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かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

馬場あき子の外国詠 7 ロシア

2025-08-19 09:14:44 | 短歌の鑑賞

2025年度版 馬場あき子の外国詠1(2007年10月実施)
         【オーロラ号】『九花』(2003年刊)135頁~
   参加者:K・I、N・I、崎尾廣子、Y・S、T・S、藤本満須子、
       T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:K・I   司会と記録:鹿取未放                  
        


7 神を讃ふるうたの静かな暗い渕に金色(こんじき)こまやかな裸形をりたり

         (まとめ)
 6番歌(金いろの玉葱形の屋根の下聖母眼を伏せてしづけきロシア)と同じヤロスラブリにある聖母女子修道院の場面であろう。賛美歌が静かに流れている、その暗い渕に金色に描かれた裸形のキリストがいる、というのであろう。
 「暗い渕」は、歌の内容としてのそれでもあり、教会の建物の中の位置関係をあらわすのでもあろう。ロシア正教では像は安置されず壁などにイコンとして描かれるので、賛美歌の歌われている堂の中央に対して、周囲にある薄暗い壁などを指すのだろう。あるいは、凡愚の人智では至るのが難しい教義の深淵であるのかもしれない。金色はその深淵を象徴的にあらわしている色なのかもしれないし、こまやかなのはその造形や彩色の丁寧さをあらわしているのだろう。6番歌の続きであることを重視すると裸形は聖母マリアに抱かれた幼児のキリストだろうか。それとも、奥深い精神性をたたえた磔刑のキリストだろうか。
 「あり」ではなく「をり」といったところに生きてこころが動いている人格(神格)を感じる。6首目の聖母と同じようにやはり人々を見ているのであろう。七・七・六・九・七と一・三・四句目を字余りにして、流れをわざと滞らせているようだ。(鹿取)

   

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馬場あき子の外国詠 6 ロシア

2025-08-18 12:23:34 | 短歌の鑑賞

        

              タマネギ型ドームの例

 

2025年度版 馬場あき子の外国詠1(2007年10月実施)
         【オーロラ号】『九花』(2003年刊)135頁~
   参加者:K・I、N・I、崎尾廣子、Y・S、T・S、藤本満須子、
       T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:K・I   司会と記録:鹿取未放      

   

6 金いろの玉葱形の屋根の下聖母眼を伏せてしづけきロシア

            (まとめ) 
 金いろの玉葱形のドームを持つ教会はロシアのいたるところにある。だからこの場を特定する必要もないのであろうが、その厳しく静謐なイメージから、この歌と次の歌【神を讃ふるうたの静かな暗い渕に金色(こんじき)こまやかな裸形をりたり】はヤロスラブリにある聖母女子修道院を詠ったもののように思われる。
 しかし、下の句の「聖母眼を伏せてしづけきロシア」で、作者は何をいいたかったのであろう。なぜ聖母は眼を伏せているのだろうか。宗教が禁じられたソ連時代のことを思っているのだろうか。(ボルシェビキは、一説には全国5万以上の教会を閉鎖あるいは破壊したそうである。)迫害された民衆の苦悩だろうか。現代の利潤追求にあけくれ、宗教が民衆のこころから忘れ去られていくことをであろうか。また、なぜロシアはしづかなのだろうか。戦争がないからか。政争がないからか。一党独裁で民衆のさまざまな考えが抑えられているからか。「て」を入れなければ7音の定形に収まるところをわざわざ「て」を入れているのはここでたゆたいを出し、立ち止まって読者に何かを考えてほいしからであろう。(鹿取)

 

   

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馬場あき子の外国詠 5 ロシア

2025-08-17 11:04:44 | 短歌の鑑賞

 

                               

   ヴォルガ川クルージング中、対岸の丘の上に建つレーニン像を見つけた

 

         

 

2025年度版 馬場あき子の外国詠1(2007年10月実施)
         【オーロラ号】『九花』(2003年刊)135頁~
   参加者:K・I、N・I、崎尾廣子、Y・S、T・S、藤本満須子、
       T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:K・I   司会と記録:鹿取未放                  


 5 レーニン像全部倒されしわけでなく旅に六人のレーニンに遇(あ)ふ

            (まとめ)
 「倒されし」の「し」が、過去の助動詞として正統に使われている例。ソ連が崩壊したとき、われわれはレーニン像を倒すシーンを幾たびもテレビで見せられたが、旅に来てみたら「いやあ、残っていたよ」というのである。田舎にいくほど残っているといわれているが、ペテルブルグでもモスクワでも確かに見た。ヴォルガ川のクルージング中にも対岸に巨大な像を見たし、スズダリの市庁舎やヤロスラブリでも見た。
 ただし、私はかぞえなかった。かぞえたところに作者のレーニンへの、ひいては革命によって共産主義体制を勝ち得た、そして今はなき「ソ連」という国への濃い思い入れがうかがえる。しかも「七人」だと嘘っぽいが「六人」という数字がリアルである。像を残しておきたいと思っている人が存在しているということでもあろう。(鹿取)

   

 

 

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馬場あき子の外国詠 4 ロシア

2025-08-16 10:10:23 | 短歌の鑑賞

    

         スモリヌイ修道院、立っているのは私

 

2025年度版 馬場あき子の外国詠1(2007年10月実施)
         【オーロラ号】『九花』(2003年刊)135頁~
   参加者:K・I、N・I、崎尾廣子、Y・S、T・S、藤本満須子、
       T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:K・I   司会と記録:鹿取未放                  


 4 夕立が倒した樹あり裂きし樹あり朝覚めてロシアの激しさを知る

           (まとめ)
 毎日降る夕立が樹木を倒すことさえある。実際、朝方訪れたスモリヌイ修道院の庭に裂かれた樹木が倒れていたことがあった。日常的な夕立から「ロシアの激しさ」を見ている点、裂かれた樹からロシアの本質への飛躍が面白い。(鹿取)

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馬場あき子の外国詠 3  ロシア

2025-08-15 10:45:23 | 短歌の鑑賞

2025年度版 馬場あき子の外国詠1(2007年10月実施)
         【オーロラ号】『九花』(2003年刊)135頁~
   参加者:K・I、N・I、崎尾廣子、Y・S、T・S、藤本満須子、
       T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:K・I   司会と記録:鹿取未放              

 

3 三十三度異常の夏のオロシアのイワン雷帝のやうな夕立

                 (まとめ)
 イワン雷帝は、ロシア帝国の皇帝イワンⅣ世(1533~1583在位)のことで、農奴制につながる専制政治体制(ツァーリズム)を確立し、息子を殺すなどロシア史上最大の暴君とされ「雷帝」と呼ばれている。その暴君が突然癇癪を起こして雷のように怒り狂っているような夕立だ、というのであろう。しかしここでは何か陽性な怒りで、この歌に「イワン雷帝」に対する悪のイメージはない。オロシアという古い呼び名も夕立によくマッチしている。
 私も馬場のこの旅に同行したが、7月中旬のロシアの気温は平均17度、日本の4月頃の気候だから羽織るものを用意するよう旅行社から言われてでかけてみると連日33度、34度の暑さだった。地球温暖化がいわれて久しいが、冬の長いロシアの人々はむしろこの気温を喜んでいるように見えた。クルージング中に、モスクワ川やヴォルガ川で喜々として泳いでいる人々の姿をよく見かけた。そして、そういうクルージングの最中にも、毎日突然夕立が訪れるのだった。予兆なく突然大粒の雨が降り出すので、その都度、甲板にいる客はあわてて屋根のある方向めがけて駆け込むのだった。だが、その夕立はむしろ旅行者を爽快な気分にさせてくれた。
 蛇足だが、『罪と罰』でラスコーリニコフが老婆を殺すのは、やはり「七月はじめの酷暑の頃」とある。もちろん百年前にもこういう暑い夏はあったのである。(鹿取)

 

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