だいずせんせいの持続性学入門

自立した持続可能な地域社会をつくるための対話の広場

由布院・江藤農園

2013-01-21 23:14:50 | Weblog

 

 温泉で有名な大分県由布院に学生たちと観光地としての持続可能なまちづくりについて調査に来ている。今日は地元の専業農家である江藤農園の江藤さんを畑に訪問し、観光業と農業の連携について聞いた。由布院の駅のすぐ裏、借りているという畑には、わずかに芽がでたタマネギとまるまるとしたカブ、アカカブがうわっていた。目の前には冷たく乾いた青空の中にうっすらと雪をまとった由布岳がどーんと。絶景である。

 江藤さんは40代半ば。若いころは農業が嫌い、由布院が嫌いと外に出て商売をしていたそうだが、長男だからということでUターンして農業を継いだ。父親は高原ホウレンソウの栽培をしていたが、そのようなやり方は魅力がないと模索するうちに、温泉街の旅館の料理長から、地元の野菜で料理をつくりたいから野菜を作ってくれないか、ともちかけられたという。
 以来、旅館とのつきあいが広がり、今では20数軒の旅館の板場に直接野菜を持ち込む。今と少し先に収穫できる作物のチラシを板場に配っておき、その中から注文がある。ファックスでの注文はとらない。すべて電話か対面で料理人と話しながら注文を聞く。おもしろいのは、カブのちっちゃいのとか、ニンジンの葉っぱとか、ようは間引き菜のような市場には出ないものも、注文に応じることができる。ひとつの野菜をどう料理するか、料理人と農家が厨房の中で話し合いながら出荷の注文が決まるのだという。今では年間130種類の作物をつくるまでに。

 料理長の舌はごまかせない。肥料が効いた直後の味の違いを見抜かれるという(おそらく硝酸イオンの苦みを感じるのだろう)。「もう1週間待つわ」となることもあるという。農薬は極力使わないけれども、使う時は料理人にも話し了解をとるという。
 また、若い修行中の料理人が、料理長に言われて畑に勉強に来るという。そうすると料理をする際に野菜をムダにしなくなるという。大根の皮もスープのだしにする。そうやって修業した若い子が独立して店を出したりすると、野菜の注文が来るようになるという。

 農家が厨房に入り、料理人が畑に来る。すばらしい。その信頼関係の中で作付けされ、収穫され、料理される。料理人は思い通りの素材が手に入り、農家はきちんと売り上げがあって食っていける。これぞ露地農家の考えうる限りの最良の姿であろう。

 それでも、江藤さんは由布院の農家の間では孤軍奮闘、彼に続く農家はいないという。江藤さんはノウハウを全部伝えるから若い仲間を増やしたいと思っているけれども、そういう人はいないという。
 畑は2ha。米も委託を含めて3haを作付ける。これを家族6人で経営するというから、その忙しさが想像される。強靱な体力がなければできない仕事である。「子どもたちに継いで欲しいですか」という学生からの質問に、江藤さんは「子どもに魅力に思えるような農業をやんなきゃね」と笑う。また「TPPが最大の脅威」だとも。

 市場を通さず顔の見える関係の中での農業の大切さが指摘されるようになって久しい。しかし言うはやすく、実現するのは難しい。それを実現させたのは江藤さんによれば、「ご縁」とのこと。最初に声をかけてくれた料理長がいなかったら、しばらくして農業はやめていただろうとのこと。もちろんそれは偶然という必然。江藤さんが引き寄せたご縁に違いない。

  寒風の中にも午後の日差しがきらきらする中で、江藤さんの表情は、地に足をつけているモノが共通にもつ、おだやかな明るさに充ちていた。


 


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1 コメント

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いい話ですね!! (バッシー)
2013-01-22 15:43:45
農家と生活者との関係が江藤さんと料理屋さんとの関係になるのが一番ですよね。
仲買や市場を経由しないで生産者と消費者がつながれば生産者も作り甲斐が生まれ農家としてやりがいが出てきます。
アメリカではじまっている地域支援型農業生活者が地域の家族農業を応援し農村環境を守りながら地域社会を維持しようとしているCSA(Community Supported Agriculture)ですね。
僕も一時は名古屋の地域委員会で夢を見たのですが
今では頓挫しています。
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