だから無人であると。(鈴木)
★無人の工場で、静止している機械に西日が当たっている、時間がよどんだ感じってとて
 もよく分かりますね。(鹿取)

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渡辺松男の一首鑑賞  276

2021-08-07 17:26:17 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究34(16年1月実施)
    【バランスシート】『寒気氾濫』(1997年)115頁~
     参加者:石井彩子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部 慧子  司会と記録:鹿取 未放
   

276 釜山の火口を覗ききたる目はバランスシートを読み取れぬなり

      (レポート)
 暗から明へ移るとすぐにはものを正視できないことがある。人体のすばらしい機能を享受して生活しているが、微調整を必要とすることもある。掲出歌、大きな火口を覗いたのち、細かいものを読み取ることに体がとまどっているのだろう。(慧子)


      (当日意見)
★前の歌からすると難しいお仕事を韓国との間でされているのではないですか。(M・S)
★韓国と貿易をされていて出張に行かれた。仕事の前に観光に行かれて火口を覗いて来られ
 た後なので経済取引のバランスシートが読みとれないという場面なのでしょうね。(石井)
★いや、私は火口を見てきたのと、バランスシートが読み取れないの間にはタイムラグが
 あると思います。つまりバランスシートが読み取れないのは帰国後で、作者がそういう
 父の様子を端から観察している。もっともどこにも主語は出てこないですが、前の歌か
 らすると父でしょうね。火口を見て、世界の深淵に触れたのですね。そういう昂揚した
 精神状態で、急にはシビアーなビジネス社会の現実、ありていにいえば損得勘定に対応
 できない状態をバランスシートが読み取れないと言っている野でしょう。まあ、タイム
 ラグはあっても無くても内容的には同じです。(鹿取)
★では、火口は比喩でもいいと。(慧子)
★いや、ダイナミックな宇宙の活動の一端を覗いたという意味では現実の火口の方がよ
 い。しかも釜山だから、異文化というのも大事かなあ。(鹿取)
★この頃は韓国の方が経済的にまだ貧しくて、それを見てきた。そのことを火口という比
 喩で言っている。だからバランスシートが読み取れない。(鈴木)
★いや、慧子さんとも鈴木さんとも違う意見です。むしろバランスシートの方がビジネス
 社会の 比喩でしょうね。火口を見た目が慣れないから細かい字のバランスシートがみ
 にくい訳ではな いのです。だからこれは、レシートとか値札とか他のものには替えら
 れない意味があります。それから、火口とバランスシートの対比は韓国の貧しさとか
 では無くて、(たぶんお父さん の)個人の精神の深淵と現実世界とのバランスなのだ
 ろうと思います。(鹿取)

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渡辺松男の一首鑑賞  275

2021-08-06 18:31:10 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究34(16年1月実施)
    【バランスシート】『寒気氾濫』(1997年)115頁~
     参加者:石井彩子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:渡部 慧子  司会と記録:鹿取 未放
   

275 商工会会長渡辺巳作氏が巨大茶碗で茶を飲む朝

       (レポート)
 商工会会長渡辺氏が、茶を飲むというその状況、人物像などを含めて「巨大茶碗」が実に多くを語っている。責務上、何かの決断が腹にあった朝なのだろう。結句からそんなことを思う。戦いの場で武士が茶をたしなんだという歴史的事象が頭をよぎった。(慧子)


        (当日意見)
★「渡辺巳作氏」は作者のお父さんという設定なのでしょうね。朝、お茶を飲む姿を見てる
 わけだから。(鹿取)
★経済が下降気味の時代、経済成長の時代には会員を束ねてきたという自負があって、そこ
 で商工会会長の渡辺さんが巨大茶碗で茶を飲んでいるわけでよく分かります。(鈴木)
★朝で終わっているので、やはり会長という公の仕事の上で大きな決断をしないといけない
 場面 かなと思いました。(石井)
★私は商工会会長の毎朝の習慣を描写した歌と思っていました。いつもそうするし、今日も
 そうだという。まあ、慧子さんや石井さんのような取り方もできますね。(鹿取)


      (後日意見)
 『寒気氾濫』冒頭の「地下に還せり」の章に〈土屋文明さえも知らざる大方のひとりなる父鉄工に生く〉がある。(鹿取)

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