だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

川や海をきれいにするために食生活をみなおそう(3)

2006-05-31 04:40:10 | Weblog

 前の記事で紹介した愛知県水産試験場の黒田伸郎氏たちのグループは、矢作川の河口部でアサリが「湧いて出てくる」プロセスを科学的に記述することに成功している(黒田伸郎「内湾における森林・農地由来の環境影響物質の循環の解明」(独)農業環境技術研究所『森林・農地・水域を通ずる自然循環機能の高度な利用技術の開発』2003年)。アサリは産卵・ふ化後、幼生はプランクトンとして水中を漂い、それが大きくなってある大きさになると、海底に住み着く。黒田さんらは、「間接蛍光抗体法」という方法で、水の中のアサリ幼生の密度を測定した。
 それによれば、矢作川河口域では、5月から11月まで継続的に海水1立方メートルあたり10000個をこえる幼生が漂うという。一方、河口域では川から流れ込む淡水が海水よりも軽いために、湾内に入ると表層を湾口へと流れ、逆に下層では、海水が湾口から湾奥へ、さらに河口域へと流れ込んでくる。この水の流れはエスチャリー循環と呼ばれる。アサリの幼生は、この流れにのり、最初は表層を湾内へと拡散し、そこで成長して大きくなる。そうすると沈んできて、今度は下層の流れにのって河口域に帰ってきて(!)干潟に着床しそこで成長してまた産卵するというのだ。これがアサリが「湧いて出てくる」メカニズムである。自然の驚異というしかなく、そのような現象がすぐ近くで起きているのは意外というか、ただただ驚いてしまう。
 またこの研究では幼生が植物プランクトンを食べる速さも測定し、平水時には川から流れ出てくる栄養物質だけでは、大量のアサリ幼生のエサが不十分であることも明らかにした。したがって、エスチャリー循環によって下層を帰ってくる水が窒素やリンに富んでいることも利用しているはずである。

 とすれば、川と内湾の関係のポイントは、川の水質もさることながら、川の水量ということになる。川の水量が十分あればエスチャリー循環が活発になる。ところが、日本では(日本に限らず)川の水量は水利用によって減る傾向にある。矢作川上流にはなんと七つのダムがあり、本川から周囲に水が逃げていっている。矢作川に設定されている水利権をすべて足しあわせると、実際に流れる水の量を超えると言われている。特に西三河地方を潤した明治用水による取水は大量で、その水は本川には戻ってこずに、田畑で蒸発したり、別のところから海にでることになる。
 また、川を流れ下る土砂の量もポイントのひとつである。その土砂が湾口に堆積して干潟や浅場をつくる。それらは潮流・海流によってより深いところに常に運び出されるので、川からの供給がなければ干潟がやせていってしまうことになる。上流にたくさんのダムがありそこで土砂がせき止められると、その分、河口にでてくる土砂の量は減ることになる。一方、ダムに堆積する土砂はダムの機能を失わせていく。(一部ではダムに堆積した土砂を浚渫してダンプカーを連ね、石油を大量に消費して海に運ぶということをしているが、何をやっているのか私にはよくわからない。)

 明治用水の完成は江戸時代から西三河の人たちの悲願であり、その灌漑用水が大正期には「日本のデンマーク」と呼ばれる農業先進地を作り出した。それが現在の西三河地方の発展の礎になった。一方、今日では水を節約して大切に使う農業技術がたくさん開発されている。それらはたいていは水資源に乏しい乾燥地域の農業のために開発されたものであるが、海の生態系に思いをはせて水を大切につかう農業というのも今日では必要とされているのかもしれない。

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