だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

加子母(3)巡礼

2008-12-26 00:47:26 | Weblog

 「持続可能性の学校inかしも」の実現可能性をさぐるべく、仲間と共に加子母を訪問。ふれあいのやかたかしもで地元のみなさんとおしゃべりをする。
 たまたまこの日はこぶしの会のみなさんがお正月を前に門松づくりをやられていた。こぶしの会は林業に関わる女性のグループである。日本全国に林業地域はたくさんあるけれども、男性でなく、女性のグループがあって活発な地域活動をしているところがどれほどあるだろうか。おばちゃんたちはつやつやのお肌にきれいにお化粧してにぎやかに作業している。それにIターンの若い女性陣が加わる。明るく頼もしい光景である。
 お昼のお弁当は地元のレストランのお手製。図々しくもごいっしょさせていただいた。一見普通の仕出し弁当にもかからわず、さりげなくヘボ(はちのこ)が入っていた。名古屋で買えば一瓶一万円もする知る人ぞ知る高級品である。
 こういう加子母の日常の風景に思わずうなってしまう。

 「かしも通信」の新年特別号を一足早く見せていただいた。みひらきは「百年後の加子母すごろく」である。地域のみなさんにインタビューした「百年後の加子母の姿」を順番にすごろくにしている。イラストは加子母在住の美術家本間希代子さんの手になるおしゃれなすごろくだ。「自然も人も今と変わらない加子母(16歳)」「今よりくるまが少なくなりもっと自然がいっぱい(小3)」「自給自足で元気にやっている」「でっかい木があって加子母市として独立している」「動物と人間が話ができて仲良く暮らす(小4)」「人も物も賑やかになりみんな今のままの商売が続けられている」・・・ようは、これまでやってきた暮らしをこれからもやっていきたい、もっと磨きをかけたい、そういうことである。
 私はあちこちの地域づくりの現場に立ち会わせていただくことが多いが、地域の皆さんから出るのはたいていは不平不満の声、あるいは自責の念である。こどもから高齢者まで、一様に今の暮らしに満足し誇りを感じている地域に今まで出会ったことはない。

 持続可能な地域としての加子母の姿は、しかしながら、そして残念ながら、他の地域の参考にはあまりならない。なぜなら、自然と社会の基盤があまりに違いすぎるからだ。

 加子母の自然資源はなんといっても山の森林である。山には100年生の大径木が生える。経済的にやっていける林業の山とは、さまざまな林齢の山がモザイクのように同居する山である。仮に間伐材の値が安くとも、大径木の収益で若い林の間伐ができる。このような山をつくるには最低100年の年月がかかる。
 加子母のトマトのブランド力の基盤はその土壌にある。長年にわたる研究と試行錯誤の後に確立した土作りが決め手だ。
 林業の女性グループがあるほどの加子母の活発な住民活動は、「教育が大事」という100年前の村是を忠実に守って暮らしてきた人々の歴史の上にある。
 いずれも一朝一夕にはまねできないものばかりだ。

 他の地域はといえば、間伐ができずに荒廃した人工林が広がり、見渡す限りの耕作放棄地にはもう樹木が侵入しはじめている。高齢化した集落からは子どもの姿が消えた。地域のお役を引き受ける人がいなくなり、村の祭も休止。お年寄りは一日家にこもってテレビを見ている。このような状況の中で何かコトを起こそうとするのは、至難の業である。

 では、参考にならないのに、なぜ「学校」を加子母でやろうとするのか・・・それは、誤解を恐れずに言うならば、「聖地巡礼」である。

 急速な経済の悪化によって、この年末はこの国でも、悲しい気持ちで過ごさざるを得ない家族がたくさんいる。グローバル経済の中に巻き込まれるやり方でしか暮らしていけない圧倒的にたくさんの人々は、大きな不安を抱きながら年を越そうとしている。真っ先に雇用調整の対象になっている外国人移民の状況はたいへんなことになっているだろう。仕事を失い家族が離ればなれになってしまう話も聞こえてくる。いつから日本はこんな悲しい国になったのだろうか。

 加子母はといえば、地元のみなさんとのおしゃべりの中で「加子母はいきだおれて死ぬということができないところだね」という話がでた。つまり誰かが助けてくれるからだ。
 社会の中に暮らしの不安が蔓延しているからこそ、安心した暮らしの姿に触れてもらいたい。地域の自然を大切にし、人を大切にしていれば、こんなふうにずっと安心で楽しい暮らし、つまり持続可能な暮らしができるようになるんだ、という実例を目にしてほしい。そして、その心に触れることで、希望の灯を抱いてほしい。つまり「聖地巡礼」である。

 平成の合併で加子母村がなくなる閉村式で歌われるためにつくられたのが「かしものうた」だ。この歌詞は、加子母のこどもたち全員が詩を書いたものをまとめたもの。曲は村に住む作曲家原ゆうみさんがつけた。

 森を守り森に育てられ 暮らしてきたよ
 川を守り川に育てられ 暮らしてきたよ
 ・・・・・・
 今 あたらしい風がふく 
 峠を越えて風がふく
 大地のように いつまでも かしものこころ

 私にはこどもたちが歌うこの歌が「賛美歌」のように聞こえる。時に絶望にうちひしがれそうになる私たちこそ、「かしものこころ」につながりたいと思う。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿