かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 201

2021-04-11 19:57:37 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究24(2015年2月)【単独者】『寒気氾濫』(1997年)83頁~
   参加者:かまくらうてな、崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:崎尾 廣子 司会と記録:鹿取 未放
            
  ◆欠席の石井彩子さんから、まとめ後にいただいた意見も載せています。
    

201 人間の裸形をおもい冬樹をおもいプロメテウス以前をおもう

        (レポート)
 火を与えられたときから人間は自分の都合で効率を重視し環境を破壊しつづけてきている。一方木は常に自然と折り合いを付けながら今日まで生命を繋いできていると思う。その落差を思っているのであろうか。環境破壊が続く今の地球への危惧があるのであろう。(崎尾)


      (意見)
★先ほどからの皆さんの意見を聞いていたら、この歌は冬樹に単独者への思いが重なっているのか
 なと。(崎尾)
★ここは客観的な「冬樹」で「単独者」ではないと思います。プロメテウスって、レポートのよう
 に神様から火を与えられたのではなく盗んだんですね、神話では。だからその罰で岩に鎖で繋が
 れて鷲に内臓をついばまれる刑にされた。朝になったら内臓は再生するので毎晩内臓をついばま
 れるという苦悶を科せられた。しかし彼が火を盗んでくれなかったら人類の文明は発達しなかっ
 たし、今でも洞窟に住んで裸で震えていたかもしれない。でも火を使えない人間以外の動植物た
 ちは、この歌の冬樹同様今も自然のまま寒さに耐えているわけです。もっとも松男さん、人間以
 外の動植物を決して蔑しているわけではないですけど。(鹿取)
★ギリシャ神話には火の問題の他に、プロメテウスが泥と水から人間を創り、獣の持つ全能力を付
 与したと書いてある。この歌は火のことではなく人間を創ったことに関連するのかな。(鈴木)
★プロメテウスは人間と神様の媒介をするんですね。その前は人間も木も同じだったんじゃない。
   (曽我)
★鈴木さんの話聞くと、人間の裸形が活きるんですね。(崎尾)
★人間の裸形を思うことでプロメテウス以前ってどうだったんだろうかと想像している。(鈴木)
★いや、プロメテウスが人間を創ったのだとすると、プロメテウス以前には人間は存在しなかった。
 だからプロメテウス以前には人間の裸形もありません。人間を創った後、プロメテウスはその人
 間が裸で震えているのを見て可愛そうになって火を神様から盗んで人間に与えた。だから人間の
 裸形と冬樹を並べた時、(冬樹も葉を落として裸形ですよね)作者が考えていたのはやはり火の
 問題だと思います。(鹿取)


      (まとめ)
 鑑賞の場ではプロメテウスの神話に終始したが、学術的には人類が火を使い始めたのはおよそ200万年前だそうだ。(鹿取)


     (後日意見)
 天界から火を盗んだプロメテウスのおかげで、人間は文明技術を発展させてきた。第2、電気
第3、原子力とだんだんと火は進化する。おかげで現代人は便利さの恩恵に浴しているが、いまや原子力発電は人間存在にとっての脅威となってしまった。あのプロメテウス以前の冬樹は風雪に耐え、その傍で脆弱な人間が裸で打ち震えていた時代を思う。(石井)

コメント
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