かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 107

2020-10-07 18:38:41 | 短歌の鑑賞
     渡辺松男研究12【愁嘆声】(14年2月)まとめ
       『寒気氾濫』(1997年)44頁~
       参加者:渡部慧子、鹿取未放、鈴木良明(紙上参加)
        レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取 未放
       

107  鴉A影をおおきく羽ばたけり冬のたんぼに涙はいらぬ

       (意見)
 「鴉A」という言い方は、何匹かいる鴉のなかに差異をみて、「おおきく羽ばたく」鴉の存在を強調しているのである。春から秋にかけてのたんぼは、鴉をはじめ大小さまざまな命が生息する、弱肉強食の世界であり、生き物にとっての涙の季節でもあるのだ。ところが米の刈り入れを終えた冬ざれのたんぼは、閑散としてさばさばとしている。生き物たちは、それぞれの種ごとに冬眠や来春の次世代へむけた準備にとりかかっている。下句の「冬のたんぼに涙はいらぬ」は、そのようなことを物語っている。(鈴木)

         (発言)
★上下の切れがいろいろな読みを誘うんです。私は鴉と影の逆転と読みました。たとえば影
 が実の存在を危うくさせたり、魂を抜き取るような力を持つ等。だがここは「冬のたんぼ」、
 鴉とその影が逆の関係になろうとも、悲惨はなく「涙はいらぬ」との表現になったのでは
 ないかと考える。(慧子)
★鴉であっても影と逆転したらとても怖いことで、人間ではなく鴉のことだから涙はいらな
 いというのは渡辺さんの発想ではない。そんなふうに人間と動物を区別しない人だから。 
 鴉AというからにはB、C、D、E……と鴉はN羽いるわけだけど、なぜ鴉一羽とか一羽
 の鴉ではなく鴉Aなんだろう。巷では少年Aとか少女Aというのは犯罪を犯した少年少女
 を匿名にする為に使われることが多いけど、悪い鴉ではなさそうだし。鴉が一羽飛び立っ
 たら涙ぐましい光景だけど……。鴉Aが悠然と飛び立った、そして跡には抒情も何も無い
 即物的な冬の田んぼが残った。そういうことかなあ。(鹿取)
★小池さんが鳥に甲だとか乙だとか付けていなかった?知らない?(慧子)

    *慧子さん発言の小池光の歌は次のもの。
       甲の鳥杭の上(へ)にをり 乙の鳥その杭にゐる一年ののち
           小池 光 『時のめぐりに』(2004年)


コメント
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